華やかなホールに所狭しと並ぶパチンコ・パチスロ台。その一台一台の開発には数多くの「人」が関わっている。
本連載「P業界で働くということ」では、実際にパチンコ・パチスロ業界で働く人々をピックアップ。業務にかける想いや熱意、そして苦労や挫折、さらには転機や今後のビジョンなど、業界の「リアル」な現状に迫り、その声をお届けしていく。
今回は、「Pひぐらしのなく頃に 輪廻転生」をはじめ、数々のパチンコ・パチスロの役物設計を担当するDAIICHIグループの株式会社ディ・ライト メカ技術開発部 役物開発室 室長の長谷部剛氏に話を伺った。
○役物設計という仕事
「役物と言うのは、簡単に言うと、液晶とゲージ(釘)を除いた、パチンコの遊技盤面に見えるものすべて」と話す長谷部氏。所属する役物開発室は、パチンコにおける盤面の開発を行う部署で、その責任者として日々開発に勤しんでいる。
パチンコの機種開発は、プロジェクトリーダーの下、企画担当、デザイン担当、メカ設計担当、ハードウェア担当、ソフトウェア担当、そのほかスペックや映像、ゲージ担当など、社内だけでも十数人、協力企業を入れると50人くらいの規模で行われるが、盤面開発においてまずは企画とデザインとメカ設計で、アイデアを出し合いながらコンセプトを詰めていく。「今は、部長職という立場になっていますが、大きな盤面の仕様を決める現場にはほぼ毎機種のように顔を出す」という長谷部氏。
また、「どんな仕組みを入れれば、ファンの方に刺さるか、減っていったプレイヤーの方が戻ってきてくれるか、そんな仮説を立てながら、機種開発に先駆けた先行開発の企画や構想設計を行う。そんな種蒔きのようなところに力を入れています」と現在の活動を表現する。
○企画志望も設計に携わる
長谷部氏が業界を選んだのは、やはり「大学時代にパチンコ・パチスロにハマった」のが大きな理由。大学時代は機械工学を学んでいたが、「最初は企画がやりたかった」と打ち明ける。
そんな長谷部氏にとっての最初の仕事は、パチスロ機の筐体設計。基板ケースや、不正などができないように基板ケースを固定するための"カシメ"の設計などを担当する。「設計と言っても、新入社員にできる仕事なんてたかが知れている」と謙そんするが、この設計でアイデアと特許を1件ずつ取得しているという。
「自分が入社した頃は、筐体はほとんどできあがっていて、できていなかったのは基板ケースぐらいだった」とのことで、耐久テストや操作性の改善などにも従事。そして、スロットのドット表示機の設計などにも携わる、「コストダウンを狙って、液晶の代わりとして設計したのですが、やはりドットだと荒すぎて、どうしても安っぽく見える」との理由で、金型までは作られたが、市場投入は残念ながら行われなかった。
入社当時は名古屋で設計を行っていた長谷部氏だが、パチスロが売れづらい状況になったこともあって、パチンコの部署に異動。それにともなって、名古屋を離れ、東京開発室で役物の設計を行うことになる。
○役物設計における達成感と挫折
長谷部氏が初めて役物を担当したのが「CR湘南爆走族」。「当時は開発費にかなりのお金をかけることができたので、役物の数も多い。今では3個くらいということもありますが、当時は機種によっては10個以上を詰め込んでいた」と、役物設計を始めた当時を振り返る。
現在は、コスト面はもちろん、エコの観点からも、部品の共通化という思想が展開されているが、5年ほど前までは「常にフル新規」。設計点数が多くても、その機種にのみ最適化させればよかったが、現在は共通化を意識しての設計となるため、設計に掛かる時間も長期化する傾向にある。「やはり、やりたいことは機種ごとに変わってくるので、先を見据えての設計は非常に難しい」としながらも、共通化は時代の要請であり、避けては通れない道。駆動機構の共通化もあわせて、設計段階からかなり意識しているという。
その一方で、トレンドも無視できない要素。かつて役物といえば「チューリップ式電チュー」「扉式アタッカー」といった印象が強かったが、最近ではかなり少なくなってきている。その理由として、長谷部氏は「出玉に関するスペックを規則的に実現するため」と説明する。規則として開放時間などの制限が細かく決められているが、普通の電チューだとスペックにあわせるのが難しく、「例えば、ロング開放で1個しか入ってほしくないときに、電チューだと複数入ってしまう可能性がある」と例を挙げ、「その対策が必要になる」と言及する。
「ちなみに一個しか入らない電チューは私が初めて開発しました」と打ち明ける長谷部氏。「CR銀河機攻隊 マジェスティックプリンス」にて実現した機構によって、新たなゲーム性が生まれ、「大当たりを最大4つまで貯められるといった今までできなかったゲーム性が実現できた」と笑顔を見せる。
役物設計において、もっとも達成感を感じる瞬間は、「業界で初めてみたいなことを提案して、それを形にできたとき」。「言われたことを設計するのも面白いんですけど、やはり今までになかったものを自分で生み出し、それに対して実際にホールで打っている方が大きくリアクションしてくれているのを見ると、報われた気がします」と心の内を明かす。
入社早々に特許を取得した長谷部氏だが、これまでに取得した特許は100を超える。パチンコ業界の場合、各メーカーが取得した特許は日本遊技機特許協会(JAMP)によって管理されており、使用料を払うことで加盟メーカーは自由に利用することができる。そのため、長谷部氏の特許が他メーカーのパチンコ台に使用されることも珍しくないが、「ほかのメーカーに採用されるのもちょっとうれしい」と素直な喜びを示す。
パチンコ・パチスロの開発に携わって25年を数える長谷部氏にとっての最大の挫折は、初めて担当した機種。「CR湘南爆走族」が"攻略"され、市場回収となったことについて言及する。「攻略されたのは、直接的にメカ設計が原因というわけではなかった」としつつも、「初めての機種担当でしたし、やはりプロジェクトメンバーのひとりとして、かなり凹みました。そして会社にも多大な迷惑を掛けましたね」と振り返る。
ただそれは、「あくまでもチャレンジした結果」だと続ける。「業界で初めて"リプレイ機能"を考えて搭載したのですが、そこが起因となって攻略されるのではないか」との危惧を抱きつつ、「"大丈夫"という言葉を信じて、任せきりにしてしまった」ところを反省点として挙げる。「やはり、任せっきりはダメ。
○プレイヤーにまた打ちたいと思ってもらうために
現在は役物開発室の室長として、メンバーの指導育成に力を入れる長谷部氏だが、プレイングマネージャーとして、引き続き現場にも顔を出している。特に企画段階を大事にしており、「ポイントポイントで必ず入るようにしている」という。「設計を始める前の段階で顔を出し、一緒に知恵を出すようにしています。売れる売れないはそこで決まると思っているので」と企画段階の重要性を説きつつ、「絶対に老害にはならないようにしないと」と、自らを戒める。
「最近の若い人は、与えられた仕事、自分の仕事だけにこだわる傾向にある」と分析。「ただプロジェクトに入って、自分の領分を決めてしまうのは違うのではないか」と疑問を投げかける。「まずは誰のために仕事をしているのか。お客さんのためだと思えば、まだまだできることがあるのではないか。なかなか変わりにくいんですけど、そのあたりの考え方を少しずつでも変えていかなければいけない」との方針を示す。
「かつてはブラックだった」と自虐する職場環境も、いまではかなり改善されており、長谷部氏自身も「今はホワイトになった」と語る。実際、「ムダな残業は効率が上がらない」ことから、「メリハリをつけた仕事が重要」と考えている。ただし、自身の若手時代は「時間があればあるだけ働いて、少しでも早く仕事を覚えたかった」と振り返り、「帰れと言われても仕事を探して齧りつき、少しでも多くのことを吸収したいタイプ」と自身を評価する。それが時代に合っているか合っていないか、正しいか間違っているかは別にして、「最近ではそういったメンバーはだいぶ少なくなった」と、やや寂しそうな表情を浮かべる。
今でもホールに通っているという長谷部氏だが、それは決して研究のためではなく、「勝つために真剣に遊んでいる」と打ち明ける。しかし、そうは言いつつも、周りの台もかなり気になるとのことで、周りの反応を見て、なぜすぐに台を離れるのかなどを考えながらのプレイになる。また、ホールでは自社の台が他社の台と並んで設置されることから、自然と比較ができてしまう点も大きなメリットとして挙げ、液晶の良し悪しなどの気づきを、しっかりと会社にフィードバックしているという。
改めて長谷部氏に役物づくりのこだわりについて尋ねると、「やはりプレイヤーさんから見て、良いなと思ってもらえるものを作りたい」と即答。プレイヤーファーストの視点で、「また打ちたいと思ってもらうためにはどうしたら良いかを常に考えている」という。そして、その上で、「業界初で、プレイヤーさんが面白がってくれる機械を作っていきたいですし、一泡吹かせられるような機械が作れたら良いなと思っています」と、今後の展望を明かした。
役物設計の面白さは、「自分が設計したものが形になるところ」であり、「もちろん、思った通りに作れないことがいくらでもあるし、いくら計算してもその通りに動作しないこともある」としつつも、失敗を怖れない気持ちに加えて、「失敗には必ず原因があるので、それを追求することに面白みを感じる方は、設計に向いている」と断言。これから業界を目指す人には、「パチンコという大衆娯楽は、これからも長く続いていくと思うので、パチンコが好きなことは大前提として、特にメカ設計に興味のある方は、ぜひ一緒にパチンコを作りましょう」と熱いメッセージを贈ってくれた。