近年、芸人が執筆したエッセイ本がリリースされるケースが少なくない。全国ネットの冠番組を持つ芸人に限らず、知名度が決して高いとは言えない芸人のものもあり、“芸人のエッセイ本”というジャンルの人気の高さが伺える。
なぜここまで芸人のエッセイ本は注目されているのだろうか。『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)や『有吉ぃぃeeeee!~そうだ!今からお前んチでゲームしない?』(テレビ東京系)など、放送作家として数多くのバラエティ番組の制作に携わっているカツオさんは、この傾向の要因として「まず芸人との“接着面”が増えたことが大きいです」と分析する。

【関連写真】元“広末涼子ものまね”芸人・おかもとまりの今

「以前はテレビ番組とお笑いライブくらいしか芸人を見る機会はありませんでした。最近はYouTubeやTikTokで気軽かつ自発的に芸人に触れらえるようになり、“推し”を見つけやすくなりました。加えて、radikoやstand.fmなどラジオアプリの普及によって、ラジオで推しの芸人をより深く知ることができ、どんどん“沼ってしまう”人が増え、『エッセイ本も読んでみたい』という需要が高まったのではないでしょうか」

SNSや動画コンテンツ、ラジオコンテンツなど、環境面が整備され、芸人を身近に感じられるようになったことが背景にあるという。しかし、カツオさんは「“環境面の充実”もそうですが、コロナ禍にも目を向ける必要があります」と続ける。


「コロナ禍以前は『YouTubeを始めるタイミングがわからない』という芸人が多かったと思います。しかし、コロナ禍をキッカケにYouTubeチャンネルを開設する芸人は急増しました。それまでは、『YouTubeなんて…』と思われてましたが、実はYouTubeに興味あった芸人さんは多かったのではないでしょうか。一気に増えましたよね。

コロナ禍が芸人達にもたらせたのはYouTubeブームだけではない。投げ銭をもらえる文章投稿のプラットフォーム“note”ブームも巻き起こし、このことが芸人のエッセイ本を本格的に加速されたと説明する。


「コロナ禍で新たな収入を得るためにnoteに投稿して投げ銭をもらおうとする芸人は増えました。YouTubeにも共通しますが、“何か新しいものを生み出す”ということは芸人の得意分野。また、ネタの台本を書くことも日課ですので、文章と芸人は親和性が高い。noteがキッカケで文才が見つかった芸人は多く、そこから雑誌やウェブメディアでのコラム連載の依頼を受け、適度にコラムが貯まった段階で書籍出版につながる、というケースは珍しくありません。これらのことから、今日の芸人エッセイ本ブームが巻き起こったのではないでしょうか」

芸人が書く文章に一般人だけでなく出版社も惹きつけられ、そして「もっとその芸人を知りたい」というニーズの高まりも重なり、芸人のエッセイ本が人気を博す要因となったようだ。

「また、賞レースがショーアップされたことに加え、『ゴッドタン』(テレビ東京系)などのプロデューサーの佐久間宣行さん、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などのプロデューサーの藤井健太郎さんの存在も大きいです。
安直に芸人をくさすことなく、リスペクトを持ったうえで番組制作している人達の存在が、芸人のイメージアップに一役買っているのではないでしょうか」

「雑にいじって終わり」「ドッキリにかけて終わり」ではなく、芸人をしっかり輝かせようと工夫している大物プロデューサー達の信念も、“芸人=カッコイイ”という意識を根付かせたようだ。しかし、“カッコイイ”だけではなく、近年は“頭が良い”という認識も広まっているが、「それは西野さん(キングコング)や中田さん(オリエンタルラジオ)の活躍が大きいです」と解説。

「西野さんなんかは“意識高い系”と揶揄されていた時期もありましたが、様々なプロジェクトに果敢に挑み、成功する姿を見せ、敏腕のビジネスパーソンとしても支持されるようになりました。中田さんも自身のYouTubeチャンネルで教育や書籍関連の動画を投稿し、“頭が良い”というイメージを体現した存在です。最近では森田さん(さらば青春の光)やサーヤさん(ラランド)も経営者としてクローズアップされる機会が増え、クレバーな一面を見せていました。

数年前は芸人が真面目に仕事の話していると『なに真面目に話しているんだよ!』というツッコミが飛んできましたが、今ではそういったツッコミはウケない。
それは表面的な笑いよりも、『芸人の話をちゃんと聞きたい』『もっとその芸人について知りたい』というニーズの高まりの裏付けなのかもしれません」

そして、カッコイイをさらに超えて“憧れる”という領域まで、芸人という仕事はイメージが変化しつつあると予想。カツオさんは「YouTuberの台頭によって『好きなことを仕事にする』というスローガンが注目されました。まさに好きなことを仕事にしている芸人は、ある意味ビジネスパーソンにとっての“ロールモデル”になりつつあります。今後、AIに仕事が代替されるようになり、『好きなことを仕事にする』という考えはますます浸透して、より芸人達に羨望の眼差しが向けられるでしょう」と語る。芸人のエッセイ本の今以上のブームを予感させた。

いろいろ芸人のエッセイ本ブームの要因が見えてきた。
ただ、「補足的になりますが、改めて“推し文化”の定着にも触れておきます」と時代の変化について解説を始める。

「推し文化自体は私の肌感覚ですと、2010年代中盤から顕在化するようになりました。そのキッカケは寄付型クラウドファンディング“CAMPFIRE”の登場が大きいと考えています。CAMPFIREでは『誰かの夢を応援する』ということにダイレクトに関われ、“推し活”の土壌を作ったサービスと言って良いです。それから徐々に推すことが一般化し、その対象はアイドルや二次元キャラ、もちろん芸人も例外ではありません。

M-1グランプリ』を始めとした賞レースは、ライバルとの友情物語もあり、ひたむきに努力を続けて優勝を目指す、そんな姿が見られます。
言うならば『週刊少年ジャンプ』(集英社)のようなストーリーをリアルで見ることができ、その姿はとにかく推せる。賞レース優勝に向かって頑張る姿を応援するようになり、気付いたら“芸人沼”にハマっている人が続出して、エッセイ本にまで手を伸ばす人は多いのではないでしょうか」

また、推し文化だけではなく、「武智さん(スーパーマラドーナ)や塙さん(ナイツ)など、ネタの分析をYouTubeで披露する芸人も少なくなく、ある意味お笑いを学問にしました。そのことで“お笑いそれ自体”に面白さを覚え、エッセイ本を読んでネタを分析しようとする人も増えたことも大きいかもしれません」と締めた。

芸人のエッセイ本がブームには、コロナ禍による影響、時代の変化など、様々な要因があり、深掘りすればさらなる要因が見つかるかもしれない。なぜ芸人のエッセイ本がブームになっているのかも分析すると、ますますお笑いの楽しさに浸かれるのではないだろうか。

【あわせて読む】ハライチ岩井が語るコロナ禍の芸人「YouTubeをバカにしてたやつほど、今熱心にやってる」