廊下の角を曲がったとき、ふと足が止まった。
清掃対象ではないはずの部屋の扉が、ほんのわずかに開いていたのだ。
このホテルは古く、オートロックではなく鍵で開け閉めするタイプ。
だからこそ、閉め忘れなら放っておくわけにはいかない。

「……失礼します」

私はそっと扉を押して中に入った。
瞬間、違和感が全身を駆け抜けた。


けれど、掃除リストにも記録にも、この部屋の使用履歴はなかった。
昨日も今日も“空き部屋”のはずだったのに。

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