毎週月曜の夜は忙しい。21時から放送のドラマ『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)を観るために、18時頃からスタンバイが始まる。
仕事しながら適当に夕食を作って食べて、部屋を片付けて、風呂に入るまでを21時に終えて放送を待つ。私はバブル期のO Lか。

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巷でもこの作品を観ている人は非常に多いと思う。なぜなら普段はまったくドラマの話題なんぞを持ちかけてこない友人の面々が、私のドラマオタクぶりだけを狙って「キョンキョンのドラマさ、面白いよね……」と話しかけてきたり、LINEが来たりしているから。作品に感化された気持ちを誰かと共有したい気持ちは非常に分かる。ただ、曖昧にしか返事はしていない。私は友人よりも読者の皆さまと気持ちを共有したいので、『続・続・最後から二番目の恋』がなぜ魅力的なのかを文章で綴りたい。次回の放送の見どころを見つけてもらえたら幸いだ。

『続・続・最後から二番目の恋』の第一話は、吉野千明(小泉今日子)が勤務するテレビ局のシーンから始まった。定年を間近に控えた千明は「セカンドライフセミナー」を考える社内行事に参加中。『続・最後から二番目の恋』(2014年)では「副部長!」と呼ばれて違和感を感じていた千明を思い出すと、会社員の約10年間とはあっという間に過ぎてしまうと思い知らされる。

この会社員としてのリアルな表現が、ドラマ視聴者のメインターゲットである団塊ジュニア世代に響く。
先述したバブル期のO Lも含む、トレンディドラマからトレンドを摂取していた世代だ。昨今放送中のドラマは表現に注意を払いすぎているうえに、主人公が若く(なってしまった)、ドラマ視聴の醍醐味である共感を覚えにくい。ただ『続・続・最後から二番目の恋』は違う。出演者も中高年である、私たちにとっての養生ドラマだ。

60歳で定年退職をした長倉和平(中井貴一)が、また鎌倉市役所で再任用されて、指導監として働いている。部下だった市役所員が上司になってしまう関係性のやりづらさ、次から次へと起こる現場での疲弊ぶり。劇中には50代の会社員であれば、身につまされるシーンがよく現れて「分かるなあ」と声が漏れそうになる。1週間が始まって、ザワザワした疲れを感じる月曜夜に見るにはちょうどいい感度なのだ。

ドラマには共感性もあれば、憧憬も登場する。この作品に関しては数多あるけれど、一番感動したのは、出演者たちが皆、見た目が変わっていないのだ。第一シリーズ『最後から二番目の恋』の放送開始は2012年から、現在に至るまで13年間が経過、メインキャストは役柄と同じ年齢を生きている。

主役の吉野千明と長倉和平は63歳で、各々に演じている俳優も同い年。
いつも騒がしい長倉家の長女・水谷典子(飯島直子)は58歳、双子の次女・長倉万里子(内田有紀)と次男・真平(坂口憲二)は48歳。ほぼ俳優とは同年代。もちろん一般人ではないのだから、板の上に上がる人間として、それなりのケアをしているだろう。でも時折、S N Sなどで見かける、無理をしたインフルエンサーたちのアンチエイジングぶりは感じられない。相応に年齢を楽しむ様が伝わってくる。第四話で和平が鎌倉市長・伊佐山良子(柴田理恵)と食事をしているシーンがあった。少し猫背になって、ふっくらした後ろ姿を見せる和平。それも良かった。ちなみに鎌倉市長は10年経っても、長倉家や千明より見た目が微塵も変わっていないのはお見事。

出演者たちのコーディネートもいい。特に千明は白髪を活かしたヘアカラーにして、いつもビタミンカラーのアイテムや、MA-1のジャケット、フロントプリントTシャツなど「自分の着たい服を着る」といった気持ちが前面に出ている。典子も好き(であろう)なピンクを着て、市長も自分らしい派手なスーツを着こなす。


「いい年」と呼ばれるようになると、ボトムの丈を長くしたり、アースカラーを選ぶようになったり。着用を楽しむよりも、年齢や体型を隠すうとする傾向が高い。が、そんな傾向はケ・セラ・セラの、女性出演者たちが可愛い。私たちもそうなろう。

『続・続・最後から二番目の恋』に惹かれる最大の理由は、やはり吉野千明。歯に衣着せぬ発言、二日酔いをしても吹聴しない、酒は好きなだけ飲んで運動はしない、肉が好きで、喫煙者。文字にすると不健康極まりないアラカンにしか思えないけれど、作品ファンの私が目指すところはそこである。

これまでのシリーズでも「体に悪いことをしたい!」と新橋のガード下で飲み歩き、昼酒をくらい、昼キャバを楽しむ千明を見てきた。中高年になると規則正しい生活ばかりを各所から強いられるようになるけれど、私たちは優等生でいるために生きているわけではない。千明のように、とことん人生を楽しむために年を重ねてきたのだ。

仕事もそう。会社員は定年間際になると出世街道に乗らない限り、現場から離される傾向にあるけれど、千明はギリギリまでしがみついて、企画を出す。
部下には「老害になりたくない」と自分の気持ちを隠さない。

「時々、悪気なくあの頃はどうだったとか、あの頃は良かったとか、そういうことを言うけど。そういう時は『そういうのやめてください!』ってはっきり言ってね、お願いよ。(中略)こんなこと言ってること自体が老害かな」

どこまでも正直でいる千明は中高年にとって、ロールモデル。働く人間はいつだって不安に苛まれていて、目標となる人物を探している。自分は選択をしないで、誰かの進んだ楽しそうな道を進みたいのが本音。そんな気持ちが擬人化したのが千明であり、今年の「上司にしたい〇〇No.1」だと、私は勝手に命名する。

心のどこかに潜む、やんわりとした老後や明日への懸念。それらを少しでも解消しようと私たちは月曜21時になると、8チャンネルを合わせる。ああ、放送よ、終わらないで。

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