2023年6月より配信されたNetflixシリーズ『離婚しようよ』は、宮藤官九郎大石静の共同脚本による「離婚」をテーマにしたホームコメディだ。さまざまな家族を描いてきた宮藤の“新境地”とも呼べるドラマなのだが、今までのクドカン作品といったい何が違うのだろうか。


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物語の内容は、イケメン三世議員・東海林大志(松坂桃李)と、その妻で国民的女優の黒澤ゆい(仲里依紗)が様々な事情を乗り越え、「離婚」という揺るぎない目標に向かって突き進んでいくというもの。

宮藤が男性視点、大石が女性視点を担当しているようで、本人たちのインタビューでも「交換日記」のような方法で脚本を書き継いだと語っていた。

そんな同作の醍醐味は、「家族」の形態とその軽さにあるだろう。結婚・離婚に至るまでの葛藤や物語を描く従来のドラマとは異なり、『離婚しようよ』では離婚を決断した後の個人の行動と対応が物語の軸になっている。

そもそも日本社会における離婚は、建前や世間の目もあって極めてハードルが高い。そのハードルのせいで別れたくても別れられないでいるのが、大志とゆいなのだ。


愛媛の地方議員であり、政治家一家に生まれた大志にとって、愛媛を舞台にした連続ドラマで大ブレイクしたゆいとの婚姻関係は、好感度維持のために必要不可欠。

また彼女も彼女で“いい妻”のイメージで売っている分、簡単には別れられない。そういった意味で、家族や地元の人々から世間体を盾に「離婚」という選択肢を奪われてしまっているのだ。

なお、同作が配信されているNetflixは、世界190カ国以上で利用されているグローバルなプラットフォーム。そこで日本のしきたりや規律を下地にした家族の形を描くことで、日本社会の「違和感」を浮き彫りにする狙いがあるのかもしれない。

では今までのクドカン作品は何を描いてきたのだろうか。
ホームドラマ繋がりでいえば、まず2021年に放送された長瀬智也主演のドラマ『俺の家の話』(TBS系)が記憶に新しい。

同作は能楽の名門に生まれながら、プロレスラーに入門した観山寿一(長瀬智也)と、その父親であり能楽の人間国宝である寿三郎(西田敏行)との関係を軸にした物語。寿三郎の介護を行うことになった寿一とその一家が抱く、家族という縁が持つ逃れられない苦しみや、その中にある喜びを描いていた。

さらにもっと遡れば、東日本大震災の前後を描いた連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)や、ゆとり世代をモチーフにした『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)など、宮藤はその時々の時代の感覚にスポットを当てていた印象だ。

しかし作品の根底には「家族」の存在もあり、その理不尽や宿命をどのように受け入れていくかを描いていたように思える。

それに対して最新作の『離婚しようよ』は、誰かとのドラマチックな出会いや別れを中心にするのではなく、「離婚」というゴールに突き進む個人の姿を描いている。
家族はあくまでシステムに過ぎず、それを自分の意思で越えるという“個人の決断”の方に焦点が当たっているのだ。

かつて宮藤はナタリーの「『離婚しようよ』宮藤官九郎×大石静インタビュー」で、「今の人たちって、結婚相手との出会いがそんなに運命的ではないと思うんです」と語っていたことがある。

マッチングアプリなどで条件が合った相手と出会う──そんな恋愛が一般化した現代社会では、「離婚」という選択も昔ほどドラマチックな出来事ではないのだろう。ある意味ドライで合理的な新しい恋愛の形に答えるようなドラマを、今作は提示しているのかもしれない。

常にその時々の社会を鋭く捉え、現代社会の中にある課題や葛藤を描き続けてきた宮藤官九郎。次回作では誰のための物語を紡ぐのか、その答えを待ち望む視聴者も少なくないだろう。
未来に待つ新たなクドカンワールドに期待しよう。

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