清掃の仕事が終わったその日の午後、私はいつものように更衣室で着替えを済ませ、タイムカードを打とうとしていた。そこへ、フロントのスタッフ・鈴木さんが呼び止めてきた。


「はい……今朝、平松さんからも」

鈴木さんはやや気まずそうに視線を落とした。

「お客様、かなりお怒りでね。“ゴミがそのままだった”“タオルが湿っていた”って……。それで、“掃除すらされていない部屋に泊まらされた”って」

私は黙った。確かに清掃した。あの部屋に手抜きなんてなかった。

「でも私、ちゃんと清掃しました。平松さんのチェックも受けてますし……」
「うん、わかってる。だけど、お客様が“そうだった”って言ってる以上、対応せざるを得ないんだよ。今は“清掃漏れ”として処理してる。追加の謝罪対応は、こっちでやっておくから」
「……わかりました」

事実ではないのに、自分の落ち度として処理される。腑に落ちない。でも、ここで抗議しても何も変わらないのだろう。