井上 今回の参議院選挙(7月21日投開票)を取材する中で蓮舫さんの応援演説を拝見して、どれも聴衆に語りかけるように話されている印象を受けました。
蓮舫 1人ひとりに考えてもらいたいというのが、一番ですね。例えば、「老後2000万円の問題」でも、一方的に「国会で取り上げられた経緯はこうで、こういう終わり方でした」と話すのは簡単ですが、報告を聞いても自分事にはなりにくいでしょう。だから、「あなたの65歳は何年後ですか?」「そのときに2000万円は本当に必要だと思いますか?」「そんなに貯められますか?」と問いかけて、間を取ります。すると、みんな一旦考えてくれるんです。そこで、「(貯めるのは無理そう)じゃあ、どうしましょうか?」と投げかけ、「私たちの考える年金制度のあり方はですね……」と語り始めると、一体となって話している感覚になれる。私は、演説はそういうものだと思っています。
井上 問いかけた後に一呼吸置くのが大事なんですね。
蓮舫 そう。数字を出し、考えてもらい、自分事として想像してもらった上で、「立憲民主党の答えはこうです」「この候補者はこの部分で仕事ができるんです」と言うと、全部がつながっていくでしょう。
井上 そうですね。
蓮舫 私はわざわざ暑い中、雨の中、立ち止まってくださった人たちの10分、15分をムダにしたくない。
井上 蓮舫さんは元々タレントとして成功されていたのに、落選も含め、いろんなリスクのある政界へ進むのを選んだのはどうしてですか?
蓮舫 私は18歳のときにクラリオンガール(カーオーディオメーカー・クラリオンのキャンペーンガール)に選ばれて、そこから大学を出るまでにテレビのレギュラー番組を多数持っていたし、大学を出て24歳でワイドショーの司会になり、それから25歳でニュースキャスターになりました。全部やってしまった感があって(笑)。
井上 でも、それだけうまくいっていたのに……なおさら不思議です。
蓮舫 テレビの仕事を一旦、休もうと決めたのはバブルが崩壊した後で、不景気とともにドキュメンタリー番組がどんどんなくなっていきました。今はもう『NHKスペシャル』以外ほとんどなくなりましたが、昔はすべての局がドキュメンタリー番組を持っていたの。例えば、8月15日前後には2時間枠で「戦争とは?」を問いかける番組があるのが当たり前でしたが、今年は見事にNHK以外なかった。これが今のテレビの懐事情なんですよ。
井上 懐事情というと?
蓮舫 単純に、ドキュメンタリー番組は制作に一番お金と時間がかかるんです。私がニュースをやっていた時代から、今につながる変化が徐々に始まっていて、子請け、孫請けと制作が下請けに出されて、局が番組を作らなくなっていった。当時の私は27歳で、「このままやっていても仕事がなくなる」と思ったの。
井上 えー!
蓮舫 だって、局アナが派遣になる時代だったから。私も何かスキルを身に付けなくちゃいけないと思って、中国語を学ぶために北京大学に留学しました。私は台湾系ですが、日本で育っているからニーハオとシェイシェイしか言えませんでした。それで学校の外に出たら言葉が通じない世界に飛び込んで、その後、29歳で日本に戻って双子を出産。でもやっぱりドキュメンタリー番組がやりたくてリポーターから仕事を再開したけど、現実にはどんどん番組がなくなっていく。どうしようかな……と悩んでいたとき、お亡くなりになった仙谷由人さん(元官房長官)から「政治をやらないか?」とお声がけをいただきました。
蓮舫 ドキュメンタリー番組を通して子ども問題に向き合っていましたが、仙谷さんから「そういう問題はテレビからだけでなく、法律でも解決できる。外から見るんじゃなくて、中から変えないか」と言われたのが、刺さったんですよね。そのお話をいただいたのが2004年の3月で、その年の7月の参議院選挙に出たので、「政治の世界はリスクがある」なんてまったく考えてなくて。むしろ、私にとってリスクがある選択だったのは芸能界で生き残ることだった。
井上 「もし私だったら……」と考えたら、新しい世界に打って出るよりも、「芸能界でなんとか生き残っていきたい」と思っちゃいそうです。
蓮舫 しがみついてクオリティが維持できるかどうか分からないでしょう? だって、取って代わるタレントは掃いて捨てるほどいるから。
井上 ……正直、私も1カ月後、2カ月後どうなっているのか分からないです。仕事がないかもしれない、と不安な中でずっとやっています。
蓮舫 その点、参議院は6年、衆議院は4年の任期があり雇用形態でいったら有期契約です。どっちにリスクがあると思いますか?
井上 確かにそうですね。
蓮舫 私の場合で言えば、テレビでやりたかったことと政界で成し遂げたいことが変わらなかった。1人ひとりの命を守りたい、子どもたちのイジメをなくしたい、この国の無駄遣いや財政を改善したい……。それを法律という制度でやるのか、テレビというメディアでやるのか。
井上 手段の違いなんですね。
蓮舫 そういうことです。どこにいてもリスクはある。だからこそ、自分の中で「私は何をやろうとしているのか」という軸をしっかり持っていれば、どの世界に行っても絶対に大丈夫。
井上 自分の軸を持って……ですね。実は今日、芸能界で生き残るアドバイスもいただけたらなと思っていたんですけど(笑)、先に答えをいただいた気がします。著書でもおっしゃっていましたが、蓮舫さんは物事を5年単位で考えているんだとか?
蓮舫 小さいときに父にそう教えられて。小学生のときは中学、中学生のときは大学、大学生のときは社会人を見ろ、と。5年という単位はリアルなんですよね。将来が。咲楽さんは今、19歳でしょう。24歳で何をしているか想像してみて。結婚しているか、どんな仕事をしているか、自分はどんな体型で、どんな大人の女性になっているか。
井上 うーん……。
蓮舫 実はそれって全部、今から取りかかれば作れます。結婚したいと思うなら、相手を探す5年間にすればいいの。
井上 ああ、なるほど。
蓮舫 でしょう。こんな仕事をしていたいと思っていたら勉強して足りないものを学んでいけばいい。5年というのは、それができる時間なんですよね。1カ月後、1年後はあっという間に流れていくから。
井上 今もそれは変わらずですか?
蓮舫 うん。
井上 国会議員の仕事、大変だなと感じることありませんか?
蓮舫 とっても刺激的で面白い仕事だよ。だって、勉強できるんだもん。国会図書館の資料を活用できるし、各省庁からも直接説明を受けることができるし、問題点があった場合には実際に自分で指摘することもできる。しかも、法案を出すこともできますから。
井上 疲れちゃったりしませんか?
蓮舫 ないね!
井上 きっぱり(笑)!
蓮舫 まず、「どうなっているんだろう?」と調べていくのが楽しい。調べていると問題点が見えてきて、それをどうしたらいいのかと探っていく。
井上 大変よりも楽しいが先に来るんですね。
蓮舫 じゃなきゃ、政治家を続けてられませんよ(笑)。
井上 続けていく秘訣は、知識欲なんですね。今まで最もやりがいがあった瞬間はどのときですか?
蓮舫 常にやりがいはありますが、よく覚えているのは2004年に初めて本会議で登壇したときかな。児童福祉法の改正案についての質問をしました。また厚生労働委員会でも質問しました。当時、児童養護施設の児童福祉司さんたちの配置基準は昭和51年から約30年間変わっていない状態で、虐待を受けている子どもを救うのが大変な状況だということを指摘しました。その後、この問題は超党派で話し合われて改善され、一般的には目立たない小さな変化でも確実に現場は変わっていく。もちろん、児童福祉法には今も足りない点があります。それでも少しずつの積み重ねの延長線上で、今回の通常国会では改正した児童虐待防止法が成立し、次は民法を変えましょう、という動きになっていて、全部がつながっているんです。ゆっくり過ぎるとは思いますが、必ず現場を変えることができるという達成感。これが大きいです。
井上 私も国会や委員会を傍聴するようになって、目の前でいろんな話が進んでいくのが政治の力なんだなと思いました。でも、周りの政治や選挙にあまり関心のない友達に聞くと、変化が届いていないんですよね。だけど、ペットを飼っている人は、ペット法案のニュースに反応するし、当事者になると細かいことまで法律が整っているんだなって気づくから、もっとこういう見方が広がっていったらいいのに、と感じています。
蓮舫 政治と聞くと、外交から内政まで全部を押さえなくちゃってイメージがありますが、そんなことはないんです。ペットを飼っている方、不妊治療に向き合っている方、特別養護老人ホームの待機の多さに困っている方、自分事として捉えることのできる問題の向こうには全部、政治がありますから。本当に関心のあるところを1つ見ているだけで、政治は自分事になる。この感覚をもっともっとみんなに持って欲しいなってことは、すごく思います。
井上 今の話を選挙に興味ない人が聞いたら、「選挙に行かなきゃ」となってくれるのかなと思いました。
蓮舫 ね。なってほしいですね。
(『月刊エンタメ』2019年10月号掲載)
「取材を終えて」~井上咲楽の感想~
取材中、絶対に私から目を逸らさない蓮舫さんの目の奥には、本当に政治が好きなんだという生き生きしたものがあったような気がします。参院選の演説で感じた説得力の強さは、蓮舫さん自身の内面から滲み出ているものなのでしょう。そして、臨時国会前に大注目の立憲民主党と国民民主党。絶対に守りたいものと、守るための妥協。今はお互いにとってとても難しいけど、大切な時期だと思います。
蓮舫議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊


『昭和史1926-1945』『昭和史戦後篇1945-1989』(半藤一利 著/平凡社 刊)
作家の半藤一利さんはこの国の歴史をとてもよくご存じで、噛み砕いて書いていらっしゃいます。特に『昭和史』は軍事によって支配され戦争に突き進んでいく時代の昭和、戦後の昭和の二部作で、その間にある1945年の8月15日を切り取って書いた『日本のいちばん長い日』を合わせて読んでもらいたい。難しく感じるかもしれませんが、人物名や事件名をネットで検索しながら、ゆっくりでも読み進めると、歴史は政治だということがよく分かります。それと私は、中学生のときに配られた日本史と世界史の資料集が好きで。歴史物を読むとき、私は必ずあれを手元に置いています。日本史と合わせて横軸で世界史を見ると、意外な気づきがあって面白いんですよ。
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。現在は『くすぐる』(テレビ愛知)などにレギュラー出演中。
Twitter:@bling2sakura
▽蓮舫(れんほう)
1967年11月28日生まれ、東京都出身。青山学院大学卒業後、報道キャスターなどを経て、2004年の参議院選挙で初当選。民主党政権時代、内閣府特命担当大臣などを歴任。