自伝的マンガ『あの頃。男子かしまし物語』が松坂桃李主演で映画化されることが発表され、話題の劔樹人(つるぎ・みきと)。
『あの頃。男子かしまし物語』は自身がハロー!プロジェクトにのめり込んでいった青春時代を描いた作品だが、劔氏は現在、妻でありエッセイストの犬山紙子とともに“ハロプロ好き夫婦”としても有名だ。今回は、映画化発表記念に、劔樹人と犬山紙子が、夫婦でハロプロについて語り合った対談を特別に再録する。※対談は2016年6月発売の『OVERTURE 007』に掲載されたものです

    *     *     *

──今回は「ハロプロで夫婦円満!」というテーマです。ハロプロのコンサート会場は女性が増えてきています。最近はカップルも目立ちますよね。

劔 確かに僕の周りでも夫婦でハロプロ好きっていうところは多いんですよ。考えてみると、そういうケースが増えているのかもしれないな。

──そもそも犬山さんは、何がきっかけでハロプロにハマったんですか?

犬山 最初はモーニング娘。の『One・Two・Three』ですね。その頃の私って、それまでニートだったのに急に仕事が入るようになったんですよ。
で、やっぱり人前に出る仕事だから、いろんな批判も浴びるじゃないですか。それで私、結構凹んで、そこに卵巣嚢腫という病気にもなり……。それでボロボロになりながら、ハロー!の動画を漁っているうちに、なんか元気になっちゃったんですよね。

──誹謗・中傷のダメージから、ハロプロのおかげで立ち直れた?

犬山 そう(笑)。それまで私、「アイドルによって救われた」なんて言葉を聞くと「ケッ!」とか思っていたんだけど、まさか自分が救われるとは……。

──当時、お2人の関係は?

劔 ちょうど知り合ったくらいだよね?

犬山 そうだね。つるちゃんが娘。を離れていた時期だったもんね。

劔 覚えているのは『Help me!!』が発売されたあたりのときに説教されたんですよ。

犬山 もともとモーヲタだったことは知っていたからね。私も好きになったばかりのくせして、偉そうに言ったんです。「それだけパッションのある男が、どうして今の娘。
に注目しない!」って。そのあたりからは、つるちゃんも一気にハマっていきましたね。一緒にハロコン行ったのも、確か『Help me!!』のあたりだったかな。

──ひょっとして、それが初デート?

犬山 初デートかどうかは微妙なところですね(笑)。ただ、ハロプロという共通の話題が存在することで、グッと仲がよくなったのは事実です。

──ハロプロに限らず、共通の趣味があると盛り上がりやすいですよね。

犬山 ただ、ハロプロだから、というのは私の中でありました。若かりし頃、彼氏が自分が特に好きではない女の子を応援するのは、それが相手の大切な趣味だと分かっていても微妙な気持ちになっちゃってました。「えっ、この子が好きなの?」って嫉妬して。だけど自分が大好きなアイドルには、「なんて見る目がある人だ! やっぱり、さすが! 分かってるね~」みたいな気持ちになる(笑)。

──でも実際、これはアイドルファンによくあるテーマだと思います。男性側からすると、彼女にアイドル写真集とか見られるのは後ろめたいんですよ。


犬山 私も過去に経験があります。グラビアアイドルの写真集を買ってきたら、頭にきて全部落書きしました、鼻毛と虫歯……。ひどい……。今私がやられたら怒ると思う。

劔 相手の理解があるのは、本当にありがたいことですよね。実際、アイドルグッズを必死で隠したりしている男って多いと思うんです。隠れキリシタンみたいな生活をして。僕の友達でも、「今、私の目の前でマイクロファイバータオル(※)を踏んでみろ!」って恋人から迫られたケースがありました。それは(菅谷)梨紗子のタオルだったんですけどね。さすがに梨紗子は踏めなかったみたいです。そういう悲劇が、これまで古今東西で繰り返されてきたはずなんですよ。

──ハロプロを愛するがゆえに、意見がぶつかりケンカになったことは?

劔 言い争いになることはないかなぁ。
昔は推しメンを巡って、よく友達同士でケンカもしていましたけど。

犬山 つるちゃんとは、わりかし推しメンが被っているんですよね。だから揉めないのかもしれないな。おださく(小田さくら)、あやちょ(和田彩花)、かなとも(金澤朋子)……。最近は、きしもん(岸本ゆめの)も大好き。

──ハロプロを追っていると、歴史が一気に変わるような重要局面に遭遇しますよね。道重さんの卒業、つんく♂さんの病気、Berryz工房の無期限活動休止……。夫婦で緊急会議はします?

劔 僕たち2人だけっていうより、みんなで話し合いますね。周りにいるハロプロ好きな人たちも巻き込んで。

犬山 気づくと、ハロヲタの知り合いがこの家に集まっているんです。

劔 ドラマの『武道館』が放送されていたときなんて、毎週、ここに集まって鑑賞会を開いていましたからね。

犬山 4回くらい連続して観ていましたね。
最初はオンタイムで観るんです。2回目以降は、録画したものを一時停止ながら解析する。「愛子の部屋に見えるのはハロー!ティッシュじゃない?」とか。

劔 「この武道館が見える風景はどこだろう?」ということになり、実際に現地まで行ったこともありますね。

犬山 つるちゃん、そのときも泣いていたよね。感情移入して(笑)。

劔 あのドラマは泣けたよ! 終盤の4回くらいは、毎週泣いていたな。

犬山 でもさ、つるちゃんってハロプロ以外ではあまり泣かないよね。

※ マイクロファイバータオル
高い吸水性を誇り、髪の毛を乾かす際も重宝するアイドルグッズ。ハロプロの場合、メンバーの全身写真がデカデカとプリントしてあることが多い。

──ハロプロは泣ける存在ですか?

劔 泣けますね。特に道重さん関係はヤバくて、誰かが道重さんについて話しているだけで泣けてくるんです。


犬山 基本にあるのは「頑張っている、努力している女の子の尊さ」っていう心情?

劔 それもあるかもだけど、自分の人生を重ね合わせちゃうんだろうね。道重さんの背後に、いろんなものが見えてくるんです。亡くなった友人だとか、当時は仲よくしていたけど今は何をしているのか分からない知り合いとか……。それから大阪で過ごしていた自分。「この十何年、自分が生きてきた20代・30代とは何だったんだろう?」ってどうしても考えちゃう。その当時に連れ戻されるというか……。道重さんって、僕にとっては非常にスピリチュアルな存在なんです。

──コンサートのあとは、居酒屋で感想戦や反省会もするんですか?

犬山 もちろんしますね。他のメンバーも合流して話し合うことが多いかな。

劔 鞘師(里保)さん卒業のときは、さすがにお通夜みたいになっていたな。

犬山 「なんとか我々で引き留められないか?」っていう話になったんですよ。そんなの、できるわけないのに(笑)。

劔 「お前のせいで鞘師は辞めたんだ!」みたいな口論にも発展しましたから。そのときは朝井リョウさんも一緒だったんですけどね。朝井さん、「TRIANGLE―トライアングル―」というモーニング娘。の舞台を観にいったんです。その舞台で鞘師さんは男役をやったんですけど、鞘師さん自身はそれが恥ずかしかったらしいんですね。だから朝井さんも鞘師さんを直視できず、目を伏せていたそうなんです。それを聞いて、みんなからはもう非難轟々。「そういう態度が、鞘師ちゃんを傷つけたんだ!」って(笑)。

──ハロプロ現場に女子ファンが増えたのは、どうしてだと思います?

犬山 私の場合、まずメンバーに対する尊敬の気持ちが根底にあるんです。歌えて、ダンスも上手くて、カッコいいという憧れの感情ですよね。あと大きいのは、女の子をただの商品として見ていないことですよね。そこは同性から見ていても、すごく安心できるところ。歌詞にしたって、すごく女性の立場に寄り添っていますからね。『女が目立って なぜイケナイ』とか。すごく共感できるし、教科書に載せるべきだと思いますよ。

──なるほど(笑)。

犬山 ハロプロを観ると、女子中学生の気持ちに一気に戻っていく。「あの先輩、カッコいいな」って思う13歳くらいの感覚です。「くすぶっていた青春を取り戻す」っていう部分は少なからずあるんじゃないかな。私自身は部活にも入っていなかったし、ダンスが上手い子を素直にカッコいいと言えるような文化圏で育っていなかった。今、ハロプロで青春をやり直しているようなものかな。だから憧れの先輩たちを見ると……泣けてきちゃうんです。

──ハロプロきっかけで恋が始まるということもあるんでしょうかね。

犬山 写真集に落書きした若い頃の私じゃないけど、やっぱり彼氏がアイドル好きなのは許せないっていう女の子もいると思うんです。でもそれはアイドル好きの男性への理解の解像度が低いからだと思います。私自身アイドルにハマるまではざっくりこんな感じだよねって雑なイメージがあった。でも、実際自分がハマってみると、「違う違う違う、みんな若い女の子を性的に消費する人じゃない。中にはいるかもしれないけど、誰かを心から応援する気持ちの尊さ!! アイドルが人を惹きつける力!! 救いの場所!!」って。だからその気持ちがわかる人同士ってのはあるのかもしれないですね。

劔 あぁ、でもハロプロは少ないかもだけど、もう少しライブアイドル寄りの現場になると、明らかに出会いを求めて集まってくる若者はいますね。最近だと「ヲタ同士で付き合い始める」みたいな文化も増えているんじゃないですか。

犬山 もし相手がアイドル好きじゃなかった場合は、ぜひアイドル、推しメンの魅力をプレゼンしてほしい! 自分がハマったきっかけもシェアして。そうやって相手の偏見をぶっ飛ばせたらいいですよね。そのために弁を磨く! お互いの好きなことをそうやって理解の解像度高めあえたら最高。

──どうせ付き合いが深くなったら、バレるわけですからね。

犬山 夫婦で共通の熱くなれる趣味があるのも楽しいです。それに好きな音楽が共通しているってすばらしいですよ。だってハロプロの曲を流したら、単純に2人とも楽しくなっちゃうんだもん。

劔 家族で楽しむハロプロって素敵ですよね。仮にここから2人に子供ができたとしても、楽しみが広がるだろうし。

──今後、お子さんがお2人の間にできたとして、それが女の子だったらアイドルにしたいと思いますか?

劔 本人が「やりたい」って言い出したら、僕は応援しますけどね。この人はどうだか分からないけど……。でも、どうせアイドルになるんだったらハロプロにしてもらいたいな。

犬山 それは同意見だけどね。ってなれる前提で話していますが……。でも、表に出る仕事のメンタルへの影響を考えると……いやほんと、我が子じゃなくても、メンバーが傷つくようなことを言う人・描く人は心底嫌いです。人間のメンタル、そんなに強くないんですから……。

劔 そうか。それは厳しいよな~。

──最後に改めて男女でハロプロを楽しむ秘訣を教えてください。

劔 家族やカップルでたしなむコンテンツとして、ハロプロは相当強力だと思うんです。歴史があるから、おじいちゃん・おばあちゃんになっても楽しめるはずですし。ここからハロプロは、さらに宝塚化が進んでいくと思う。僕は死ぬまでハロー!プロジェクトとともに生きていくしかないと考えているんです。もはや生涯をかけた趣味ですよね。

──すさまじい覚悟ですね(笑)。

犬山 夫の「ヲタク道」を究めようとする姿勢も美しいと思いますし、人として尊敬できる。妻から見ても輝いています。

(取材・文/小野田衛)
▽劔樹人(つるぎ・みきと)
1979年5月7日生まれ、新潟県出身。ベーシスト、漫画家。大阪在住中にハロプロにハマり、その時代のハロプロとともにあった遅い青春を自伝的コミックエッセイ『あの頃。男子かしまし物語』(イースト・プレス)が2021年に映画化決定。劔役を松坂桃李が演じることで大きく話題を呼んだ。

▽犬山紙子(いぬやま・かみこ)
1981年12月28日生まれ、宮城県出身。コラムニスト、エッセイスト。『負け美女』(マガジンハウス)『地雷手帳 嫌われ女子の50の秘密』(文春文庫)など著書多数。コメンテーターとしてTV出演も行っており、『スッキリ!!』(日本テレビ系)では金曜レギュラーコメンテーターも務めている。YouTubeで『One・Two・Three』(2012年)のMVを観たのをきっかけにモーニング娘。にハマり、以降、ハロプロの熱烈なファンに。
編集部おすすめ