【写真】役所広司が魅せる静かな存在感…『PERFECT DAYS』場面写真【3点】
そんな小津の作品の大ファンでリスペクトしているドイツ人監督ヴィム・ヴェンダース。『アメリカ、家族のいる風景』(2005)や『世界の涯ての鼓動』(2018)で知られているが、ヴィム版『東京物語』ともいえる作品となるのが、現在公開中でゴールデングローブなどの海外映画賞でも高い評価を受けている、現代の東京を舞台にした『PERFECT DAYS』。
国内でも東京国際映画祭で話題となったことが記憶に新しい。
ヴィム・ヴェンダースといえば、過去に『東京画』(1985)というドキュメンタリーを撮っている。この作品は、鎌倉にある小津の墓を訪れたり、当時の日本の日常風景を映し出したものであったが、今作においても着眼点としては、近いものを感じずにはいられない。ほかにもいくつかのドキュメンタリーを撮っているが、今作は劇映画とドキュメンタリーの中間のようなテイストに仕上がっている。
今作は、役所広司演じる、東京のトイレ清掃員の仕事をする孤独な男の数日間を淡々と映し出した物語であり、セリフもあまりない。確かに現実では、映画やドラマのように、日常生活において、ひとりでいる際に言葉を発しないのだから、そこにもリアリティを感じてしまうのだ。
セリフが無いからといって物語が理解できないのかというと、決してそうではなくて、セリフではなく、役所の表情と自然と漂う哀愁によって、徐々に人物像が描かれていく。観客側も平山がどういった人物で、どういった過去があるかなどを探求する楽しみを見出すことができ、目が離せなくなるのだ。
やはりそこには単に『Shall we ダンス?』(1996)や『バベル』(2006)などで、世界でも少しは知名度のある日本俳優という理由だけではなく、役所広司という俳優の存在感があってこそというもので、役所の存在がなければ成り立たない作品だといえる。
平山は、只々黙々と清掃員という仕事をしていく。
そんな平山も仕事終わりのちょっとした晩酌やカメラや音楽、読書の趣味など、日常にちょっとした幸せを感じる時々があって、またそれが自分の生きる道だと確信している。目と鼻の先には、スカイツリーと大都会東京が広がっているが、平山にとっては別世界であって、幻影でしかないと言い聞かせているかのようだ。
ところがある瞬間で、そんな別世界が物凄く近くに感じるときがある。それは寄り添うというよりも、極端に突き放される瞬間である。偶然にもAmazonプライムビデオで12月から配信開始されたインド映画『慌てず騒がず』にも近い描写があった。現実社会、特に都会の場合は、富と貧困の境界線が存在しており、それが比喩ではなく、実際に目の前に立ちはだかる瞬間というのがあるのだ。
決してそこにはたどり着けないのと確信している平山だが、どうして人生は、こうなってしまったのかという想いに引き戻される瞬間は、現実社会にも溢れていることであるからこそ、そこには嫌なリアリティがある。
観客としても、境遇や年齢によって、個人個人でそれは違ってくるのだから言語化が難しいことではあるが、決して他人事ではない何かを感じるはずだ。
ただ今作は、重圧なテーマである一方で、東京にある様々なデザイナーズトイレが映し出されることから、”東京トイレ図鑑”的側面からも楽しめる作品だといえるだろう。
【ストーリー】
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。
【クレジット】
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
製作:柳井康治
出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド
2023/日本/カラー/DCP/5.1ch/スタンダード/124 分
c 2023 MASTER MIND Ltd.
perfectdays-movie.
12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中。
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