スマートフォンをはじめ、タブレットやモバイルPC、ウェアラブル機器、ドローンやAR/VR機器など、モバイル機器の購入指標の1つにバッテリーの持ち時間がある。そしてバッテリーが大容量化しても充電時間は短縮したいという需要にあわせて、あらゆるモバイル機器へ急速充電機能の搭載が進んでいる。
モバイル機器は、常に小型化と軽量化が求められており、急速充電機能を構成する電子部品も例外ではない。しかし、現状でもすでにこれらの要素は突き詰められた開発が行われているうえ、周辺電子回路を保護する機能など安全面への配慮も必要であり、容易なことではない。
例えば、今や一人一台が当たり前になったスマートフォンでは、MOSFET一つに対してもメーカー各社が厳格なスペックを指定している。まず、MOSFETを挟んだ受給電双方向の電子回路の保護を行うこと。そして、正常に動作できる電圧限界値は高く保ち、発熱に繋がる電力ロス(オン抵抗)は低く抑えること。一般的なMOSFETで彼らの要求を満たすためには、最小でも3.3mm角程度のMOSFETが2つ必要だった。いくら、わずか数ミリの電子部品とはいえ、モバイル機器の限られたスペースの中では、その実装面積が大きな課題となってしまうのだ。
そんな中、日本の電子部品大手のローム株式会社が2.0mm×2.0mmのパッケージサイズながら業界トップクラスの低オン抵抗を実現する、急速充電に最適な小型MOSFETを発表して注目を集めている。
同社が開発に成功した新製品「AW2K21」は、ロームの独自構造でセルの集積度を向上させることで、チップ面積あたりのオン抵抗を低減することに成功。そのうえ、一般的な縦型トレンチMOSでは裏面に配置されるドレイン端子をデバイス表面に配置し、WLCSP(Wafer Level Chip Scale Package)を採用したことで、同サイズの一般品と比べると圧倒的な低オン抵抗を実現している。また、1つの素子にMOSFET2つ分の構造を作り込むことで、受給電回路で求められる双方向保護用途などにも1つで対応可能な製品だ。
同社の情報によると、モバイル機器の受給電回路において、新製品はこれまでの一般品MOSFET2つで構成した場合と比較して部品面積を約81%も削減し、オン抵抗も約33%低減できるというから驚きだ。
普段は特別に気にすることもなく使用しているスマートフォンやモバイル機器。でも、その小さな筐体の中では、技術者たちが、わずか数ミリにも満たない世界で鎬を削り合っている。拡大する充電機器市場の中、日本の高度な技術力が大きなシェアを獲得することを期待したい。(編集担当:藤原伊織)