監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二という夢のコラボレーションで制作された、現在公開中の話題の映画『怪物』。安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら豪華実力派キャストが揃い踏みしている。
本作で描かれる、3つの異なる視点から映し出されるひとつの出来事とは…。

【写真】監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二夢のタッグ『怪物』場面写真【6点】

『誰も知らない』(2004)や『万引き家族』(2018)などといった作品では日本の抱える貧困問題に視点を置き、『そして父になる』(2013)や『海街diary』(2015)のように、血の繋がりというものを越えた家族像というのを描くなど、重圧な人間ドラマを得意とする是枝裕和監督。

一方で『真実』(2019)や『ベイビー・ブローカー』(2022)など、制作国の色に合わせるカメレオン監督しても評価されている。日本の監督だからといって、日本のテイストをそのまま反映させる手法をとらない。

しかし、描いているテーマが実は「家族」であるなど、制作国が違っても作家性を感じさせ、様々な角度から見ても日本を代表する映画監督のひとりだ。

今作『怪物』は、ひとつの出来事を異なる人物の3つの視点を通して描いたミステリー作品。
と言っても、今作においてはミステリーそれ自体はあまり重要ではない。

今作では、描かれている視点がそれぞれ異なっていて、大まかな部分としては、最終的に一致してくるものの、噛み合わない部分も多く存在している。

それはシングルマザー、学校の教師、子どものそれぞれの視点に、その人物の思想や環境、その時の感情というのが重なっていることで、事実であっても、それが違った見え方をしている部分があるということだ。

シングルマザーの早織の場合は、夫を亡くしており、そのことで精神的にも生活的にも負担がないように心がけていて、過保護になっている部分があり、他人の何気ない行動が過剰に映ることがある。

教師・道敏の場合も、教師(公務員)という立場から生徒や保護者との接し方も考えなければならないし、学校の評判や世間体、さらにはマスコミなどもそこに被さってきていて、それらが視点を曇らせている部分がある。

例えば早織の視点では、道敏が話している際に、ふてぶてしい態度をとって、途中で飴を口に入れたように描かれいるが、一方で道敏の視点では、保護者に対して真実を伝えようとしても、それを周囲が許そうとしないもどかしさを抱えているように描かれている。


物語の確信に触れるのは、子どもたちの視点ではあるが、この視点も全てが正しいとは限らない。子どもだから純粋な視点であるかというとそうではなくて、一部分では純粋であるし、環境や世間からの負担は大人ほどに感じないかもしれないが、子どもだからこその視点の曇りというのがあるからだ。

所々にちぐはぐで噛み合わない部分があるのは、あえてその人物の視点を本人の視点として描いているからであり、そして誰もに共通するのは、人間の記憶とは常にあいまいなものということだ。

つまり小説や映画的に物語を物語として整えるのではなくて、それぞれの人間的な視点をそのまま映像化することで、人によって違う、物事の捉え方や感じ方というものを表現しているのだ。

今作は第76回カンヌ国際映画祭にて、クィア・バルム賞を受賞したことで、その結果自体が少しネタバレになっているのだが、物語の結末というよりも、人間の異なった視点を巧みに扱った作品として評価すべき作品といえるだろう。

ひとりひとりの視点が違い、混在しているからこそ、良くも悪くも人間は複雑な生き物だということを改めて感じさせるものとなっているのだ。


【ストーリー】
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてあるの朝、子供たちは忽然と姿を消した……。

【クレジット】
■監督・編集:是枝裕和
■脚本:坂元裕二
■音楽:坂本龍一
■キャスト:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希角田晃広中村獅童、田中裕子ほか
■製作:東宝、フジテレビジョン、ギャガ、AOI Pro.、分福  
■配給:東宝、ギャガ 
■公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/ 
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