スローテンポの異質な漫才で独走中、タイタン所属のコンビ、キュウのぴろ。Mー1グランプリでは、2020年、2021年共に準決勝進出。
2022年ツギクル芸人グランプリでは決勝に進出している実力派だ。今回、ネタ作りを担当するぴろに、芸人としてのキャリア、そして今年のM-1グランプリにかける思いを聞いた(前後編の前編)。

【写真】スローテンポの異質な漫才で独走中、キュウ・ぴろ

──キュウの漫才は、アドリブは入れないんですよね。

ぴろ アドリブはゼロです。僕はM-1世代というか、M-1を観て「漫才ってカッコいいな」と影響を受けたので、無駄のないM-1のネタが理想形。時間制限のある中、極限まで削ぎ落とした、大会当日のボディビルダーみたいなネタに美しさを感じるんです。

──寄席でやるような漫才ではない。

ぴろ そうですね。営業に行っても、地元のネタとか客いじりみたいな「つかみネタ」はしないで、そのままネタをやりますから。

──キュウは定期的に単独ライブを行なっていますが、単独ライブはコントのほうがやりやすい印象があります。

ぴろ 漫才だからこういう見せ方をしなきゃいけない、みたいなことを考えたくないんです。僕らにとって単独ライブは、キュウの漫才の世界を広げることだと思ってます。
全部のネタが暗転板つきではじまって、「どーも」も変だからやらないし、単独ライブに来ている人は僕らを知っているはずなので「キュウです」と名乗ることもないし、終わってからのトークもない。ただ、漫才である理由があるようにしています。

──キュウはシステムにハメこむようなネタがない印象があります。

ぴろ システムは全部違うようにしてます。やったことがあるシステムは、極力やりたくなくて。似たように見えても確実に違いがあるんです。「めっちゃええやん」だけはフレーズを残して何本も作ったネタで、初めてパッケージを掘り下げました。

──実験を繰り返していると。

ぴろ そうですね。ためしてガッテンというか。

──ガッテン。20年と21年、M-1で2年連続準決勝に行ったことで、変化はありましたか?

ぴろ まわりの芸人が僕らの存在を認めてくれるようになって、キュウが完成しつつあるのかなと思います。
最近思っていることなんですけど、芸人はネタを作って世に出ようと頑張っているんですけど、ただネタを作っていても成功しないんじゃないかと。僕らはキュウというブランドを完成させるためにネタを作ってきたと思ってます。ネタを作るというより、キュウを作ってきたんです。それが一昨年と去年で、キュウの輪郭がハッキリした。

──だからこそ、今年のM-1は結果を出したいですね。

ぴろ 最低でも決勝に進みたいです。

──昨年のM-1で活躍した錦鯉やランジャタイはキュウと関係の深い芸人だと思います。刺激は受けましたか?

ぴろ 錦鯉さん、ランジャタイさん、モグライダーさん、真空ジェシカ……僕らが何度も同じ舞台に立った人たちが決勝で活躍して、悔しさを感じました。友達がみんな合格して、僕らだけ落ちた感覚というか。決勝に進んでいたら絶対に楽しかったのに、と思ってしまいます。

──錦鯉さんに解散を止められたことがあるとか。

ぴろ 6年前になるんですけど、キュウを組んで2年くらい経って、「もっと可能性があるんじゃないか」「このままだと遠回りになるんじゃないか」と解散を考えたんです。
その話が耳に入ったみたいで、(渡辺)隆さんから「ライブが終わって飯を食うから来いよ」と新宿の思い出横丁に呼び出されて。家から駆けつけると相方もいて、隆さん、長谷川雅紀さんと4人で情熱ホルモンで飯を食うことになったんです。隆さんが、レバーをひっくり返しながら「意味がわからねぇよ。お前ら解散するなよ」と言ってくれて。あの時、初めて「芸人が芸人の解散を止めることってあるんだ」と思いました。

さらに、隆さんは「来年(2015年)からM-1が再開するらしいじゃん。M-1なんてお前らのための大会だろう」とありがたい言葉をかけてくれたんです。裏でも「ソニーからM-1決勝に行くなら俺らかキュウしかいない」と話していたみたいで。結局、僕らは解散したんですけど、半年後に再結成したのは、錦鯉さんの言葉が引っ掛かっていたから。再結成した後、隆さんに挨拶するのが怖くて仕方なかったです。3回くらい報告したんですけど、そのたびに「聞いてねぇ」って言われました(笑)。

──M-1の決勝に行くことが、錦鯉への恩返しにもなると思います。


ぴろ 本当、そうですね。

【後編はこちら】キュウ・ぴろが異質なスロー漫才にこだわる理由「まわりと同じようなネタをしても楽しくない」
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