2022年12月7日に31stシングル『ここにはないもの』をリリースした乃木坂46。アンダー曲『悪い成分』のMVでは初のアンダーセンターとなる中村麗乃の不敵な笑みもファンの間では話題となった。
本稿では、リリース直後の31stシングルがもたらす意義について考えてみたい。

【関連写真】乃木坂46 齋藤飛鳥ラストシングルのMV場面カット

乃木坂46は5月に開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」で日産スタジアムというグループ最大規模の会場に立ち、「真夏の全国ツアー2022」では約3年ぶりに聖地・明治神宮野球場でライブを開催するなど、次なるフェーズへと進んでいる。乃木坂46の原点回帰とも言えるサマーアンセムを携えた30thシングルのタイミングでは、1期生の樋口日奈和田まあやが卒業を発表しており、グループにとっても大きな節目となった。

そこから11月6日には『乃木坂工事中』(テレビ東京系)にて31stシングルの選抜メンバーが発表された。大きなトピックと言えるのは、卒業を発表している齋藤飛鳥のセンター、そして林瑠奈の初選抜入り、阪口珠美、早川聖来の選抜復帰だろう。中でもアンダーでしっかりと経験を積み上げ、置かれたポジションでアピールしてきた林の選抜入りを待ち望んでいたファンも多かったはず。歌唱力に定評のある林は過去のライブでも強い印象を残しており、彼女が選抜に入るのは素直に心強い。

今作は乃木坂46にとって齋藤の卒業を念頭に置いた卒業シングルということになる。卒業シングルでセンターを務めるのは白石麻衣がセンターを務めた25th『しあわせの保護色』以来と実に久しぶり。『裸足でSummer』『ジコチューで行こう!』『Sing Out!』の3作でセンターを務めてきた齋藤は紛れもなく乃木坂46の中心であり、グループに大きな貢献をしてきた。そんな彼女にとってラストシングルに相応しい楽曲が用意された。

表題曲『ここにはないもの』で作曲を務めたナスカは、齋藤が過去にセンターを務めた『ジコチューで行こう!』でも作曲を担当しており、そんなナスカが齋藤の卒業シングルを手掛けるのもなんとも運命的だ。
曲調としては夏らしい爽やかな『ジコチューで行こう!』とは打って変わって、“別れ”をテーマにしたバラード曲となっている。『サヨナラの意味』や『帰り道は遠回りしたくなる』などかつての卒業ソングを彷彿とさせるような切ないメロディは健在ながら、サビには最大の見せ場とも言える齋藤のソロダンスパートがあり、齋藤のしなやかで美しいダンスからは集大成的な趣も感じられる。

フォーメーションの観点から見ると、齋藤を挟むように3期生の山下美月与田祐希、4期生の遠藤さくらと賀喜遥香と盤石の布陣が敷かれている。フロントの4人は27thシングル『ごめんねFingers crossed』以降の固定メンバー(『Actually…』を除く)でもあり、齋藤から4人へと乃木坂46の歴史が受け継がれていくという思いも感じられるフォーメーションだ。さらに今回は前作で初選抜入りを果たした金川紗耶が2列目の十一福神に選ばれるなど、ダンス力の高い金川が生きる形になっているのも見ものだ。

そして今回から林が3列目に選ばれた。2020年2月から乃木坂46に配属された林は、「4期生ライブ2020」で『自分のこと』ソロ歌唱したことで注目を集め、『乃木坂スター誕生!』(日本テレビ系)では中森明菜の『少女A』をクールに歌い上げるなど、その歌唱力の高さが大きくフォーカスされていくようになる。4期生が初参加となった「28thSG アンダーライブ 」で歌唱力のある伊藤理々杏、柴田柚菜、中村麗乃、弓木奈於らとともに『遠回りの愛情』を披露しており、当時を振り返って林は「4期生を応援してくださっている方は『乃木坂スター誕生!』(日テレ系)や4期生ライブで、私の歌声を知ってくださっているかもしれないけど、アンダーライブなので、先輩方のファンで知らない方も多いはず。

この曲のメンバーに選んでいただいたからには、そんな方たちに『なんでこの子が出てきたんだろう』と思わせないように力を入れました」と語っている(EX大衆』2021年12月号)。実際に同ライブでのパフォーマンスが伏線となって、「真夏の全国ツアー2021」の東京ドーム公演では『きっかけ』をメンバーが歌いつないでいく演出のなか、林は重要なパートを任されている。

そこから選抜発表では「アンダーでも選抜でもどっちにもいて欲しいって思ってもらえるくらい、今まで自分の身につけてきたものを最大限に発揮してより成長していけたらいいな」と語っていた林。その強みとはアンダーを経て身についた歌唱力に他ならない。
31stシングルでは、歌唱力、パフォーマンスともに成長した林の姿が見られるはずだ。

さらに前作『Under’s Love』からの流れを感じさせる勢いのあるアンダー曲『悪い成分』では中村が初めてアンダーセンターに抜擢されたのも注目すべきポイントだ。和田の卒業によって今回のシングルからは3、4期生のみの構成となっており、アンダーメンバーにとっては大きな挑戦であり、新しいアンダーの形を示していく期間でもある。センターの中村は歌唱力の高いメンバーとしても知られ、「アンダーライブ 2021」では齋藤飛鳥のソロ曲『硬い殻のように抱きしめたい』を自信を持って歌い上げた。

『悪い成分』ではそんな中村の歌声が存分に生かされた楽曲となっており、間奏では中村のソロパートが用意されている。これまで中々中村の歌声が注目されることは多くはなかっただけに、中村の歌声がファンを超えて届く機会となることだろう。また、今回はフロントに4期生の佐藤璃果、松尾美佑が選ばれており、MVで見せているキレのあるダンスとクールな表情が印象的だ。10人体制という少人数のアンダーなだけに、個々のメンバーにも自然と目が行くはずなので、各々が個性をアピールする絶好な機会となりそうだ。

11月22日に公開されたブログで中村は「今まで沢山のメンバーが繋いできたこの場所をまた次へと繋げるために座長として覚悟を持ち挑みたいと思います」と12月1日から始まる「31stSGアンダーライブ」への意気込みを語っており、中村を筆頭にこれからのアンダーを作り上げていく10人の決意が見られることだろう。

乃木坂46はこれまでも多くの卒業曲を発表してきたが、31stシングルもまた齋藤の卒業とともに多くのファンの心に長く深く記憶される作品になるはずだ。そして、齋藤ら1期生の卒業によって選抜、アンダー問わずグループは“変化”を受け入れる時期に来ているのが現在の乃木坂46。グループの真価が本格的に試されるのは次回からだろうが、今作は新しいグループの萌芽をすでに感じさせてくれている。


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