アイドルは時代の鏡、その時代にもっとも愛されたものが頂点に立ち、頂点に立った者もまた、時代の大きなうねりに翻弄されながら物語を紡いでいく。
に関するニュース">モーニング娘。の歴史を日本の歴史と重ね合わせながら振り返る。『月刊エンタメ』の人気連載を出張公開。18回目は2013年のお話。
2013年のテレビドラマ界を代表するヒット作に、『連続テレビ小説 あまちゃん』(NHK)がある。『あまちゃん』は過疎化が進む田舎町へ移住した女子高生・天野アキ(能年玲奈)が主人公の物語なのだが、視聴者を飽きさせなかった要素はなんといっても「アイドル」。アキの同級生である足立ユイ(橋本愛)も含めて、いつも劇中の成長ストーリーには“アイドルになりたい”という彼女たちの夢が深く関係していた。

「おら、アイドルになりてぇ! 歌って踊って、潜って、ウニ獲って、上がって食わせる! そんなアイドルになりてぇ!」(天野アキ)

フィクションの世界で生きる地方育ちの少女たちはこの後、様々な経験と出会いを経て、最終的にはご当地アイドルとして共に地域活性化に取り組むという決断をし、大団円を迎える。しかし彼女たちが、もしも上京して人気アイドルになっていたなら。そこには一体どんな物語が待っていたのだろうかと考えた視聴者も、当時少なからずいたはずだ。

「あまちゃん」旋風が巻き起こったこの2013年、モーニング娘。には偶然にもそんなifを想像させる2人の地方出身者が同時にトップに立っていた。
山口県出身の道重さゆみ、そして福岡県出身の田中れいなである。

首都圏から遠く離れた九州・中国地方。関門海峡を挟んでの隣県で同じ平成元年に産声を上げている道重と田中だが、それこそ「あまちゃん」に出てくるアキとユイのように、生まれ持ったキャラクターはまるで正反対だった。

そもそもオーディション時の服装からして、道重は黒髪に真っ白なタートルネック、田中は茶髪に黒のキャミソールといういで立ちである。さらにモーニング娘。の6期メンバーとして共にデビューした後も、集団行動を好んだ道重に対し、後藤真希の一匹狼イメージに憧れていた田中はもっぱら1人行動を貫いた。

「学校におったら、絶対に仲良くなるようなタイプではなかった」(田中れいな)(※1)

しかしそんなチグハグの2人は、モーニング娘。として様々な経験を重ねる中で、いつしかその胸に同じ夢を抱くようになっていく。「いつか6期メンバーで揃ってモーニング娘。のトップに立ち、グループを引っ張りたい」。

性格こそ違うものの、仕事を通じて次第に“最強のビジネスパートナー”と互いを認めあっていた道重と田中。2人は同じ夢を掲げていた同期・亀井絵里が志半ばで別の道を選んでもなお、諦めずに走り続けることを誓っていた。


そして「揃ってモーニング娘。のトップに立つ」、その夢がついに実現したのは、2人がグループへ加入してから9年が経過した2012年春のことだった。しかも道重が8代目リーダー、田中が楽曲のメインボーカルとしてグループを率いた新体制初のシングル『One・Two・Three』は、様々な巡り合わせの元に10年ぶりの初動売上10万枚越えという快挙まで達成することとなった。

しかしフィクションではなく、現実のモーニング娘。だった2人には、まだ話の続きがある。なんと2人の夢の始まりを掴んで間もなく、田中は2013年の春ツアーを最後に、モーニング娘。から卒業することを電撃発表したのだ。きっかけはまさにあの『One・Two・Three』を通じて、もう自分がやり残したことはないと強く感じたから。

「卒業はさゆの後かな、と漠然と思っていたし、事務所やつんく♂さんもそう考えていたみたいです。でもだんだんと“卒業”ということが大きくなって」(田中れいな)(※2)

こうしてずっと同じ夢を追いかけ続けた2人にも、ついに人生の岐路は訪れる。しかしこの別れこそが、同時にアイドルグループ・モーニング娘。にとっては、新たな展開を紡ぎ出す重要なプロローグにもなっていった。


「田中さんがいなくなってからダメになったって思われるのは絶対にイヤだった」(※3)

これは田中の卒業発表後にサブリーダーへの就任が発表されることになる、9期メンバー・譜久村聖のコメントである。

グループの歌唱面を長年に渡って支えていた田中の卒業は、まず加入から2年が過ぎようとしていた9期10期メンバーに、強い危機感とモーニング娘。としての自覚を急激に芽生えさせていった。それまで幼さが目立っていた彼女たちのパフォーマンスはちょうど田中の卒業発表時期から、急成長を遂げていくことになる。

「優樹、歌詞の意味とかあんまり深く考えたことがなかったんです。田中さんが抜けてから、歌詞を考えるようになって」(佐藤優樹)(※3)

また田中の卒業を見据えながら開催していた新メンバーオーディションを通じ、11期メンバー・小田さくらを迎えたことも大きな転機になった。なぜなら田中に匹敵する高い歌唱力の持ち主であり、なおかつ粘り気のある声質が特徴的だった小田の加入で、若いモーニング娘。はグループの原点ともいえる歌謡テイストのメロディを、もう一度楽曲へ組み入れることが可能になったのだ。

「これは不思議なんですけど、鞘師、石田だけでは出来なかったことが、小田がいることによって出来た。それで小田がいてくれることで、譜久村が活躍する場所が出来てくるんです」(つんく♂)(※2)

こうして残る道重へ、そして自身を育ててくれたモーニング娘。へ。6期メンバー・田中れいなの決断がもたらした“物語の続き”は、やがて『Help me!!』や『ブレインストーミング/君さえ居れば何も要らない』というシングルを生みだし、これらの作品はグループに11年ぶりの2作連続オリコン1位ももたらすことになる。


直後の2013年5月21日、田中は予定通りにモーニング娘。としての活動を終えることになるが、もしこの先に待っていたモーニング娘。のさらなるストーリーを、道重と田中が少し早く知れていたなら、2人は一体どんな表情で喜びを表していたのだろうか。

オリコン2作連続1位を追い風に2013年8月23日、モーニング娘。はついに『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に6年ぶりの単独出演を果たす。その中の紹介VTRにはこんなキーワードが、画面一杯に表示されていた。

「モーニング娘。ブーム再来」

※1 竹書房『Top Yell+ ハロプロ総集編 Hello!Project 2012』
※2 ワニブックス『モーニング娘。 20周年記念オフィシャルブック』
※3 音楽出版社『「ハロプロ スッペシャ~ル」~ハロー!プロジェクト×CDジャーナルの全インタビューを集めちゃいました!~』