現役時代、千葉ロッテマリーンズの正捕手として活躍した里崎智也氏。引退後は野球解説者として人気を博す同氏のYouTubeチャンネル「里崎チャンネル」が話題だ。
「契約更改の裏側」や「セ・パの野球観の違い」など、誰もが知りたいテーマについて歯に衣着せず語るその姿勢が受け、チャンネル登録者数は22万人を超えた。

このほど、その「里崎チャンネル」をまとめた著書『プロ野球 里崎白書』(扶桑社)が発売されるのに合わせて、里崎氏に「野球選手の生活力」と「野球選手が早婚なワケ」を聞いた。(2回連載の2回目)

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野球選手は結婚するのが早い。みなさんにも、そんなイメージがありますよね?

厚生労働省の統計(※)によれば、男性の平均初婚年齢は31.1歳とのこと。現役晩年まで独身だったぼくみたいなのもいますけど、多くの選手が20代前半で所帯をもつ野球界はやはり、総じて早婚ではあるようです。

ではなぜ、野球選手は若くして身を固めることを選ぶのでしょう。

その大きな理由のひとつが、野球選手には「野球以外、自分では何もできない」人が多いから。もちろんぼくも、全員がそうだとは言いません。でもそういう人は、みなさんの想像よりもはるかに多い。そもそも、現役でいる間はグラウンド外のあらゆることを他人任せにできてしまうのが、プロ野球でもあるのです。

たとえば、移動のときに使う新幹線のチケット。マリーンズの場合、移動日が仮に月曜だとしたら、日曜のデーゲームが終わる頃になると、「翌日の最終便」で取ってある指定席のチケットが、各自のロッカーに一枚ずつ置かれます。
帰りのぶんが配られるのも、移動日前日のビジター球場のロッカー。途中でなくすと困るからと、必要になるタイミングまでマネージャーが保管してくれているんですね。

飛行機の場合は、「〇番搭乗口の前の時計の下に〇時までに集合して」と言われてそこに行くと、その場でチケットがもらえる仕組み。新幹線の時間を変更したいときなんかはその都度、自分で窓口に行く必要がありましたけど、「自分で買う」という行為自体はふだんからまず必要ない。なので、目的地までの運賃がいくらなのか、どうしたらそれが買えるのかを、まったく知らない人も実は少なくないのです。

ぼくも、現役時代は「東京-新大阪間の新幹線の運賃はいくら?」と聞かれても答えられなかったクチ。実家が四国の徳島なので、学生のときから帰省はもっぱら飛行機。プライベートで新幹線を利用する機会がほとんどなかったんですね。

一方、宿泊先のホテルも、着くとロビーに選手名の入った封筒が用意してあって、ルームキーと食事券、チーム全体の部屋番号一覧、スケジュール表なんかがセットになって入っています。これがベテランになって待遇がさらによくなると、わざわざ自分の名前入り封筒を探すまでもなく、「こちらです」と渡してくれる。当然ながら、そのホテルが1泊いくらするかなんてことは、誰も気に留めません。

球場や宿舎、寮にいれば、日々の食事の用意はもちろん、洗濯なんかも球団サイドでやってくれますし、「ちょっと身体が疲れてるな」と思えば、トレーナーに電話を入れて、「いま空きあります?」で事足りる。
1軍の主力選手ともなれば、チケットの変更や「自腹で払うから家族のぶんのホテルも取っておいて」なんてことも、頼めばぜんぶマネージャーがやってくれますから、まさに至れり尽くせりです。

選手の大半は、ホワイトボードに書かれているスケジュールを写メに撮って、そのとおりに動いているだけ。1週間後の予定まできっちり把握できている人なんてほとんどいなかったんじゃないかな。ぼく自身も日にちや曜日には無頓着で、「今日はデーゲームだから週末だな」ぐらいの意識しかなかったですしね(笑)。

ちなみに、ぼくが現役晩年になるまで結婚の必要性をあまり感じなかったのは、そういった身のまわりのことをひととおり自分でやってたから。家では基本的に自炊をしていましたから、自分が食べたことのある料理なら、たいていのものはいまでも作れます。

疲れているときはさすがに惣菜屋さんで済ますこともありましたけど、試合のある日でも夜中までやっているスーパーに行って、よく買い物をしましたしね。

それと引退後のことを考えると、野球選手の多くが、自分から人に頭を下げて「お願い」をするという経験が圧倒的に少ない、というのも問題です。「ウチの学校に来てください」「ウチの用具を使ってください」「ウチの番組に出てください」と、ずっと頭を下げられる側だった人が、ユニフォームを脱いだ途端に、自分からお願いをしなきゃいけなくなる。ただでさえ、「自分では何もできない」人が、自分からアクションを起こさざるを得なくなるとなれば、そりゃ、不安にもなりますよね。

※ 厚労省が発表した平成28(2016)年度版「婚姻に関する統計」による。
里崎智也が語る「プロ野球選手が早婚なワケ」

▽『プロ野球 里崎白書』
著者:里崎智也
定価:本体1,400円+税
発売日:3月2日
発行元:扶桑社
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