【写真】リングで闘志を剥き出しにする林下詩美
3月3日(水)、女子プロレス団体・スターダムが日本武道館で10周年記念大会『ALLSTAR DREAM CINDERELLA』を開催する。
格闘技の殿堂と呼ばれる日本武道館では、数多くのプロレス興行が行なわれてきたが女子プロレスのビッグマッチが敢行されるのは令和になってからはこれが初のこと。ここ数年、じわじわと人気と注目度をアップさせてきた女子プロレスがイッキにジャンプアップするきっかけとなる可能性は大きく、のちのち「歴史の転換点」として語り継がれていくことになる一夜となりそうだ。
現在、スターダムの最高峰である『ワールド・オブ・スターダム』の赤いベルトを保持しているのは林下詩美だ。
そういってもピンとこないかもしれないが「あのビッグダディの三女」と言えば、誰もが知っている存在だろう。地上波のゴールデンタイムでおなじみだった娘が、いまやチャンピオンとして日本武道館のリングに立とうとしているのだ。
「ものごころついたときからテレビカメラに撮られているという特殊な環境で育ってきたので『人に見られる』ということにはある程度、慣れていたかもしれないですね。デビュー戦もまったく緊張しなかったんですよ。むしろ『私がプロレスラーになる瞬間を楽しもう!』と思っていたぐらいだったので」
この特異な経験から生まれたメンタルと、柔道初段の実績がリング上で見事に融合し、2018年8月にプロレスデビューするや破竹の快進撃。デビューからわずか2年半でじつに6本ものベルトを戴冠し、年に一度のシングル、タッグのリーグ戦もすでに制覇済み。こう書くと順風満帆だったように見えるかもしれないが、本人にとっては「たくさんの試練と壁があった」という。
「ただの新人なのに『ビッグダディの娘』ということで注目されてしまう。周りが期待する以上の結果を残さなくてはいけない、というプレッシャーは大きかったですね。特にはじめてベルトを巻いてからは、より強く感じるようになりました。
あと、これは私にしかわからないことですけど、SNSでもいろいろ言われることが多かったので……本当に壁はたくさんあったし、苦しい時期もありましたけど、そこはもう努力して乗り越えていくしかないし、けっして順調ではなかったです」
こうしてたくさんの苦悩をひとつひとつ乗り越えていくうちに、いつしか、プロレスファンは『ビッグダディの娘』というフィルターなしで試合を見てくれるようになっていった。いちプロレスラー・林下詩美として評価し、期待し、応援してくれるようになったのだ。
しかし、今回の日本武道館進出のように、プロレスファン以外の人たちにもアピールしていかなくてはいけない局面では、まだまだ『ビッグダディの娘』という看板は大きい。彼女の「その後」を知らない人にとって、プロレスラーになって、最高峰のチャンピオンベルトを巻いて、日本武道館で防衛戦をおこなう、という「現実」はすべて驚きにつながるからだ。
「そうですね。最初はプレッシャーでしたけど、いまでは自分から『私はビッグダディの娘で、今、プロレスをやっています。ぜひ、見に来てください』と言えるようになりました。きっと、それはやっぱりたくさんの方にプロレスラーとして認めていただけるようになって、いまだったら『ビッグダディの娘』より『プロレスラー・林下詩美』のほうが勝つ、という自信ができたからだと思います。
それに私は『(林下)清志の娘』ということに誇りを持っているし、もっともっと、いろんな方向にプロレスを広めていきたいので『ビッグダディの娘』というフレーズがわかりやすいんだったら、それをアピールしていくことに抵抗はありません」
この境地に到達するまで2年半の月日を要した。
「チャンピオンとしてスターダムを引っ張っていかなくちゃいけないと思うし、これまでの歴史を背負って、新しい歴史を刻んでいかなくちゃいけない。10周年というタイミングで赤いベルトを巻いているのが、1期生の岩谷麻優でもなく、昨年の女子プロレス大賞のジュリアでもなく、この林下詩美だ、という現実を受け止めて、武道館に立ちたいです」
【後編】ビッグダディの娘からレスラーへ…スターダム・林下詩美が語る「女子プロレスが私を変えてくれた」はこちらから。