【写真】東京国際映画祭でも絶賛された『TATAMI』場面写真【9点】
〇ストーリー
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニとコーチのマルヤム・ガンバリは、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため棄権を命じられる。自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、怪我を装ってイラン政府に従うか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるか。人生最大の決断を迫られる……。
〇おすすめポイント
『聖地には蜘蛛が巣を張る』(2022)では、イスラム教が支配する国において、極度な信仰が生み出し、身勝手な正義を振りかざした殺人者を描き、自身もジャーナリスト役で主演を務めたザーラ・アミール。ネオナチの白人至上主義コミュニティの闇を描いた『SKIN/スキン』(2018)を手掛けたガイ・ナッティヴ。そんな、世界が注目する社会派監督が共同で脚本を務めた話題作。第36回東京国際映画祭においても飛びぬけて高い評価を得た『TATAMI』が、2月28日から劇場公開されることに!!
世界柔道のイラン代表とそのコーチが直面する問題を選手とコーチのそれぞれの視点、それぞれの立場、それぞれのバックボーンを交えながら、緊張感たっぷりに描いていく。
ワールドカップに北朝鮮が出場した際に負けて帰ると銃殺されるという噂が一時期飛び交ったし、実際のところどうなのかが明らかではないものの、スポーツ大会の成績によって、選手やコーチ、関係者が何等かのペナルティを受ける国というのは、本当にあるわけで。
そう考えると、日本のスポーツ業界がいかに平和かということも実感するはずだ。
勝つために出場してきたはずなのに、国情によって負けるように強要され、実際に国の家族や親せきにも命の危険がおよぶかもしれないという極限の状況下において、主人公はどうするべきなのだろうか。柔道選手として自分の実力を出し切りたいというスポーツマン精神と物理的、心理的圧迫がぶつかり合う、スポコンとポリティカル・サスペンスの要素が融合した独特な作品である。
主人公が、常に自由になりたいと考えるリベラルな思想の持主であるため、自由というものが全くない政府や国に従うことへの反発心や、その概念を突き崩す存在に自分自身がなろうとしているということは伝わってくる。しかし、スポコン部分でいうと、主人公がなぜ他のスポーツではなく、あえて柔道というスポーツに執着するのかがあまり伝わってこない。
そのため、主人公の心情に少し不明確な要素を残してしまい、人間ドラマとしてのバランスが悪い部分もある。観客やスタッフなど、第三者の視点からも描いている部分があることから、それは、あえてなのかもしれないが。
今やイスラム教において、女性を縛るものとして反発する者が後を絶たないビジャブをどうするかも、今作では大きな分岐点として描かれている。
そして、同じ想いながらも国の圧力から選手たちとその家族、そして自分と自分の家族を守らなければならないコーチ側の、とてつもない葛藤と緊張感は胃が痛くなるほどだ……。
〇作品情報
監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
脚本:ガイ・ナッティヴ、エルハム・エルファニ
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマンほか
2023年/アメリカ、ジョージア/英語、ペルシア語/103分
モノクロ/1.78:1/5.1ch
原題:TATAMI
字幕:間渕康子
配給:ミモザフィルムズ
【公式サイト】https://mimosafilms.com/tatami/
2025年2月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
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