『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1998)、『きっと、うまくいく』(2009)、『バーフバリ』2部作と、日本におけるインド映画旋風というのは、何度か訪れてはいるが、次なる分岐点となる作品となりそうなのが、まさに今作『RRR』である。

【写真】壮大なスケールで世界でヒット、映画『RRR』場面カット

映画好きなら、インド映画のことをほとんど知らなくても『バーフバリ』というタイトルは聞いたことがあるのではないだろうか。
インド映画輸入率が全体の1%にも満たないほど極端に低い日本においてもファンを持つS.S.ラージャマウリ監督は、独特の存在だといえるだろう。

そんなラージャマウリ監督の最新作にして、製作費がインド映画史上最高額97億円のビッグバジェットな娯楽超大作『RRR』がついに日本に上陸した。

今作はアメリカでも公開され、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』や『アンチャーテッド』といった競合がひしめき合う中で、初登場3位を記録。その後もNetflixの英語以外の言語の映画ランキンク上位に15週以上入り続けるなど、世界中で話題となっている。

『マガディーラ 勇者転生』(2009)の主演を務めたラーム・チャラン、そしてラージャマウリ監督の長編デビュー作『Student No. 1』(2001)に出演していたNTRジュニアといった、過去のラージャマウリ監督作品にゆかりのある俳優が集結。さらにテルグ映画初出演となるヒンディー女優のアーリヤー・バットやアジャイ・デーヴガンなどに加えて、レイ・スティーヴンソンやオリヴィア・モリスといったイギリス人俳優も多数出演。

イギリス植民地自体のインドを独立に導いた、実在する英雄のコーマーラム・ビームとアッルーリー・シーターラーム・ラージュの活躍を大胆にアレンジ。火と水、友情か使命か、互いの向いた方向は同じでも志は違う。歴史的な背景がありながらも、基本的には娯楽作品であることを貫いた「もしもこのふたりが出会っていたら~」という寓話であり、そこまで知識も必要ない。

米アカデミー賞にも外国語映画部門ではなく、『パラサイト 半地下の家族』(2019)や『ドライブ・マイ・カー』(2021)のように主要部門としてノミネートされるのではないかという噂も飛び交っており、映画批評家やセレブ、一般のファンも巻き込んで #RRRforOscarsというツイートがされており、決して夢物語ではない。

インドと言えばお祭り騒ぎ的な「マサラ映画」というステレオタイプを突き崩そう、海外でもひとつの作品として評価されるものを作ろうと、インド映画界は長年奮闘してきた。その結果として今がある。


しかも今のムーブメント自体がまだまだ過渡期に過ぎない。コロナ過で延期になっていた圧倒的母数のインド映画の超大作が来年から再来年にかけて、一気に市場に流れ込むのだ。そうなれば主要な映画賞も無視はできないはず。そして、それらの作品を世界がどう扱うかも大変興味深い。

今作の上映館数は210超え。近年、日本で公開されたインド映画『ハーティー 森の神』や『スーパー30 アーナンド先生の教室』が、小規模だったことと比べると快挙と言える。それだけ日本でも期待されているということの証拠でもあるし、それを可能としたのも、ラージャマウリ作品ファンの熱量が高かったからだろう。

『RRR』は間違いなくインドだけに限らず、世界の映画史に残る傑作だ。今作がヒットすれば、日本におけるインド映画輸入率が見直されることは間違いないだろう。しかし、それが必ずしも良いことばかりとは限らない。

それはこれまでの日本におけるインド映画の宣伝が、ぶっ飛んだ部分ばかりが取り上げられがちだったからだ。もちろん、インド映画はみんなで騒いで観るような作品ばかりではない。
今後、輸入される作品が、そういった目線で選んだ作品ばかりになってしまえば、ステレオタイプはさらに助長され、長期的な視野で見た場合、インド映画の日本普及は逆に遅れる可能性もある。

今作が入り口となるのは大いに嬉しいことだからこそ、様々なジャンルの作品がバランス良く輸入されることを心から望むばかりだ。

▽『RRR』
舞台は1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため、立ち上がるビーム(NTR Jr.)。大義のため英国政府の警察となるラーマ(ラーム・チャラン)。熱い思いを胸に秘めた男たちが”運命”に導かれて出会い、唯一無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、それぞれの”宿命”に切り裂かれる2人はやがて究極の選択を迫られることに……。
10月21日(金)全国公開

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