11月18日、テレビ東京60周年記念式典にて謎めいた式典『祓除(ふつじょ)』が開催された。事前番組として祓除師兼俳優・いとうよしぴよ氏が登場する奇妙な映像が公開されたほか、当日には式典の模様が配信され、SNS上でさまざまな考察を招くこととなった。


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そんな同イベントを手掛けたのは、テレビ東京の名物プロデューサー・大森時生氏。彼はこれまでにも“奇怪な作品”を次々世に送り出してきた人物として知られている。

大森氏の名が知れ渡るきっかけとなったのは、おそらく2021年末に放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』だろう。同番組は、日本全国の多忙を極める奥様のもとに芸能界の“おせっかい奥様”を派遣し、家事や育児をお手伝いするというバラエティ番組。全4回で放送され、声優金田朋子とお笑いタレント・紺野ぶるまがロケに挑んでいった。

一見すると、普通の家族とのほのぼのとしたふれあいを描いた番組なのだが、映像の随所に違和感を与えるような描写が存在。しかしMCのAマッソをはじめとした出演者は、一切それに触れることなく番組を進行するため、視聴者は何とも言えない居心地の悪さを体感させられる。

幸せそうな家族が最終的に迎える予想外の結末。そして番組の最後に表示される、「不自然だと思ったあなたは自然です」という種明かしめいたテロップ……。実は同番組の内容はすべてフィクションであり、バラエティ番組の体裁をとったホラーの一種なのだ。

こうした虚構と現実が入り交ざるような疑似ドキュメンタリーは、近年「モキュメンタリー」としてブームを呼んでいる。大森氏はその枠組みを“テレビ番組”というフォーマットに組み込むことで、独自の企画を世に送り出してきた。


2022年末に3夜連続で放送された『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』は、さらに“尖り”を増した番組だったと言えるだろう。その内容は、昔放送されたテレビ番組の貴重な録画テープを視聴者から募集し、紹介していくというもの。しかし蓋を開けてみると、集まったのはどこか奇妙な映像ばかり。さらに放送時間の大半は、『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』という謎の昭和バラエティに割かれていた。

この番組はいかにもな昭和のノリと雰囲気で進行していくのだが、視聴者のビデオ投稿コーナー「見て! 聞いて! 坂谷さん」に突入したあたりから様子が激変。不可解な映像が度々登場し、次第に番組出演者たちの発言が理解不可能なものとなっていく。

不気味なのは、発言内容がおかしなものとなっても出演者たちの様子が一切変わらないことだ。それどころか、映像を見守るMCのいとうせいこう井桁弘恵たちも異変を気にせず、むしろ彼ら自身が異常な空気に飲み込まれていく。

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』と同じく、バラエティの皮を被ったモキュメンタリーというわけだが、こちらは番組内で明確な“答え”が用意されていない。不可解な映像の正体は何だったのか、なぜ出演者たちはおかしくなっていったのか、そして彼らの末路は……。考察の余地が多く残っており、視聴者による考察が大いに盛り上がった。

極めつけといえるのが、2023年5月に放送された『SIX HACK』だ。
「あなたが偉くなるための番組」と銘打ち、ユースケ・サンタマリア松村沙友理を始めとした出演者たちが、自己啓発めいたライフハックについて語り合う番組だった。

第1回目の放送でテーマとなったのは、“会議で優位に立つ方法”。その内容は「相手の発言を個人の意見にすぎないと断定する」「答えづらい質問を相手に振ることで場を掌握しろ」といったもので、出演者たちは真面目にその方法を語る。多少屁理屈のように思われるが、ここまではまだ序の口だろう。

第3回目の放送では、ライフハックの域を飛び越え、“集合的無意識”をテーマに番組が進行していく。「“No eyes”と呼ばれる既得権益層が裏から社会を回している」といった陰謀論的な思想が展開された挙句、「真=神(シン)」と繋がるための鍛錬方法まで紹介。おまけにラスト10分はひたすら電子ドラッグのような映像を流し続ける始末だ。

この番組もまた種明かしが一切用意されておらず、視聴者は真実と虚構の狭間で困惑させられるという仕組みで、さらにモキュメンタリーとして過激さを増していた。しかし過激すぎたゆえにクレームを招いたのか、4週目の放送が突如放送休止に。もともと全6回を予定していたはずが、そこで打ち切りとなったことが発表された。

同番組には、構成としてウェブサイト「オモコロ」のライターでお馴染みのダ・ヴィンチ・恐山氏が参加。打ち切りに際して、自身の「note」で「無念。
ちゃんと全6回走りたかったが……」とコメントしていたが、真相は定かではない。

大森氏の試みはある意味、モキュメンタリーを通して、テレビ業界に風穴を開けるものだと言える。その挑戦を目の当たりにした視聴者は、「こんなものをテレビで放送してもいいのか?」というスリルを味わえるはずだ。

ちなみに大森氏はこうした企画のなかで、ダ・ヴィンチ・恐山氏以外にも、『フェイクドキュメンタリー「Q」』の監督である寺内康太郎氏や、『かわいそ笑』や『6』などの怪談で知られる梨氏とも手を組んできた。攻めることをやめないクリエイター陣が、どんな禍々しい番組を作り上げていくのか今後も期待したい。

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