【前編はこちら】「選挙戦は無料で楽しめるフェスでありプロレス」時事芸人・プチ鹿島に聞いた政治のエモさ
【写真】時事芸人として活躍するプチ鹿島
──2021 年の衆院選では香川1区に突撃していますが、現地はどんな印象でした。
プチ鹿島(以下鹿島)僕は香川1区でいうと、平井陣営を見たかったんです。香川1区から出馬した平井卓也さんって、初代デジタル大臣ですけど、平井さんの弟は四国新聞の社長で母親が社主なんですよ。で、普通の新聞社は例えば、自分のところの親族が立候補したとしても、フェアに扱うじゃないですか。けれど四国新聞はめちゃくちゃ平井推しなんです。対立候補についてはすごく悪く書くし、本人のコメントも取らないで批判を載せたりしている。そんなの平井陣営の帝国じゃないですか。その未知の帝国感を目の当たりにしてみたかったんです。
──実際に目の当たりにされてどうでした?
鹿島 帝国感はあったし、「潜入しちゃったけど、これ、無事に帰れるの?」って映画の『アルゴ』みたいな気持ちになりましたよね。地元の新聞を見たら、平井陣営は選挙戦の最終日にパレードをするって告知されていたんです。パレードってどんな感じだよと。
──平井さんの印象はどうでしたか。
鹿島 平井さんにはなかなか会えなくて、投票前日の夜、あともう数時間ってところで、シンデレラに会いに行く気分で、街頭演説の場所に向かっていたら、風にのって「デジタル、デジタル」って連呼が聞こえてきて。当時、平井さんはデジタル大臣を辞めた直後だったんですが、それでも自分は初代デジタル大臣だって自負があるから、とにかく「デジタルの!デジタルの!」って言ってる。本当に3秒に一回くらい。報道で知ってはいたものの、もうおかしくて仕方がない。現場で答え合わせが出来ましたね。
──2022 年7月の参院選では、大阪がメインとなっていますが、その理由は?
鹿島 僕の野次馬としての嗅覚が「大阪が面白いんじゃないの?」って。東京に住んでいると、維新の強さってよくわからないから、潜入してみたいっていうのもあったし、あと去年の今頃に菅直人さんがTwitterで急に維新を批判し始めて、バトってたんですよ。その菅直人が大阪選挙区の立憲の公認候補予定者を支援する特命担当に就任したっていうんで、それは絶対に現地はバチバチに盛り上がるじゃないですか。
──現地に行っていかがでしたか?
鹿島 自民も、立憲も、共産党も、維新も、会える候補者にはみな会いにいきましたが、最初に必ず「手応えはどうですか?」って聞いたんです。だいたい皆さん、「あ、いいです」って、応えてくれるんですが、ちょっと弱ってる人は「うん?」ってそこの時点で止まっちゃったりとか。意地悪な言い方をすると、10人いれば、何人かは切羽詰まっている人がいるわけですよ。そういう人が土壇場でどういう振る舞いをするか。これは人間としての器を見る絶好の機会なんですよ。
──特に印象深かった候補者の方とかっていらっしゃいますか?
鹿島 菅さんには密着したわけですけども、面白かったのは、朝一回目の演説では、あんまりシャッキリしてなくて。でも、駅前を練り歩きをする中、だんだんと人出が多くなってきて、有権者たちと触れ合って、お昼過ぎに辻元清美さんと合流した後に、京橋の駅前で三回目の演説をしたら、めちゃくちゃパキパキしてて。政治家って、やっぱり人前に出るとどんどん変わるんだなって。アイドルと同じです。
──数多くの候補者たちを取り上げることで、それぞれの個性が浮き彫りになると。
鹿島 そう。
──たしかに、その人の政策うんぬんは知らなくても、「この人、信頼できそう」とか「ちょっと感じ悪いな」とか、そういう振る舞いが可視化されていると思いました。
鹿島 それでいえば、維新の吉村(洋文)さんを初めてちゃんとナマで見たんですが、意外と「演説が上手い!」って感じじゃないんです。ラグビーか何かの黒いポロシャツを着て、ちょっとアマチュア感があるというか、一生懸命になにかをやろうとしている大学生みたいな雰囲気で、「維新もいろいろスキャンダルあるじゃないですか。けれど自分たちは変えていきたいんです」みたいなことを言っている。ナマで見ると「大阪くらいは、自民ではなく維新で」っていう気持ちになるのもわかるなって、伝わってきましたね。あとは演説聞きに来ている人たちの層が他の候補者とは違う。
──自民党の候補者の松川るいさんも、強烈に印象に残りました。
鹿島 松川さんに会ったのは、月曜の朝10時だったんですよ。そんな時間、あんまり人がいないですよね。それでもひとりふたり寄ってくる人を相手に演説するのが政治家なんですが、僕らを見つけるやいなや、ぐいぐいと近寄ってきて「今日は何をしに来たんですか?」みたいな。だから「僕らは選挙の全候補者に会いたいと思って東京から来たんです」って言ったら、これまたぐいぐいしゃべりだして。この人は自分の言葉を持ってる人だなって思ったんです。同じことは共産党の辰巳孝太郎さんにも感じて。自民党と共産党は、イデオロギーとか言っていることは真逆なんだけど。この選挙区では、松川さんや辰巳さんは、誰が来てもちゃんと自分の言葉で迎え撃つ人なんだなって感じましたね。
──鹿島さんのそのフラットさが、『劇場版 センキョナンデス』にも出ているというか、特定のイデオロギーに寄らず、ひらすらに候補者たちの姿を映すことで、その人となりを浮き彫りにしたドキュメンタリーになっていると思いました。
鹿島 それぞれの候補者たちの器や人としての振る舞いを見ることで、自然と「この人はどんな政策があるのか」とか「〇〇派とは、何を中心に訴えているのか」とか自然に政策や思想にシフトしていくと思うんです。
──それでいえば、参院選の投票日前々日の7月8日、安倍元首相銃撃事件当日の、それぞれの候補者たちの反応は、なかなか来るものがありましたし。
鹿島 あの日は、お昼にニュースが飛び込んできて、衝撃だしショックだし、今日一日、どうなるんだろうって思いました。でも、僕らは24時間カメラを回し続けて記録しようって。候補者たちも、「今日は選挙活動を辞めておこう」って人もいたし、「今日だからやるんだ」って人もいた。あの日の判断だからしょうがないけど、やっぱりこれは民主主義の危機だなって思ったんです。だって僕らが見に行った選挙が取り上げられちゃったわけだし、これから先、厳重な警備がつくようになって、候補者たちに質問も出来なくなるんだったら、僕らの民主主義を取り上げられるってことじゃないですか。そういう意味では、僕らの喜怒哀楽も恐れも不安も晒してる、剥き出しのドキュメンタリーにもなっちゃったんです。野次馬気分でいいので、ぜひ劇場に足を運んで、目撃してください。
取材・文/大泉りか
▽プチ鹿島
時事芸人。新聞14紙を読み比べ、スポーツ、文化、政治と幅広いジャンルからニュースを読み解く。
『劇場版 センキョナンデス』
「選挙は最高のお祭りだ!」のはずが・・・野次馬のつもりだったラッパーと芸人が、安倍元首相銃撃事件の日の選挙戦を記録。
監督・出演:ダースレイダー(ラッパー) × プチ鹿島(時事芸人)
大島新(『なぜ君は総理大臣になれないのか』監督)プロデュース最新作!
https://www.senkyonandesu.com/