映画コメンテーターの有村昆が、読者からのお悩みにあわせて、オススメ映画を紹介するシリーズ企画「映画お悩み処方箋」。第9回目の今回は、夫へのストレスが爆発しそうだという主婦からのお悩みが届きました。
さて、アリコンが選んだ解決につながる2作とは…?

【写真】写真を見るだけで切ない気持ちに…『花束みたいな恋をした』場面カット【9点】

▽お悩み
結婚して7年、話し合いができない夫へのストレスが限界です。夫婦間で揉め事がおきたとき、私は何が原因で意見が食い違ったのかをお互いに見直して、今後どうすれば改善できるかを話し合うのが一番いいと思っています。ただ、夫に話をふっても「もっと楽しい話しようよ」「空気悪くするのやめようよ」とすぐに会話をはぐらかし、「話し合いとか、真面目か!(笑)」と茶化されてまともに取り合ってくれません。会話がダメならLINEで、と長文を送ってもスタンプで返してきます。どうやったら夫と話し合いができるようになるでしょうか?(主婦 45歳)

これは僕自身も身につまされるといいますか、胸に手を当てて考えたくなるようなお悩みですね…。

まずは夫婦が重ねたきた日々というか、時の流れを思い出していただくために『花束みたいな恋をした』という作品を観ていただきたいです。


菅田将暉さんと有村架純さんのW主演で、監督が土井智生さん、そして脚本が『怪物』も手掛けた坂本裕二さんです。この坂本さんの脚本が凄すぎて、全てのシーンにちゃんと意味があるという作りになってます。

簡単にお話だけ説明すると、サブカル好きな大学生の男女が出会って、お互いに「これ知ってる?」と盛り上がって、マニアックな趣味が合うということで付き合うことになり、同棲して、5年経っていよいよ結婚するという時期に別れてしまうという物語です。

最初はすごく熱量の高い恋愛だったのに、だんだんズレが生じてくる。菅田将暉くんが演じる麦くんは、イラストレーターを目指して活動していたんですけど、ちゃんとお金を稼いで、彼女の面倒を見なくちゃということで、ある企業に就職して、営業職になって、忙しく働くようになる。

有村架純さん演じる彼女の絹ちゃんは、彼と一緒にいる時間がどんどん少なくなっていくにつれて、彼は私の方を向いてくれないと思うようになる。
仕事もいいけど、二人の時間を一緒に共有することが、あるべき姿ではないか、と。そうやって、どんどんずれていってしまって、結果別れてしまうんです。

今回のお悩みも、似たような要素があるんじゃないでしょうか。どんな関係でも、いつまでも同じ状況に居続けるというのは難しいことなんですよね。

旦那さんも、実はいろいろ考えている。その上で、LINEの長文にスタンプで返事することが、最良の方法をだと思ってやっているかもしれない。
でも、奥さんにしてみたら向き合ってくれていないと感じてしまう。

確かに寂しいかもしれないけど、それが現状に沿ったコミュニケーションなんです。

もっと話し合いをしたいという気持ちもわかりますが、それを力尽くでやってしまうと、この映画の麦くんと絹ちゃんのように、すべてが崩れてしまうこともあるんですよね。

腹を割って、不満を口にした瞬間に、一瞬で亀裂が入ってダムが崩壊するかのように終わってしまう。相談者さんは、それを覚悟の上で話し合いたいのか、ということですよね。

なので大前提として、「なんで変わっちゃったの?」と詰めるのではなく、人は変わるものだということを受け入れてから、話を初めてほしいですよね。


この『花束みたいな恋をした』を観ると、男と女、どちらも正しいことを言ってるんだけど、見方によって全然違う。その掛け違いを映画を通して客観視して見てみると、自分がどちらの視点でみるか、ヒントになると思います。

ちなみに、僕は圧倒的に麦くんが正しいと思う派ですね。だって、お金がなくて、趣味で生きていけばいいなんて無理ですから。

そしてもう1本のおすすめ作は『君に読む物語』です。ニック・カサベテス監督で、お母さんがジーナ・ローランズという女優さんなんですけど、本作には出演もしています。


これは、施設に入っている認知症の女性の傍らで、お爺さんがとある物語を読み聞かせてるところから始まります。

ノアとアリーという身分違いの男女が出会い、格差を超えて愛し合っていくというお話です。

アリーは裕福な家に育った女の子で、その母親は娘には弁護士と結婚してほしいと思っている。ノアはアリーに毎日手紙を書いていたんですけど、このお母さんがずっと隠し続けていたんです。

そうやって、ふたりの関係を断っていたんですが、アリーは弁護士との結婚式の前に、ノアに会いにいってしまうんです。お母さんはアリーを連れ戻しに行くんですが、その時に、砂利工場で働くオーバーオール姿の太ったオジサンを指して、「私はパパじゃなくて、 あの男のことが好きで駆け落ちしたの。
でも別れていまのお父さんと結婚した」と告白するんです。それでアリーは説得されて、婚約者のもとに帰ろうとするんですね。

ここで、考えてしまうのは、誰の人生にも選択肢はいろいろあって、そのどれかを選んだからいまの自分がいるということなんです。

相談者の方だって、別の人と結婚する可能性もあったと思うんです。でも、色々あって、今の夫と結婚したわけじゃないですか。 かつて好きだった人がいたかもしれないけど、結局はいまの旦那さんを選んだというのは、変えられない事実です。今の夫と結婚を決めた当時の気持ちを思い出してみてください。

もしかしたら、相談者さんは、昔は旦那さんがそうやって深刻にならないで軽く答えてくれるとこが好きだったかもしれない。それが年を取ってきて、その軽さに耐えられなくなってきた、という側面はないですか。それだと変わったのは旦那さんではなく、相談者さんなんですよね。

やっぱり男女って分かり合えないからこそ魅力的に感じる部分があって、ぜんぜん違う人間だからこそ惹かれ合うこともあると思うんです。

よく、人が恋愛感情を抱けるのは3年が限界です、みたいなことが言われているじゃないですか。確かに、そんなものかもしれないですけど、乗り越えることもできる。

なので、ご夫婦でいっしょに『君に読む物語』『花束みたいな恋をした』を見ていただいて、どっちの映画が好きかでもいいですし、お互いどう感じたかなど、話し合いのきっかけにしていただければと思います。

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