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令和的価値観と昭和的価値観のギャップを鮮やかに描いてきた本作だが、今回はちょっと毛色の違うストーリー。
スカイツリーの夜景に感動し、カラオケで昭和歌謡を歌いまくり、急速に二人の仲は接近していく。恋に落ちた二人の姿は、キラキラしていて眩しいほど。同じドラマとは思えないほど、王道すぎるくらいに王道なラブコメ展開なのである。
その一方で市郎(阿部サダヲ)は、プロデューサーの羽村(ファーストサマーウイカ)と一緒に、大御所脚本家エモケン(池田成志)との打ち合わせに参加。その席でエモケンは、「田舎から出てきた17歳の女子高生と若いWEBライターが恋に落ちるが、少女にはある秘密があって、決してその恋は成就しない」というプロットを披露する。一国の王女と新聞記者の許されない恋を描いた『ローマの休日』(1953年)を引き合いに出して。
そう、今回のエピソード「回収しなきゃダメですか?」は、オードリー・ヘプバーン主演の名作を参照した作りになっているのだ。『ローマの休日』には、アン王女が美容院で髪の毛を短くカットしてもらうシーンがある。そして彼女の美しさに感動した美容師のマリオは、アンをダンスパーティーに誘うのだが、ナオキ=美容師という設定はおそらくこのマリオを参考にしたのではないだろうか。
江ノ島でのデートを楽しんだ純子とナオキは、雰囲気の良いレストランで最後の食事をする。
警察からの連絡で市郎(阿部サダヲ)たちが純子を迎えに来るが、その寸前に二人は牢屋越しにキスを交わしていた。牢屋の休日=ローマの休日。まさかのダジャレで、宮藤官九郎は恋愛映画の名作にオマージュを捧げてみせたのである。
第7話を観ていて、筆者は「今回のエピソードは、どこが不適切なのだろう?」と考え込んでしまった。そして、あるひとつの妄想が頭をもたげたのである。これは、<不倫>を描くための伏線なのではないか?
井上教授(三宅弘城)の説明によれば、市バス型タイムマシンが走行するのは土曜日の一便のみで、行きは早朝4時55分、帰りは3時55分。だから純子は、「土曜日になったら帰らなくてはいけない」とナオキに伝え、その前日の金曜日に最後のデートを楽しんだのである。
金曜日…それで思い起こされるのは、TVドラマ『金曜日の妻たちへ』だ。パート1からパート3まで制作されたこの作品は、バリバリの不倫ドラマ。今回のエピソードでも、『金曜日の妻たちへIII・恋におちて』主題歌「恋におちて -Fall in love-」が店内に流れるなか、サカエ(吉田羊)が息子の担任教師・安森(中島歩)に突然告白されるシーンがある(サカエは井上と離婚しているので、不倫にはならないのだが)。
第6話では、サカエが『金曜日の妻たちへIII』の再放送を食い入るように眺めているシーンがあった。『不適切にもほどがある!』には、妙に「金妻」オマージュが多い。これは、未来で純子とナオキが不倫することを暗示しているのではないだろうか?純子はカラオケで「恋におちて -Fall in love-」まで歌っているのだ。
…と勝手な考察をしてしまったが、宮藤官九郎にしてみれば視聴者の勝手な感想・考察に振り回されることも、令和カルチャーの辛いトコロなのだろう。明らかに自分自身をカリカチュアした脚本家エモケンは、エゴサしては落ち込むという負のスパイラルに陥っている。今回のタイトル「回収しなきゃダメですか?」は、なんでもかんでも伏線を張らなきゃダメなのか?という、自分への、そして視聴者への問いかけでもあるはずなのだから。
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