宝塚歌劇団・雪組に所属し、2020年3月に退団した早花まこ。3月1日に発売された、9人の宝塚OGに“セカンドキャリア”というテーマで取材・インタビューを行った書籍『すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア』に合わせ、早花自身が新たな道を歩みはじめて見えたことについて聞いた。


【写真】元タカラジェンヌ、早花まこ撮りおろしカット【10点】

──今セカンドキャリアとして新たなお仕事をされていて、宝塚現役中に知っておきたかったと思うことはありますか?

早花 メールの書き方は知っておきたかったです(笑)! 編集の方にも、「こんにちは!」とまるで友達に書くような書き出しのメールを送っちゃうことがありました。あとは宝塚の挨拶が基本的に「おはようございます」だからどこでもそう言ってしまう癖もありましたし、私の愛称がきゃびいというんですけど、メールの最後に「byきゃびい」とか書いちゃいけないんですよね。

今の若い人は使っているかもしれないけど、宝塚の人って基本パソコンを使わないんですよ。私もいまだに全然できなくて(笑)。セカンドキャリアで挑戦することによるのかもしれないですけど、世間のみなさんが当たり前にできることにあまり触れてこなかったんだなと改めて気づきましたね。

──お稽古や本番があって、その他のことをできる時間もなかなかなさそうですよね。

早花 そうですね。あとそれをやらなくてもできてしまう仕事だから、自分から勉強しようとか、ちょっとやってみようかなと思わないとなかなか触れることがないんですよね。

──今回の早花さんの本を読んで「こういう進路があるんだ」と分かると、今在籍されている方やこれから宝塚に入られる方にとって新たな力になったり、チャレンジしようと思う方もいるんじゃないかと思います。

早花 嬉しいです。宝塚って中学卒業から高校卒業までのあいだに入ることになり、宝塚に入りたいという思いだけで突き進む人もたくさんいるんです。入ってからも毎日稽古をしたり、舞台に立ったりという日々を過ごすと、なかなか自分から外の世界を知ったり、退めたあとの自分をイメージしにくいという人もいたんですね。


集中して、夢中になってやればやるほど次のことってなかなか考えられないし、考えずにやることが魅力だったり、その人の力だったりもすると思うんです。でもきっとどんどん道は広がっていくでしょうし、その先の人生もとてもとても長いし大切なので、キャリアや年齢にとらわれず、いろんなことに挑戦する人が増えるといいなと思っています。

──どんな立場にいる人でも、次のタイミングを考えなきゃいけないときが来るんだなとも感じました。

早花 今頑張っていたり、今いる環境が好きだったら、その分だけ自分を変えるのって怖いことだと思うんですけど、この9人の方ってその怖さを物ともせず飛び込んで、「なんとかなるし、行ってみよう」みたいな力があることに私自身すごく励まされました。なので、これだけ宝塚でやり切って確立したとしても、次に行くのは全然怖いことではないし、むしろ飛び込んだ先に思いがけない面白いことや新しい出会いがいっぱいあるということに私が励まされたように、みなさんにも届くといいなと思っています。

──特に香綾しずるさんがベトナムに行かれたお話は驚きとともに、元気をもらえました(笑)。

早花 とんでもない行動力ですよね。噂で少し経緯を聞いてはいたんですけど、やっぱり「とりあえず」でベトナムに行っていました(笑)。でも彼女は努力を積んでいたり、土台があるから、とりあえず行ってみるが実現できたんだなと思います。でもそれと同時に、気持ちと思い切りがあれば、どんな人にでも挑戦はできるんだということがみなさんに伝わるといいなと思います。……かと言って、私にはできないなとやっぱり思っちゃうんですけど(笑)。

──宝塚のみなさんはいつでも美しく、品行方正なイメージがありますが、そこからズレちゃいけないというプレッシャーを感じたり、宝塚出身という肩書きがちょっと重たく感じたことありますか?

早花 私の場合は品行方正じゃないし、ダラダラしている人間なので、その肩書きに助けられているなと思うことの方が多いですね(笑)。
そもそも、宝塚では入団1年目のひよっこですら感じられる伝統が日常に溶け込んでいるんです。だから漠然と「伝統を守らなくちゃ」みたいな感じではなかったですね。

宝塚に感謝して卒業したから、この先もそれを汚すようなことはしたくないですし、卒業した方にも後輩にも本当に素敵な方が多くて、私を助けてくれる、支えてくれる存在だから、その人たちとこの先もまっとうに関わっていきたいんだったら、自分もそういう人であらなきゃいけないなと思うんです。

──今後も文章でのお仕事は続けられたいなと思われますか?

早花 そうですね。文章の仕事って探せば探すほどいろんなジャンルがあって、今はまだ始めたばかりではあるので、インタビューもさせていただきたいですし、創作にも挑戦したいなと思っております。あとは今回は“セカンドキャリア”というくくりでしたが、宝塚には人生の先輩がたくさんいるので、もっと上の世代の方にも話を聞いてみたいなとも思います。

──テーマはもう考えていらっしゃるんですか?

早花 戦争を経験した宝塚の先輩方の話を聞いてみたいんです。難しいし、実現できるかも私が書けるのかも分からないですが、時代を切り開いた世代の女性でもありますし、幅広い話を聞いてみたいです。

──文章以外のお仕事はいかがでしょうか。

早花 先日ご縁があって、小さい朗読劇をやったんですよ。とっても難しいんですけれども奥が深くて、これからも勉強していきたいなと思っています。朗読劇って舞台によっては音楽や踊りがあったりして、普通の演劇より表現の幅が広く、言葉の力を感じることが多いんです。
朗読や詩を読むことも言葉について知ることに繋がるので、そういうことは続けていきたいなと思っています。

──やはり言葉での表現にすごく興味があるんですね。

早花 簡単に発せられるからこそ、使い方や聞き方がすごく難しいなと感じることが多いですし、でもプロの方って自分の思いを的確な言葉で相手に伝えられるじゃないですか。文章を書くお仕事を未熟ながらさせていただいていると、そういうことに直面することも多いですし、私の言葉を使わなきゃいけないけれど、それが正しく受け取られなければ意味がなくて、プロであれば「私はこういうつもりで言った・書いた」じゃダメなんですよね。他にもいろんな表現はあるんですけど、言語を持ったからこそ、簡単に伝えられるからこそ、ちゃんと伝えないといけないなと思います。

(取材・文/東海林その子)
▽早花まこ(さはな・まこ)
元宝塚歌劇団娘役。2002年に入団し、2020年の退団まで雪組に所属した。劇団の機関誌「歌劇」のコーナー執筆を8年にわたって務め、鋭くも愛のある観察眼と豊かな文章表現でファンの人気を集めた。『すみれの花、また咲く頃―タカラジェンヌのセカンドキャリア―』は初めての著作。
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