引越し先のマンションに着いたのは、昼前だった。
ここからの作業は、時間と体力の勝負だ。
軽いものは1人で、タンスのような重いものは複数人で。
今回のプランに設置は入っていないらしいから段ボールは指示される場所に運ぶだけ。
トラックから荷物を下ろし、順番に箱を並べ、家の中に運び入れる。


見れば、俺が持っていたのは例の“ワレモノ注意”のシールが貼られた小さな箱。

「それ大事な壺が入ってるやつ。さっき積んだ場所から落ちてないわよね?」
「はい、ちゃんと積んでありました。中も揺れてなかったと思いますよ」
「だったら、この後も慎重に運んでね。割れたら大変だから」

プレッシャーをかけるような言い方だったが、俺は黙ってうなずいた。
中身はわからないが依頼主がそこまでいう品。ならば慎重にならざる得ないだろう。
ゆっくり、でも確かに、ちゃんと水平を保って運びこんだ。
そして、そっとリビングに置いて出て行こうとした瞬間だった。