HKT48のセンター、矢吹奈子が10月16日に幕張メッセイベントホールで開催されたコンサート「HKT48 11th anniversary LIVE 2022 ~未来へのメッセージ~」の夜公演で卒業を発表した。同会場で、HKT48がコンサートを行ったのは約8年半ぶり。
さらに、約9年ぶりとなる新チーム体制「クラス替え」も発表された。今回、長年HKT48を追い取材し続けている小島和宏記者が、「歴史の大転換点」となった1日をレポートする。(前後編の前編)

【写真】矢吹奈子が卒業発表したHKT48のコンサート

昨年、矢吹奈子が帰国して少ししたころ福岡でロングインタビューを収録する機会があった。

とはいっても掲載されたのは、ごくごく普通の尺のインタビュー。なぜならば長い取材時間のほとんどがインタビューとして成立しない内容になってしまったから。話の焦点は矢吹奈子が抱いていた「これから私はHKT48でどうしていけばいいのか?」。もはや矢吹奈子を囲んでのディスカッションのようになっていた。

彼女の希望は「HKT48をよりよいグループに変えていきたい」だった。2年半、韓国で体験したことから、HKT48にとってプラスに作用するであろう部分だけを抽出しフィードバックしていく。それはステージ上でのパフォーマンスというよりも、そこに至るまでのレッスンやリハーサルでのやり方の話。より効率的に、そしてメンバーの意見が反映されるようなやり方にする。そうすることで結果としてステージは充実する。
時間に追われるのではなく、準備期間を充実させることができれば、と矢吹奈子は語った。

だが、2年半も待っていてくれたファンはきっとセンターに立ってくれることを望んでいる。日本を離れるまでシングル表題曲で単独センターを飾ったことがなかったので、自分の中にはセンター欲みたいなものはないけれど、ファンのみなさんの想いにも応えていきたい。舞台裏でHKT48のために奔走しても、それはなかなかファンには伝わらないわけで、そのあたりの折り合いに矢吹奈子は悩んでいた。

結果からいえば、1年前に答えを出せなかったその問題は、どちらも満点解答を得られることとなった。今年6月にリリースされた『ビーサンはなぜなくなるのか?』で矢吹奈子は初の単独センターに。そして、4月にスタートした久々の全国ツアー『Under the Spotlight』では、間違いなく矢吹奈子がグループのど真ん中に立っていた。

コロナ禍でのコンサート。かつてのHKT48のウリであった会場全体を巻きこんでの楽しいステージはもはや難しい状況下で、完全に「魅せる」「聴かせる」に舵を切ったステージ構成。矢吹奈子が先頭に立ち、そのうしろにメンバーがズラリと並び、一糸乱れぬ圧巻のパフォーマンスを披露したとき、よりよいグループにするために地道にがんばってきた裏の努力もはっきりとした形で報われた。表でも裏でも、この1年間は矢吹奈子がHKT48の中心人物だったのである。

その流れは10月18日に幕張メッセで開催された11周年記念コンサート『未来へのメッセージ』でも活かされていた。


春のツアーで構築されたHKT48の新しいライブの形を踏襲した上で、コロナ以前にやってきたような演出が復活。メインステージのほかに大きなセンターステージを設置し、そこを花道でつなぐ。ふたつのステージをメンバーが頻繁に行き来することでアリーナ席を駆けめぐることになる。さらにトロッコも数回に渡って発進し、スタンド席のお客さんのすぐ近くまでやってきてくれる演出も。

まさに「あのころ」のHKT48のコンサートの楽しさと、「いま」のHKT48の充実ぶりがミックスされた進化系ライブ、である。

「でも、今回は本当に大変なんですよ。当日、昼の部の前にリハーサルをできるのが2時間しかなくって。だってコンサート自体は2時間以上あるんですよ? それでえーっ!となっちゃって。私たちでもそうなんだから、5期生や6期生はもっと大変だったと思う」

コンサートを前に田中美久はそう語った。

いつもであれば前日もしくは当日に通しリハーサルをやって最終調整をおこなうのだが、前日に別のコンサートが開催されていたため、今回ばかりはどうしても2時間で収めなくてはいけない、というのだ。

たしかにドタバタしそうな話だが、大変だ、と言いつつも田中美久の表情は落ち着いていた。

「個々のメンバーが当日までにすべてを完璧に覚えてきて、リハーサルで確認するだけにしておけばいい」。
たしかにその通りではあるが、なかなかサラッといえるものではない。ふと脳裏に準備期間の重要性を熱弁する矢吹奈子の姿がよぎった。春のツアーを乗り越えたことで、HKT48の「新しいやり方」はメンバーのあいだにも定着したのかもしれない。なによりも田中美久が心配していた5期生と6期生、特に大きな会場でのパフォーマンスが初となる6期生がしっかりと躍動している姿には感心した。かなり目立つポジションを任せられたメンバーも多かったのだが、ちゃんとしているから、あんまり抜擢された感がないぐらい。

これまで何年もオープンニングを仕切ってきた松岡菜摘に代わり、新たにチームHのキャプテンに選ばれた豊永阿紀がこの日からその大役をバトンタッチされた。昼の部では明らかに緊張しまくっていて、6期生よりも心配になってしまったが、それもこれも「過渡期」ならではの新鮮な光景……だと昼の部までは思っていた。

しかし、矢吹奈子が大粒の涙を落とした夜の部のエンディングで「過渡期」は「歴史の大転換点」に激変することとなる。

【後編はこちら】HKT48矢吹奈子の卒業発表を見守る田中美久、やさしい表情から見えた9年間の絆
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