7月から放送した夏ドラマの中でひときわ話題を集めた日曜劇場『VIVANT』(TBS系)。その熱をしっかり引き継ぎ、秋からの日曜劇場でも熱中させてくれそうなドラマ『下剋上球児』が10月15日からスタートした。
本作はノンフィクション作品の同名原作から着想を得て制作されたオリジナルストーリーとなっている。

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大筋のストーリーは、元高校球児で現在三重県立越山高校で社会科地理・歴史を担当している南雲脩司(鈴木亮平)が、部員1名の野球部顧問に就任して甲子園を目指すというもの。正直“ベタベタなストーリー”ではあるが、高校野球を通じて現代社会の教育、地域・家庭の問題などにも切り込むようだ。本作のプロデューサーを務める新井順子氏は『MIU404』『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』といった様々な社会問題を扱っていたドラマを手がけた経歴がある。日曜劇場らしいアクロバティックな展開はもちろん、登場人物が抱えている、また直面する問題を繊細に描いてくれることにも期待したい。

1話では、2016年3月から始まり、その時は部員は2年生の日沖誠(菅生新樹)のみだったが、4月になって新入生が入ったことで何とか人数が揃い、練習試合が組まれる。ただ、練習試合を予定していた高校が、越山高校が弱小校ということもあってか、ドタキャンされてしまう。せっかくメンバーが集まり、気持ちが高まっていたにもかかわらず、幸先の悪い船出となった越山高校。

しかし、脩司が町中を駆け回り、急遽草野球チームと練習試合をすることに。試合は2対12の大敗だったが、エース候補の犬塚翔(中沢元紀)の投手としての成長を予感させる、なにより過去の出来事によって野球から遠ざかっていた脩司の心にもう一度情熱を宿す熱い展開が見られ、今後の放送がますます楽しみになる内容だった。

1話を見て特筆すべき点は、本当に野球の試合を観ているかのようなリアルなプレーだ。スポーツを題材にしたドラマの場合、どうしても役者の動きたどたどしさを覚えるケースは珍しくない。
とりわけ、野球は打つ、走る、守る、投げるなどやらなければいけない動作が多い。「打ち方は良いけど投げ方に違和感がある」「投げ方は良いけどベースランニングが直線的すぎる」といったことが目に付く。

ただ、本作に出演している生徒、もとい選手は演技と野球の実技テストなど約半年間にも及ぶオーディションを突破した面々が務める。試合中の動きに違和感を覚えることはなく、誠の投球フォームもとても綺麗。菅生は身長183センチあり、その長い手足からボールを投げる姿は何度でも見たくなる。また、登場人物をアップで映したり、ポイントポイントでスローモーションを入れることで、ぎこちないプレーは目立たない。むしろ映像に緩急が生まれ、より一層臨場感が生まれている。

個人的に試合中で興奮したシーンがある。6回表にミスが絡んで大量8失点してしまい、チームの雰囲気が最悪になっている中、6回裏の攻撃前の円陣でこれまでは控えめに声を出すだけだった脩司が「全部を打とうとしなくて良いんだよ。自分の得意なとこだけ絞って狙ってこう」「大丈夫、自信を持て」とアドバイスを送る。

そこから越山高校の空気がガラリと変わり、先頭の楡伸次郎(生田俊平)が打席に入ってバットを1回ぐるりと回して、バットを立てて構えに入った時、バットの先端から根本にかけて太陽の光がキラッと反射するシーンは胸が高鳴った。金属バットだからこそ映えるこの演出には、勝手ながら制作側の野球愛を感じざるを得なかった。


演出で言うと、試合中は実写のプレーだけではなく、アニメーションでのプレーがところどころ入っていることには驚いた。ボールを真芯でとらえる瞬間、ボールがバックホームされてクロスプレーになる瞬間など、ハイライトとなるその数秒間をアニメーションで表現している。

実写ではどうしても表現が難しく、なおかつ無理に表現するチープに映ってしまうこれらのシーンをアニメーションにすることで、試合中の緊張感を失わさせず、その熱を逃さないように配慮しているように感じる。実写とアニメーションが行き来する映像にはまだ慣れないが、話数が進むごとにアニメーションをむしろ待ち望むようになるかもしれない。

しっかり野球が描かれており、ストーリーだけではなく試合も楽しみになる。次回以降もどのようなプレーが飛び出すのか楽しみにしたい。

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