「世界的なギターメーカー・ギブソンが2018年5月に破産宣告した」というニュースを聞いた時、バンドマン人口が減少していることを察した。筆者もギターやベースを時々嗜んでおり、ちょくちょく音楽スタジオに足を運ぶが、すれ違うバンドマン達の年齢は若いとは言えず、かつてほどの盛り上がりを感じなくなった。
バンドマン人口のメイン層は、音楽サークルに所属する大学生ではなく、ある程度年を取った人に移り変わりつつあるのかもしれない。

【関連写真】ドラマーの代名詞であるX JAPANのリーダー・YOSHIKI

バンド人口の減少を日々感じているが、ドラマーの少なさは顕著である。実際、ネットのメンバー募集掲示板などを利用してバンドを組もうとすると、ギターやベースは比較的簡単に見つかるが、ドラマーはほとんど見つからない。こちらからドラマーに声を掛けても「今複数のバンドを掛け持ちしていて……」と断られるケースは珍しくない。現在各地で人手不足が叫ばれているが、ドラマーの人手不足も深刻化している。

島村楽器が2023年5月に「店舗で2022年度下半期に売れた楽器ランキングTOP10」を発表したが、1位エレキギター、2位アンプ、3位ホルン、4位エレキベース、5位エフェクター。
また、2023年10月に発表した「店舗で2023年度上半期に売れた楽器ランキングTOP10」を見ると、1位ホルン、2位マルチエフェクター、3位エレキギター、4位エレキベース、5位アンプだった。ギターやベース本体、それらの周辺機器は売れており、バンド熱はまだまだ冷めていない印象。ホルンはコロナ禍が落ち着いて吹奏楽の活動が活発化していることが大きな原因だと考えられる。

しかし、ドラム関連のアイテムはいずれもランクインしていない。バンドを組もうと思った時、ギターやベースが簡単に見つかる一方、ドラマーが見つからない現状に納得感を与えてくれるランキング結果だった。

もちろん、ドラムは他の楽器と比べて買っても置く場所に困る。
加えて、家で練習するにしても防音の観点から、同居人や近隣住民に気を配る必要があり、気軽に始めにくいことがドラマー不足の主要因だと思う。ただ、そういった要因と一旦置いておいて、なぜドラマーが不足しているのかを考察したい。

まず2022年10月から放送され、人気を集めたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響が考えられる。本作の主人公で、ギターが上手な女子高生・後藤ひとり(通称:ぼっちちゃん)に憧れてギターを購入する人は少なくなかった。ただ、『ぼっち・ざ・ろっく!』同様にバンドブームを巻き起こした『けいおん!』の1期が2009年に放送された時、ドラマー不足はあまり起きなかったと記憶している。

『けいおん!』は主人公が平沢唯だったが、各メンバーにバランスよくスポットライトが当たっていた。
一方、『ぼっち・ざ・ろっく!』はぼっちちゃんをメインに映しているため、ギターを買う人が増えているのだろう。

ギターを弾ける場合、ベースを弾くことに対する技術的にも精神的にも抵抗が低くなるため、ギタリスト増加に伴ってベーシストも一緒に増加しているのかもしれない。過剰にギタリストとベーシストが増加した結果、ドラマーが取り合いになってしまい、昨今のドラマー不足につながっているように思う。

“打ち込み”が定着したことも大きい。10~20年前もドラム音源を打ち込み、ドラマー不在でスタジオに入るバンドマンは少なくなかった。ただ、ここ最近はボーカロイドの一般化に伴ってDTMが普及。
打ち込みに対するハードルは下がり、さらにはソフトやアプリ使い勝手も向上して、簡単にドラム音源を作成できるようになった。

加えて、SEKAI NO OWARIをはじめ、Suchmosのキーボードを務めるTAIHEIが結成した賽(SAI)などドラムレスのバンドは今では珍しくない。「ドラムがいなくても打ち込みすればバンドが組める」という意識が広がっているのかもしれない。

また、ボーカロイドだけではなくEDMやHIP HOPも人気を博している。ドラムの生音よりもエレクトリックなドラムサウンドを好む人も増えており、“むしろドラムはいらない”と考えてドラムパートを打ち込みに担わせるバンドも結構いるのではないか。ある意味ドラマーの需要が減っているため、ドラムを始める人が減っている可能性も伺える。


ドラマー不足は“時代の流れ”なのかもしれない。ただ、最後に筆者が考えるドラマー不足を解消するためのアイデアを示したい。やはりぼっちちゃんという“ギターヒーロー”に憧れてギターを買った人が多いように、“ドラムヒーロー”の登場が必須なのではないか。ドラムヒーローとして真っ先に浮かぶのはX JAPANのYOSHIKIである。

YOSHIKI以降もシシドカフカやピエール中野(凛として時雨)、Reiji(AINSEL、元dustbox)など、ドラムスキルやカリスマ性を持ったドラマーは何人も登場した。ただ、YOSHIKI、またぼっちちゃんほど世間一般に浸透しているかと言えば、そうではない。
YOSHIKIくらい誰もが知るドラマーが現れることに期待しながら、地道にドラマー探しに励みたい。

【あわせて読む】『葬送のフリーレン』2時間SP『推しの子』90分、初回放送が長いアニメが流行る背景とは