これは編集部がももクロの運営に休刊の挨拶の連絡を入れたところ、マネージャーの川上アキラ氏から「じゃあ、ウチも出ますよ! モノクロページでもなんでもいいですから!」と有り難い申し出をいただき実現した企画だった。
創刊からこれまでの、ももクロと『OVERTURE』の歴史を、常に至近距離で見続けた、元週刊プロレス記者でももクロ公式記者の小島和宏氏に特別寄稿してもらった。
【写真】ももクロ4人の撮り下ろしカット
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ご存知の方も多いと思うが『OVERTURE』は3月26日発売のNo.022をもって休刊ということになった。
思い起こせば約6年前「新しい形のアイドル雑誌を創刊します。ついてはももクロさんにどうしても登場していただきたいんですよ!」という相談を中山編集長から受けた。
いまでもそうだが、ももクロはあまり雑誌という媒体へは積極的に登場するグループではない。活字にこだわりがあるからこそ、精査して話を受ける、といった印象だった。そこにいきなり創刊号(つまり、どんな媒体なのかのサンプルがまったくない)に登場してください、というのはなかなかハードルの高いミッションだった。
ただ、中山編集長はもともとモノノフ、である(僕も一緒に2011年の『極楽門からこんにちは』に参戦している)。編集長の熱い想いは痛いほど伝わってきたし、もう、その熱量をすべてぶちまけた企画書を作って渡すしかない、という結論に達した。
しかし、残念ながら、ももクロサイドからはまったく返答がなかった。
普通だったら、ここで諦めてしまうのだが、編集長は創刊1周年を迎えるタイミングでもう一度、動いた。
この1年間の実績が利いたのか、今度は実際にももクロの運営チームと交渉のテーブルにつくことができた。しかし、マネージャーの川上アキラは「こんなおしゃれな本にウチは載せられないでしょ?」と拒絶モード。創刊号のときに熱い企画書を送った、という話にも「いや、見てないですよ。後出しでエピソードを作ったんじゃないですか? ガハハハ!」。
そのとき、マネージャーの古屋智美が「あっ!」と声をあげた。
「川上さん、その話、本当ですよ。私、企画書、見ましたもん。あれっ、ということは私のところで企画書を止めちゃっていたのか……ごめんなさい」
まさかのカミングアウトだったが、これで一気に場が和み、トントン拍子で玉井詩織の表紙&巻頭特集が決定。それ以降、毎年、誰かのソロ表紙を組み、さらにメンバー全員が登場する号を年末に出す、というのが既定路線となっていった。
いつのまにかメンバーのソロ表紙も一巡し、昨年6月には二巡目に突入(佐々木彩夏のソロコンに合わせて発売され、会場限定で別バージョンの表紙を物販したところ、一瞬で売り切れてしまった!)。編集長の中には「2020年6月発売号は、25歳になったばかりの玉井さんで」という構想があったようだ(前回のソロ表紙は20歳のときだった)。
昨年末にも、ももクロに表紙を飾ってもらったばかりだったので、その構想も現実のものになるとばかり思っていたのだが、2月のある日、突然「休刊することになりました」という連絡が編集長から入った。
ももクロのライブ会場での物販で、いつも僕の著書を上回るペースで『OVERTURE』が飛ぶように売れていく様子を見ていたので、休刊なんて予想だにしていなかった。堅調に売れていても、いろいろと大変なんだなぁ、このご時世。
そして、編集長の言葉は続いた。
「じつは最終号でももクロのページを組むことになったので、スケジュールが合えば、取材をお願いします」
前号で表紙を飾ったのに、続けて特集記事が組まれるのは異例のこと。
聞けば編集長が「休刊することになりました」という挨拶の電話を川上アキラに入れたら「じゃあ、ウチも出ますよ! モノクロページでもなんでもいいですから!」と逆オファーを受けたのだという。
その申し入れをありがたく受けた編集長は、最終号のラストページと裏表紙をももクロのために割いた。『OVERTURE』のラストをももクロが飾ってくれる……ひとつの雑誌の歴史を彩る「大河ドラマ」があの裏表紙には隠されていたのだ!
ももクロの『OVERTURE』最後の撮影日がやってきた。
メンバーにはすでに『OVERTURE』休刊の話が伝えられていたが、スケジュール表にはなぜか「中山さん スタジオ撮影」としか書かれていなかったので、あーりんなどは中山秀征さん(昨年の『ももいろクリスマス2019』で共演している)との撮影なのかと勘違いしており「えっ、中山さんって中山編集長のことだったのか!」。そんな勘違いもあって、撮影はあまり休刊の寂しさを感じさせぬまま進んでいったが、やっぱりラストならではの空気感はいつしか広がっていく。
彼女たちの『OVERTURE』に対する想いの深さは、誌面に掲載されている座談会をぜひ、ご一読いただきたい。前半部はこれまでの彼女たちの表紙号を総括するような内容(語れば語るほど、休刊への惜別の想いが……)、そして後半は新・国立競技場への想いを4人が熱く語ってくれている。
ちなみに撮影時に「高城れにのソロコンごっこ」に熱狂するメンバーと編集長というシュールな動画がネット上にアップされたが、あれは別にカメラを回しているから、面白いことをやった、というものではない。
そもそもは「高城さんが真剣な表情で撮影をしているときに、スタジオのBGMがいきなり高城さんのソロ曲に変わったら、やっぱり照れて表情が崩れるのか?」という、ももクロチームのいたずらからはじまったのだが(正解は「崩れない」。高城さん、プロだ!)、その流れで高城さんが「ソロコンごっこ」をはじめ、ノリでメンバーたちが観客役として参戦。これは面白い、とカメラを回したところで「編集長、最後なんだから一緒に入って!」となり、謎の動画が完成した次第。本当にももクロの現場は、どんなときだって愉快なものになってしまうのだ。
口々に「本当に残念だね」と言ってくれるメンバーたち。その中で、なによりも心に残ったのは、百田夏菜子が最後の最後に言い放った「約束」。この言葉が『OVERTURE』の歴史を締めくくるひとことになる重み……裏表紙とセットで考えると、本当に感慨深いものがある。
ネタバレになるので夏菜子の言葉はここには書かないが、まったくのひらめきで発したひとことなのに、関係者一同を慮った慈愛に満ちた発言になっていることに、さすがはリーダーだな、と感服したし、この人の背中を追っていけば、おのずと新・国立競技場への道へとつながっていくんだろうな、と。裏表紙に刻まれた百田夏菜子の鋭い視線には、本当にいろいろな意味と想いが込められているのだ。
撮影が終わって片づけをしていると、編集スタッフのテーブルに高城れにがサーッと近づいてきた。
読者プレゼント用に撮影したチェキのボツ写真を手にとった彼女は、そこにペンを片手にサラサラとなにかを書くと、中山編集長に「いままでありがとうございました!」とそれを手渡した。
こんなに気持ちがあったかくなる現場、なかなかあるものではない。
ももクロは仕事の現場からお弁当を持ち帰るだけではなく、もっと素敵なものをこうやって残してくれるから、たくさんの人たちから愛されるのである。
こうして『OVERTURE』にとって、最後のももクロ撮影は終わった。
そして、4人は口々にこう言いながら、スタジオを後にした。
「バイバーイ。またね!」

▽『OVERTURE』022号
表紙:齋藤飛鳥(乃木坂46)
裏表紙:ももいろクローバーZ
定価:1,000円+税
発行元:徳間書店
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