アイドルグループ「ゆるめるモ!」の元メンバーであり、独特の間と奇抜な発言でバラエティやCMで活躍中のあのちゃん。今回、映画『鯨の骨』で本格的な演技に挑んだ。
本作は10月13日より公開されている。

【写真】あのちゃん主演映画『鯨の骨』場面写真

といっても、あのが演技をするのは初めてではなく、今までに『咲-Saki-』(2017)や『サイレント・トーキョー』(2020)、『トリリオンゲーム』といった映画やドラマなどへの出演経験がある。ただ、今作では初の主演を務めることに。

独特の演技で注目される俳優・落合モトキとのW主演というかたちではあるが、突然消えてしまった女子高生というミステリアスな役柄を見事に演じている。

バラエティ同様に、あのの独特の間がミステリアスな側面をより強調するものとして機能しており、あのだからこそのキャラクター構造とも思える。ミステリアスでありながらもちょっと笑える部分があったり、あの自身がアーティストということも、大きな説得力をもたらしているのではないだろうか。

また今作はデジタル化、AR(拡張現実)化が進んだことで、俳優やアイドルが実際の存在としてではなく、あくまでコンテンツとして認識されている。

人々はリアルではなくデジタルな幻想を追い求めていることを俯瞰的な視点から描く。それによって、本人が不在であっても、コンテンツの中で生き続けば良いのだろうか……といった、まさに現代人の存在とは何か、どこにそれはあるのかを問う物語となっている。

コンテンツ化されることで、俳優としての価値が減少したり失われると声をあげた、昨今の全米俳優組合のストライキにもどこかで通じる部分がある。全体的な構造としてはライトなSF作品に思えるかもしれないが、今こそ考えるべきテーマが盛り込まれているという点では、現代社会を切り取った社会派な作品ともいえる。

今作の企画というのは、実は10年以上前からあったもので、セカイカメラというARアプリから着想を得ているのだが、当時はまだ社会がデジタルコンテンツの認識が薄く、実感がなかったため、なかなか企画が進まなかった。


しかし「ポケモンGO」が普及したことで、実社会とリンクする題材と認識され、今作の制作を本格的に後押しする要因となったのだ。つまり今作の監督・脚本を務めた大江崇允は、社会を俯瞰的に見る視点だけではなく、未来を見据える能力にも長けているクリエイターといえるのだ。

そんな大江が一躍脚光をあびた作品といえば、共同脚本を務め、アカデミー賞や多くの海外映画賞にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』(2021)が記憶に新しいが、シーズン2の制作が発表された「ガンニバル」や同じくDisney+配信ドラマ「すべて忘れてしまうから」などといった世界配信されている話題作にも関わっている。

すでに注目されているかもしれないが、今後、より世界的に注目されていくクリエイターのひとりであることは間違いない。

【ストーリー】
結婚式を間近に控えたサラリーマンの間宮(落合モトキ)は、ある日突然、婚約者の由香理(大西礼芳)から浮気しているとカミングアウトされて破局してしまう。なかば自暴自棄になった間宮は、職場の後輩の松山雄司(内村遥)から教わったマッチングアプリに登録。唯一返信をくれた若い女性(あの)と喫茶店で待ち合わせる。車で自宅のマンションに向かいながら、間宮は相手がまだ女子高生であることに気づく。一瞬躊躇するも、どこか挑発的な少女の誘いについ乗ってしまう。しかし先にシャワーを浴びている間に、少女は大量の薬を飲んで自殺してしまっていた。死体の傍らには、「さようなら 冷めないうちにどうぞw」と書かれたメモが置かれていた……。

【クレジット】
監督:大江崇允
出演:落合モトキ、あの、横田真悠、大西礼芳、内村遥、松澤匠、猪股俊明、宇野祥平ほか
脚本:菊池開人、大江崇允
音楽:渡邊琢磨
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
(C)2023『鯨の骨』製作委員会
10月13日(金)より渋谷シネクイント、シネマート新宿ほか全国公開

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