今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。第13週「サラバ 涙」では、嵩(北村匠海)の弟・千尋(中沢元紀)の戦死が明らかになり、さらに、のぶ(今田美桜)の夫・次郎(中島歩)も天に旅立ってしまう。
これにより今作で命を落とした登場人物は、すでに亡くなっていた清(二宮和也)を含め、7人となった。だが、そのうち“最期の瞬間”が具体的に描かれたのは、わずか3人だけである。

【写真】「映されなかった死」とどう向き合うか『あんぱん』第13週【5点】

その3人とは、岩男(濱尾ノリタカ)、次郎、寛(竹野内豊)。岩男は、中国・福建省で息子のように可愛がっていた少年・リンの“敵討ち”によって死亡。岩男を看取った嵩は行き場のない思いを抱え、涙を堪えきれなかった。そして、長らく病に伏せていた次郎は、自身の母とのぶに見守られながら天国へ。嵩の伯父・寛は仕事の帰りに突然体調を崩し、千代子(戸田菜穂)の側で生涯を閉じた。

岩男、次郎、寛の死に共通しているのは、「誰かに見届けられた死」であることだ。一方で、清、結太郎(加瀬亮)、豪(細田佳央太)、千尋の最期は画面上に登場することはなかった。それは、のぶや嵩がその最期を見届けられなかったからである。例外として、寛の最期は千代子の回想として描かれたが、のぶや嵩が見届けることのできなかった死は、私たち視聴者にとっても“知らない死”だ。彼らがどんな場所で、どんな思いで最期を迎えたのか。
それらは全て、視聴者の想像に委ねられている。

特に豪や千尋は、物語の前半を彩ってくれた主要登場人物だ。彼らの最期が少しでも穏やかな最期であってほしいと願わずにはいられない。欲を言えば、その最期の姿を見届けたかったという視聴者もいるだろう。だが戦時中は、多くの人々が、最愛の人の死をわずかな文字や報せだけで知るしかなかった。どこで、どのように、という具体的な場面を知ることもできず、ただ事実だけを受け取る──そんな悲しみと向き合う時代が、確かにあったのだ。

これは、ただ“映す・映さない”という演出の問題ではなく、『あんぱん』という作品が描こうとしている「死との向き合い方」そのものなのかもしれない。たとえ命が尽きても、それを見届けた人や語る人がいることで、その死は「記憶」となって残る。そしてその記憶は、亡くなった人の存在をもう一度、物語の中に呼び戻す力を持っている。私たち視聴者もまた、その“語られる死”を通して、登場人物たちと一緒に思いを重ねることができるのだ。

そして、語られなかった死、見届けられなかった死についても、私たちは想像し、心にとどめて置かなければならない。長い長い日本の歴史の中には、誰にも見届けられることなく最期を迎えた命がたくさんある。
自分の記憶にも体験にも存在しないその死を、どう想像し、どう手を合わせるのか。そんな問いを突き付けられている気がするのだ。

死の描写だけではなく『あんぱん』では、視聴者に“想像させる”展開が多いと感じている。結局、登美子(松嶋菜々子)はどう生計を立てているのか?うさ子(志田紗良)や黒井先生(瀧内公美)は戦時中どう過ごしていたのか?などは、(今後描かれる可能性もあるかもしれないが)現時点では受け取り手が想像するしかない。登場人物の心境を代弁するナレーションが最小限であったり、視聴者参加企画のエンドカードがないというのも、想像力をかき立て、物語の余韻を残す意図的な構成なのだろう。

想像力は、他人にできる一番の思いやりだと思う。映し出されることのなかった彼らの死を、私たちはどう想像し、どう記憶に残しておくか。と同時に、この『あんぱん』をどう解釈し、どう面白く視聴するかは視聴者の想像力にかかっているのかもしれない。

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