【写真】安達祐実主演ドラマ『3000万』、場面カット【5点】
『3000万』にポップさはほぼない。高齢者が闇バイトで雇われた強盗集団に襲われたりなど、血生臭い暴力シーンも少なくなく、重苦しい空気が終始立ち込めている。同じ放送枠で以前放送していた『Shrink~精神科医ヨワイ~』の主人公・弱井幸之助(中村倫也)の優しい笑顔を思い出し、メンタルのバランスを取ってしまうこともしばしば。重厚なサスペンスドラマではあるが、ついつい面白おかしさを覚え、それはストーリーが進めば進むほど雪だるま式に高まっていく。その理由として、裕子たちがあまりに悪い方向に進んでいってしまうことが挙げられる。
1話では、3000万円を拾って一度は警察に渡そうとするも断念。3000万円を手に入れた現場に戻って3000万円を入れたカバンを捨てようとするが、強盗事件の実行犯である闇バイトで雇われた蒲池(加治将樹)と長田(萩原護)に見つかって顔がバレる。
2話では、警察の監視下に置かれている入院中のソラの逃走を手伝う。病院から逃げ出す裕子とソラは蒲池に見つかり、蒲池から暴行を受けるも結果的には湖に突き落とす。
3話では、しばらく家でソラを匿うことになり、ソラにコキ使われる。しまいにはソラは3000万円のカバンを持って裕子のもとを去ってしまう。最初に警察に3000万円を返しておけば良かったものの、今では警察だけではなく反社会的勢力から狙われることになった。あまりに選択肢を間違えるその様はおかしく、サスペンスドラマと言うよりもはや喜劇である。
ただ、裕子たちを“ただバカ”とは思わせないのが本作のすごいところ。裕子が悪人であれば最初から3000万円をゲットして、あとはしらばっくれれば良かった。ただ、裕子の根っこは善人だ。より詳しく言うと“困窮している善人”である。もし経済的余裕があれば3000万円はすぐに返していただろう。
しかし、困窮している善人であるため、いかに違法な手段で手に入れたお金だったとしても、ポンと大金が目の前に出されれば悪人がする選択をとるのも納得できる。なにより、「これまで大きな悪いことをしてなかったであろう人が悪いことをすれば、選択肢を間違え続けるのも無理もない」思わせるストーリーの説得力は見事。
そして、毎回裕子は何かアクションを起こす前にはかなり葛藤しているが、その様子を見ていると「自分が裕子と同じ状況に立った時に善人でいられるのか?」と突きつけられた気持ちになる。
ちなみに、選択肢を間違え続けている登場人物は裕子だけではない。2話の蒲池が長田との会話シーンで、長田が闇バイトに手を出した理由として「金ですよ。みんなそうでしょ?」と話し、それに蓮池は「俺も年の割にはいろいろ経験してきてるほうだけどよ、この仕事はやべえよ」「このままだと、ろくなことになんねえ」と返す。
大学生の長田は高時給バイトくらいの軽いノリで始めてしまった雰囲気ではあるが、奨学金返済や一向に上がらない実質賃金に不安になったことが背景にあるのかもしれない。一方、これまで数々の悪さをしてきた蒲池も「この仕事はやべえよ」と口にしていたが、裏を返せばヤバい仕事をしなければお金を稼げない現状が伺える。蒲池には自業自得と思える部分もあるが、この2人も困窮しているがゆえに選択を間違ったように思う。
犯罪者を擁護するつもりは絶対ない。それでも、“闇バイト”という言葉を頻繁に耳にするようなった昨今、長田や蒲池のような事情を持つ人間が闇バイトに関与しているのかもしれない。そう考えるといかに貧困が人を誤った道へと誘い、善人と暮らしている人の生活を脅かすのかが嫌というほど突きつけられる。
『3000万』で描かれている光景は、決して対岸の火事ではなく今私達の生活の中で確実に起きていることなのだろう。
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