世間が抱く稲垣吾郎のイメージといえば、クールでミステリアス。そして紳士的でやさしい部分もある──。
ドラマの配役で表すと、御曹司役などが似合いそうな雰囲気だ。だがそんなパブリックイメージを持ち合わせていながらも、俳優としての稲垣は何かと胸の奥に底知れない闇を秘めたような悪役(ヴィラン)を演じることが多い。12月14日からNetflixで世界同時配信される実写版『幽☆遊☆白書』でも、“左京”という狂気のギャンブラーを演じるようだ。

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左京は「B.B.C.」という巨大密売組織のメンバーで、自分の命すら賭けの対象にする生粋のギャンブラー。悪役的なポジションで登場したキャラクターではあるが、最後までギャンブラーとしての美学を貫くなど、読者の共感を呼ぶ側面もある。

そんな左京の実写化に際して抜擢されたのが稲垣だ。
すでに公開されているティーザー映像を見てみても、普段の柔和な印象から一変して、いかにも裏社会にいそうな長髪の男に仕上がっている。本編の配信はまだ先だが、ハマり役と見て間違いないだろう。

ところで稲垣が悪役を演じた作品といえば、2010年に公開された映画『十三人の刺客』が鮮烈に記憶に残る。ちょうどSMAPが19枚目のオリジナルアルバム『We are SMAP!』を出したくらいの年だが、同作で稲垣は明石藩主・松平斉韶という残忍な暴君を演じているのだ。

特に斎藤工が演じた牧野妥女を、無表情で斬り殺すシーンはまさに怪演のひと言に尽きる。倒れた妥女を念入りに斬りつけた挙げ句、「山猿の骨は硬いのう」となんでもないことのように言う様は、観客を凍り付かせるのに十分すぎる迫力と、得体の知れなさを放っていた。


稲垣自身は善良な人柄をイメージされることが多いにもかかわらず、なぜか“悪役”が回ってくることが多い。しかもそうした役柄に対して、抜群の適性を発揮しているように見える。

ひと言で悪役といっても、タイプは作品によってそれぞれ。例えば2010年に放送された竹野内豊上戸彩の月9ドラマ『流れ星』(フジテレビ系)で稲垣は、ギャンブルで多額の借金を抱えたクズ男・槇原修一を演じていた。

物言いは穏やかで一見誠実そうにも見えるようなキャラクターだが、上戸彩が演じる妹に借金を押し付けたり、その結婚相手の岡田健吾(竹野内)からもお金をゆすったりと、紛れもない悪役。稲垣自身が醸し出す柔和な印象が、逆に“リアルなクズ男”感を演出していた印象だ。


また、11月10日より公開が始まった新作映画『正欲』では、検事の寺井啓喜を熱演。これはわかりやすい悪役ではないが、見る人によっては悪役としても映るという絶妙な役どころだ。

このキャスティングについて、監督の岸善幸氏は舞台挨拶で「稲垣さんは本当にジェントルマンでエレガントなのですが、どこか狂気性のようなものも垣間見える方」「段々と普通の価値観が揺らいでいき、狂気性が出てくるキャラクターなので、そういう意味で稲垣さんはピッタリでした」と語っていた。

フィクションの悪役といえば、露骨に残忍な表情を見せたり怒鳴ったりと、感情を露わにするタイプも少なくない。だが稲垣が得意としているのはおそらくそうした役ではないのだろう。悪を演じる稲垣の魅力は、言うなれば冷たい狂気。
稲垣がいつもの“あの感じ”で穏やかに不穏なことを言うだけで、痺れるような緊張感が画面に生まれるのだ。

そういった意味でも実写版『幽☆遊☆白書』で演じる左京役は、稲垣にピッタリなキャラクターといえる。原作ファンをうならせるような演技を見せてくれることに期待しよう。

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