今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・月曜~土曜8時ほか)。物語は新聞社編に突入し、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は同僚として働くことに。
史実通り二人の距離が近づいていくなかで、ひとつ気がかりなことがある。それは、ヒロイン・のぶに“親友”と呼べる存在がいないことだ。

【写真】のぶ(今田美桜)が抱える内面の課題とは『あんぱん』場面カット【5点】

朝ドラにおいて、ヒロインとその親友との友情は大きな見どころのひとつだ。たとえば、前作『おむすび』(2024年後期)では、主人公・結(橋本環奈)が属する“ハギャレン”と呼ばれるギャル4人組や、専門学校時代の仲間“J班”が登場。彼女たちは物語の節々で姿を見せ、結の人生に寄り添い続けた。

また、『虎に翼』(2024年前期)に登場した寅子(伊藤沙莉)たち明律大学の女子メンバーは、のちに特別座談会が放送されるほど視聴者から人気を集めた。彼女たちも大学卒業後も交流が続き、ある時は「カフェー燈台」で、またある時は「ライトハウス」で、それまたある時は「竹もと」で……全員がそろうことは難しくとも、人生の節々で互いに支え合う姿が印象に残っている。

それに対し、のぶには、いわゆる“親友”と呼べる人物が見当たらない。のぶにとって最も親しい存在を挙げるなら嵩になるだろうが、幼馴染ではあっても親友かと言われると難しいところだ。それに、嵩からすればのぶは長年想いを寄せ続けている相手であり、親友とは少し違う関係性だろう。

学生時代を共に過ごしたうさ子(志田紗良)は親友的ポジションかと思いきや、プロフィールには“幼馴染”と記載されている。ちなみに、嵩の友人・健太郎(高橋文哉)のプロフィールには“真の友人”とあることから、やはりのぶとうさ子は親友ではなさそうだ。


思い返してみれば、うさ子との関係は学校外での交流が描かれておらず、馴染みの喫茶店などで語らう描写もない。戦後もうさ子の安否を気にかける様子はなく、意外にもあっさりした関係に思える。

では、新聞社の同期・琴子(鳴海唯)はどうだろうか。一度、一緒にお酒を飲む場面はあったが、所属部署が違うこともあり、それ以降プライベートでの交流は見られない。琴子の方は、のぶにだけ会社とは違う素の顔を見せているのだが、のぶはいたって通常運転。琴子に対して特別に心を開いているようには、今のところ感じられない。

そもそもこれまでのぶには、家族以外の誰かと食事をしたり、出かけたりする姿はほとんど見られなかった。ここ数年の朝ドラでも、ここまで孤独なヒロインは珍しい。

ではなぜ、のぶには親友と呼べる存在がいないのか。一つの要因として、彼女が“ハチキン”すなわち、男勝りな性格だからというのが挙げられる。女子同士の交友関係には、空気を読むことや暗黙の了解など、独特のルールが存在しがちだ。陰口や無視、告げ口といったネガティブな空気とも無縁ではいられない。
のぶは、きっとそうした空気感が何よりも苦手なタイプだろう。

そして、のぶは自分の内面を人に見せることがとても苦手な人物でもある。第76話では、ガード下の女性たちが鉄子(戸田恵子)に助けを求める場面があったが、のぶが彼女たちのように「助けて」と誰かに頼る姿は想像しにくい。

また、のぶは夫と死別した事実を、関係が浅い人にもサラッと打ち明けているのだが、夫の死に対して自分がどう思っているのかは、決して言葉にしない。悲しい、寂しい、会いたいといった感情には一切蓋をして、自分の本音に気づかないようにしているとも考えられる。

誰かと親友と呼べる関係になるには、ある程度、感情を共有する必要があるだろう。どれだけ相手のプロフィールを知っていても、それだけでは親友にはなれない。その人が何を経験し、何を感じ、どこへ向かおうとしているのか。そうした一部を共感し、励まし合うことで親交が深まっていくものだ。のぶがこのまま感情に蓋をしたままでは、親友という存在に出会うのは難しいだろう。

とはいえ、のぶ自身は親友がいないことに悩んでいる様子は見られない。視聴者が「親友がいないヒロイン」などと心配するのは、余計なお世話であることは重々承知している。
それでも、馴染みの屋台で泣きながら酒を酌み交わしたり、門出を祝ったり、恋愛話に花を咲かせたり……そんな風に誰かと感情を分かち合うのぶの姿を見てみたいと、ついつい思ってしまうのである。

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