DDT所属の人気女子レスラー、赤井沙希がプロレス引退メモリアル写真集『GRACIA』(講談社)を8月10日に発売した。デビューからちょうど10年でレスラー人生に幕を下ろす彼女が、本写真集に込めた思いとは…? 元週刊プロレスの記者、小島和宏が直撃した。


【写真】『GRACIA』より赤井沙希お気に入りカット

10年前、赤井沙希がプロレスデビューすると聞いたときは、正直、不安しかなかった。体力的なものや、技術面での不安ではない。プロレスファンにとって、ちょっと美しすぎる、そして気品高すぎる存在だと思ったので、はたして受け入れられるだろうか?という不安だった。

デビュー戦からしばらくして、DDTの高木大社長にこの懸念について尋ねると、やや興奮気味に「もうね、そういう問題じゃないですよ! 女性ファンが一気に増えたんですよ。いままでなかなか結果が出なかったのに、赤井さんひとりが加入したことで流れが変わった。これはすごいことですよ!」と熱弁した。


赤井沙希はプロレスファンの裾野を拡げた救世主だったのだ。

「それは最初から意識していました。プロレスラーになる、といっても、私が体重を20キロも30キロも増やして、ものすごく大きくなるのはちょっと違うじゃないですか? 私にしかできないものをお見せして、いままでプロレスに興味がなかった方にも知っていただく。そういう意味で私の使命は、この10年間で果たせたかな、と思います」

デビューからちょうど10年で赤井沙希はプロレス人生に幕を降ろす。引退、というと全身ボロボロになって……と思ってしまいがちだが、彼女の場合、けっして、そういうわけではない。まだ3年でも5年でも闘えるけれど、あえて10年という区切りで引退する。
朽ちる前に美しく散る、という美学を貫くために。

「私のイメージって薔薇だと思うんですけど、プロレスラーとしての理想像を花に例えるなら桜なんです。桜って美しく満開に咲いて、パッと散るじゃないですか? 私も10年前にプロレスラーとしてデビューした両国国技館で美しく散りたい。それはきっと12年目とか13年目では、ちょっと違うと思うんです。10周年を迎えたいまだからこそ、という想いはあります」

11.12両国国技館での引退試合に向けて、現在、ファイナルカウントダウンが進行中。いままでにないペースで試合が組まれているが、赤井沙希は「ぜひ早い段階で試合を見にきていただきたい」と語る。


「ありがたいことに、今回、引退記念写真集を出したことで、プロレスラーとしての私を知っていただいた方もたくさんいらっしゃるんですよ。みなさん『引退試合は見にいきます!』って言ってくださるんですけど、一試合にどれだけのものを詰めこめるかわからないので、もうちょっと前から会場に来ていただけると(笑)。さっきも言いましたけど、私にはまだ何年か闘える力が残っている。そのすべてを残り3か月ですべて放出するつもりなので見届けてほしい」

東京女子プロレス8.17新木場大会ではルーキー5人の中に入った異色の6人タッグマッチに出場。パートナーふたりが弱冠15歳という衝撃的な歳の差で話題を呼んだが、じつはこれ、赤井沙希のリクエストによるマッチメイクだったという。

「一緒に闘ったり、組んだりすることでなにかを感じとってもらえたらな、と。
お母様の年齢を聞いたら、私よりも年下であぁ……となりましたけど(苦笑)」

まだ15歳のルーキーに余裕なんてないだろうけれど、リングに立っているだけで気品漂う赤井沙希の立ち居振舞いを眼前で体感できたことは、いつか、きっと役に立つ。昨年『令和のAA砲』を結成してタッグ王座に君臨したSKE48荒井優希とは、9.18名古屋大会で最後の合体が決まっている。唯一無二の存在と思われた赤井沙希だが、その遺伝子は彼女の手によって着実に次世代のメインイベンターたちに継承されている。どのような形で芽吹いていくのか? いまから楽しみだ。

しかし、ここまで悲愴感のない引退ロードも珍しい。ある意味、全盛期のままピリオドを打とうとしているのだから、当然だし、ひとつひとつの試合のテーマが明確なので見る側の集中力も高い。
そんな状況を本人は「お尻に火がついて、いっぱいいっぱい」と笑うが、そこには焦燥感はまだない。

そう、赤井沙希の“最終章”はまだはじまったばかり。赤井沙希が10年かけて紡いできたプロレスラーとしての物語が完結していく様を、リアルタイムで目撃できる権利は、いまから見始めても、まだ手に入れることができるのだ。

このタイミングで出版された写真集には「プロレスラー・赤井沙希が表現しようとしたものがすべて詰まっている」という。

「絶対に誤解されたくないんですけど、写真集を出すと“ついに脱いだ!”とかいわれるじゃないですか? そういう下品な表現はちょっと……なぜなら、私にとってプロレスラーとはもっと品のある、気高い存在だと思っているので。それを汚すようなことはしたくなかった。


実際、写真集を出すと発表したとき、ファンの方から『お願いだから脱がないで~!』という声をたくさんいただいたんですよ(笑)。お尻とかは出してはいるんですけど、男性の方だけでなく、同性の方にも、それこそお子さんにも楽しんでいただける作品になりました」

そこにはプロレスラーとして研ぎ澄ませた美BODYが写っている。何年か後に写真集を出版したとしても、このバッキバキな腹筋は再現できないだろう。

「そんなことを言われたら悔しいから、めちゃくちゃ鍛えて、いまよりもすごい腹筋を作りますよ(笑)。ただ胸筋とかは、受け身をとっているからこそなので、たしかにプロレスラーならではの肉体をお見せできるのは、これが最後かも知れないですね。だからこそ、プロレスラーとしての私を応援してくださっている方はもちろんのこと、私が闘っている姿を知らない方にも手にとっていただきたいですし、できれば試合も見てもらいたいですね」

11月12日、季節外れに狂い咲いた大輪の桜は両国国技館のリングで鮮やかに散る。だが、その満開の姿は写真集の中で永遠に生き続ける--。

【あわせて読む】SKE48荒井優希&赤井沙希がタッグ王座に挑戦「私たちのエネルギーを会場で受けとってほしい」