【写真】ドラマとはまた別の視点、映画『おっパン』場面カット【14点】
“土ドラ”は、もともと「ライオンのごきげんよう」の後に放送されていた昼ドラ枠から派生したもの。初期はそのコンセプトを受け継ぎ、サスペンス要素の強い愛憎劇や復讐劇、かと思えばハートフルな人間ドラマなど幅広いジャンルを扱っていたが、近年は“コメディ仕立ての社会派”という独自路線を築いている。現在放送中の『浅草ラスボスおばあちゃん』もその系譜にある。
そんな中、2024年1~3月に放送された『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』の映画化である本作は、今の日本社会に必要な作品といっても過言ではない。映画版はドラマの雰囲気をそのまま受け継ぎ、エンタメ性を過度に強調することなく、テーマ性を丁寧に掘り下げている。
ドラマ版では、「男らしく」「女らしく」といった曖昧な“らしさ”に縛られて生きてきた主人公・沖田誠(原田泰造)が、ゲイの青年との出会いを通じて家族との関係を見つめ直し、少しずつ変化していく姿を描いていた。映画版ではその流れを引き継ぎつつ、過去に自分が知らず傷つけてしまった人々と、どう向き合い、癒していくかという“アフターケア”に焦点をあて、多角的で優しい視点を提示している。
「主観と客観」は対義語とされるが、本当にそうだろうか。客観とは、本来“他人の立場になって考える”ことを意味するが、その思考自体が結局は主観に基づいているのではないか。ならば、自分自身の限界を認めた上で、他者の意見に耳を傾け、理解しようとする姿勢が最も重要なのかもしれない。すぐには理解できなくても、小さな歩み寄りが、世界を少しずつ変えていく。今作は、そんな可能性を静かに提示している。
LGBTQ+に限らず、マイノリティを取り巻く偏見や固定観念に満ちた社会において、“わからないものをわからないまま”放置するのではなく、相手の思考の背景にまで踏み込み、互いの理解と尊重を模索していく。本作は、そうした視点を排除せずに描いた、誠実で温かなヒューマンドラマだ。
現実社会がここまで理想的に機能するわけではないかもしれない。それでも、この作品は、「人は本来、優しさを持っている」と信じたくなる、静かで力強い変化を与えてくれる。『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』は、人間の本質にそっと触れてくる、静かな感動作である。
▽ストーリー
ゲイの大学生・五十嵐大地(中島颯太)との偶然の出会いによって、時代遅れの“昭和脳”から令和の価値観にアップデートしつつあった、「銀杏事務機器リース」の営業戦略室・室長・沖田誠(原田泰造)52歳。ボーイズグループ「RANDOM」のオタ活のため、お弁当チェーン「QUQU弁当」の店舗パートから本社勤務の正社員になった妻・美香(富田靖子)。「大胸筋デカパイン」名義で、二次創作のBL同人活動をしている、大学生の娘・萌(大原梓)。そして、メイクや可愛いモノ好きである自分を解放し、不登校から復帰した高校生の息子・翔(城桧吏)。誠にだけ懐かない飼い犬のコーギー・カルロス(こまち)。そんなそれぞれの「好き」を謳歌する4人の家族関係が順調に見えていた。
▽クレジット
監督・二宮崇
脚本・藤井清美
出演:原田泰造、中島颯太(FANTASTICS)、城桧吏、大原梓、東啓介、渡辺哲、曽田陵介、トータス松本、松下由樹、富田靖子ほか
原作:「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」練馬ジム(「LINE マンガ」連載)
製作幹事・配給:ギャガ
7月4日(金) 全国ロードショー
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