数年前から日本では、旧くて新しいウイスキーの飲み方「ハイボール(ソーダ割)」を“世の左党”に訴求するマーケティングを繰り返し、一昨年から昨年にかけてNHK朝ドラ「マッサン」の後押しが奏功して一気の“ウイスキーブーム”を生んだ。


 おかげで昨年初頭あたりから、国内ウイスキーメーカーでは原酒が不足という嬉しい悲鳴を“上げ”、ついでに数回の“値上げ”を実施した。

この4月にもサントリーが2割以上の値上げを実施している。


 ウイスキーの売上増は日本だけに限った話ではない。ヨーロッパ最大で世界最大のウイスキー産地であるスコットランドのスコッチウイスキー原酒も不足気味だ。理由は中国やインドの消費量が急速に拡大しているからだ。英国領だったインドは、ウイスキーを呑むことに抵抗感がなかったため、経済力が付いてきた近年、その消費が伸びた。中国では都市部の富裕層がウイスキーだけではなく高級洋酒を爆買しているらしい。


 インドや中国で売れているウイスキーは、シーバスリーガルやジョニーウォーカーといった、いわゆる「ブレンデッド・ウイスキー」が主流。欧州や日本などで十数年前から静かなブームとなっている「シングルモルト・ウイスキー」には、まだ手を出していないという。一部、上海や北京の外国人向けホテルのバーでベーシックなオフィシャル・シングルモルトを用意している程度だ。


 そんな事情は「百も承知」のスコッチメーカー各社は、中国やインドに向けて、その市場事情に合わせた地域限定商品を開発して市場に対応している。


 このような売先市場向けマーケティングから生まれた日本向けスコッチウイスキーも登場し始めた。昨年、シーバスリーガルから発売となった日本市場限定のウイスキー「Chivas Regal MIZUNARA Special Edition」だ。

シーバスリーガルは特定の市場(国や地域)向けの商品開発するマーケティング手法をとっており、日本向けの高品位商品に応用したものだ。この日本限定スコッチの特徴は、日本人の味覚に対応した高品位なブレンデッド・ウイスキーのブレンド後の熟成(マリッジ)を、日本のオーク「ミズナラ」を使った樽で行なったことにある。


 そして、この4月、シングルモルトの代表ともいえるザ・グレンリベットが、新たな商品供給マーケティング手法を使って、日本市場“だけに”に向けて限定商品をリリースする。その供給法は、限定ボトルを「一般小売りせずに、BARなどのプロが“分かる客”だけに販売する」というもの。つまり、取引先の酒販店が、「限定商品を直接飲み手に提供する“プロが居るBAR”に販売」する。逆に言うなら限定商品の意味が分からない「プロが居ない店には売らない」という手法なのだ。

限定商品は「ザ・グレンリベット シングルカスク アルダンフ」という。名前だけ聞いて、「おおむね商品に内容が分かる」BARに扱ってもらいたいというわけだ。


 限定のシングルモルトはシングルカスク、つまりひとつの熟成樽原酒だけをボトリングし、商品化した製品。ひとつの樽しかないので738本の限定酒となった。シェリー樽熟成15年で、アルコール度数は、“樽出し状態のまま”で加水無しという意味の「カスクストレングス」59%。700ml/1本。

また、低温下で白濁しやすいウイスキー原酒は、低温濾過(チルフィルタード)するのが普通だが、マニア向けの本製品は旨み成分を残すという意味で「ノンチルフィルタード(無濾過)」である。4月中旬から市井のBARに出回る予定だ。


 希望小売価格は3万7500円(税込み)だとしているが、BARでワンショットとなると、お幾らになるでしょう。通常、ボトル1本の5%がワンショットなので、少々お高くなりそうな予感。いずれにしても、貴方が通う“馴染みのBAR”に、この「ザ・グレンリベット シングルカスク アルダンフ」がバックバーに載らないということは、酒販店に「?」と判断されたということか? もしも見つけたら「スパイシーで官能的な味わいを、まずはストレートで試されたい」。(編集担当:吉田恒)