今秋放送されるNHK連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロインに抜擢されたことで、大きな注目が集まっている個性派女優・趣里。彼女は一体何者なのか、その変幻自在なキャリアをあらためて振り返ってみたい。


【別カット1点】 『ブギウギ』撮影開始時の趣里、柳葉敏郎、水川あさみのショット

趣里の役者人生が始まったのは、2011年3月に放送されたスペシャルドラマ『3年B組金八先生ファイナル~「最後の贈る言葉」4時間SP』(TBS系)だ。デビュー作となる同作で、彼女は定年目前の坂本金八武田鉄矢)に恋心を抱く女子中学生・柴崎茜を演じた。

この役柄は実年齢よりも5歳も若い設定だったが、違和感を一切抱かせない無邪気な演技によって好評を呼ぶことに。その後も趣里はインパクトが強く、演じるのが難しい役どころを次々と演じていく。

たとえば2017年放送のドラマ『リバース』(TBS系)で演じたのは、夫を監禁するヒステリックな妻・村井香織。夫の不倫相手の家で待ち構え、「来ちゃった」と笑顔で出迎える姿は、狂気的以外の何者でもなく、当時多くの視聴者を震撼させた。


そして極めつけは、主演を務めた2018年公開の映画『生きてるだけで、愛。』だろう。趣里が演じた「寧子」は、鬱が招く過眠症に悩まされ、自堕落気味な毎日を送っており、自分にイライラしてはエキセントリックな言動に走ってしまう……という設定だ。どう見ても一筋縄ではいかない役柄だが、趣里は寧子の危うさと不器用さ、そして力強さを体当たりで演じている。

映画レビューサイトではその演技を称賛する声で溢れかえっており、「第26回レインダンス国際映画祭」で同作が上映された際にも、会場に大きな歓声と拍手が巻き起こっていた。

演技の幅広さや抜群の存在感から、「ネクストブレイクの筆頭」とも言われている趣里だが、その原点は一体どこにあるのだろうか。


実はもともと彼女が目指していたのは、女優ではなくバレリーナだった。高校に入学するタイミングでイギリスのバレエ学校へ留学したが、度重なる怪我によってその夢は潰え、挫折経験を味わうことになる。

役者として再スタートした後も、その経験は大きな影響を及ぼしているようで、2021年に掲載された『東京カレンダー』のインタビューでは「毎日、昨日の自分に負けたくない、自分の人生、こんなことで終わってなるものかと思っています」と胸の内を覗かせていた。

そしてこの挫折経験は同時に、他人の人生を深く理解したいという想いをもたらしたようだ。役者としては、「台詞で語らずとも、その人の人生が透けて見えるようなお芝居」を心がけているという。

『生きてるだけで、愛。
』の寧子のような変わった人物像でも、観客の共感を招く演技ができるのは、その生き方や価値観を深く理解しているためなのかもしれない。役者としての“深み”こそ、趣里の大きな武器と言えるだろう。

なお、『ブギウギ』への出演が決まっている趣里だが、朝ドラ出演自体は2016年放送の『とと姉ちゃん』以来2度目となる。しかし実は朝ドラヒロインのオーディションを受けたのは、今回を含めて4度目。しかも年齢的に今作が最後のチャンスだったそうで、昨年10月の記者会見では「表現することを諦めなくて良かった」と喜びを口にしていた。

不屈の精神で射止めた『ブギウギ』のヒロイン役を、趣里はどのように演じるのだろうか。
新たな挑戦を楽しみに待つことにしよう。

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