両備システムズは9月2日~3日に都内において「共創DX2025」を開催している。本稿では、初日の基調講演に登壇した同社 代表取締役COO(最高執行責任者)の小野田吉孝氏の話を紹介する。
両備システムズ、60年の歩み
両備システムズは今年6月5日に創業60周年とメモリアルな年を迎えた。小野田氏は創業から現在までの歩みを振り返った。同社は1965年に岡山電子計算センターとして開所し、1973年にピーター・ドラッカー氏のアドバイスのもと、現社名である両備システムズに改称。
1997年に東京支社を東京本社に昇格させて2本社制を導入、2002年に岡山情報ハイウェイに常時接続を開始してASP(Application Service Provider)事業に参入し、2013年には岡山リサーチパーク(岡山市北区)で免震構造のデータセンターが稼働するとともに、事業拡大のためシンクと資本提携を締結した。
2019年にはラオスの国営データセンターを活用したICTビジネス参入のため、Ryobi Laoを現地に設立しており、2020年には両備システムズグループ6社が合併したほか、ジャパンシステムからセキュリティ事業を譲り受けた。2021年にドリームゲートの株式譲受、新規事業創出のためCVCとしてRyobi AlgoTech Capitalを設立し、2025年に医療ビジネス拡大のためマックシステムを合併した。
現在では、公共、医療、社会保障分野、民間企業向け情報サービスの提供、システム構築、データセンター事業、クラウドサービス事業、セキュリティ事業と広範にわたる事業を展開している。
クラウドとSDGsで進めるブランディング戦略
小野田氏は「ブランディング強化」「グローバル展開」「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」「FinTech」「AI」「カーボンニュートラル」の観点で話を進めた。
まずは、ブランディング強化について。同氏は「私が2020年にCOOに就任してからブランディングの強化を進めてきた。当社の事業領域は幅広いが、お客さまに1つのサービスやソリューションを提供しただけで、他のサービスを理解いただけていないと感じていたので、ブランディング力を上げていくことに取り組んだ」と述べた。
こうした状況において同氏が紹介したものが「R-Cloud」とSDGsだ。
SDGsでは17の達成目標のうち「1. 貧困をなくそう」「3. すべての人に健康と福祉を」「4. 質の高い教育をみんなに」「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「8. 働きがいも経済成長も」「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」「10. 人や国の不平等をなくそう」「11. すみ続けられるまちづくりを」「12. つくる責任 つかう責任」「13. 気候変動に具体的な施策を」「17. パートナーシップで目標を達成しよう」の10項目をカバー。各領域に対して、サービスやソリューションの提供で貢献していく考えを示した。
ラオス、バングラデシュでのグローバル展開
続いて、グローバル展開に話は移った。前述のように同社はラオスに現地法人を設立しており、現在では同国のデジタルIDに関する施策や進出する日本企業のITサポートなどを手がけている。
また、小野田氏が「特に力を入れている」と言及したのは、バングラデシュにおける取り組みだ。これは、経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に参画し、農業データプラットフォームによる農業DX(デジタルトランスフォーメーション)およびカーボンクレジット創出に向けた実証事業を行っている。
具体的には、効率的な稲作を行うとともに生産性の向上を図るためAWD農法(間断灌水により節水、収量増加が見込める稲作農法)の浸透を目指している。
同氏は「バングラデシュは稲作が盛んで、日本の収穫は1期だがバングラデシュでは3期行う。現地のNPO法人とともに、営農指導やメタンガスを計測してカーボンクレジットを計算・変換するプラットフォームを構築している。今年は3900haで実証を行っており、GHG(温室効果ガス)削減が30%以上、収穫量は30%以上向上している。
FinTech・CVCによる新規事業創出の取り組み
CVCでは、2023年にRyobi AlgoTech Capitalが組成した1号ファンド「両備システムズイノベーションファンド」に加え、9月に2号ファンドの設立を予定している。小野田氏は「AIの先進的な事例への関心に加え、コラボレーションを期待しているため」と話す。
1号ファンドはファンド規模が20億円、運用期間は10年間、すでに海外57%、国内43%の割合で13億2000万円を投資しており、2025年末にまでに累計17億円の投資実行を予定。一方、2号ファンドは海外70%、国内30%の割合とし、グローバル投資を強化していく方針としており、同氏は「海外の有望なAIベンチャーを見つけて、投資していく」と意気込みを示した。
FinTechに関しては、為替市場の分析・予測や各取引戦略の正誤判断、運用ポートフォリオのリスク管理、金融市場の変化に対応したアルゴリズムの更新まで一貫した運用システムを実装し、AI運用の為替ヘッジファンドの設立を予定している。
小野田氏は「2023年から自己資金を投入し、トラックレートを計測している。KPIは10%以上の利益創出を掲げ、構築した100弱のAIモデルを組み合わせている。2025年上半期は予想数値を超えて実績を作ることができたことから、2026年早期にヘッジファンドをローンチできればと考えている」と述べている。
医療AIと生成AIによる技術革新
次はAIについて。岡山大学と共同開発した早期胃がん深度AI診断支援システムが2024年3月に「医療機器製造販売承認」を取得したことを受けて、2025年度内に市場投入を予定。それ以外にも肝臓がんや膵臓がん、大腸がんにも取り組んでおり、大学病院や総合病院などと実証を進めており、海外も視野に展開していく考えだ。
生成AIでは、自治体向けグループウェアシステム「公開羅針盤」に「Azure OpenAI Service」と「Azure AI Search」を組み込んでいるほか、開発プロセスにAIエージェントを活用することでAI駆動開発を推進しているという。小野田氏は「当然、プログラミングは生成AIで変化する時代になっており、生成AIを使うためにもエンジニアのスキルが必要。そうしたことから経験を積ませ、技術をもって生成AIを使っていく」と力を込めた。
カーボンニュートラルの取り組みでは、政府が目標に掲げる「2050年カーボンニュートラル」に向けて、8月20日に環境方針「GREEN COMPASS 2050 ~忠恕の心で地球にやさしい未来へ~」を策定。
環境保護と経済成長の両立を目指しつつ、サステナブル社会の実現を目指す。具体的には温室効果ガス(GHG)の排出量を重要指標とし、2030年までにScope1・2の排出量を51.2%削減することを中期目標に設定しており、2050年のカーボンニュートラル達成を実現していく方針だ。
そのほか、地域貢献として岡山県のプロサッカーチームで今年J1に昇格したファジアーノ岡山のオフィシャルスポンサーとして長年サポートしていることに加え、地元出身のプロゴルファーの桑木志帆プロ、大嶋宝プロ、大嶋港プロ、バスケットボールB3リーグのトライフープ岡山、eスポーツチームのSETOUCHI SPARKSなどを支援している。
スマートタウン構想と2030年のビジョン
終盤、小野田氏は自身が米サンフランシスコを訪れた際に乗車した無人の自動運転タクシー「Waymo」を引き合いに出し、次のように話した。
「米国では無人タクシーが実現し、日本でもトヨタ自動車さんなどが取り組んでおり、そうした世界が目の前に来ている。また、エージェントが人間に寄り添う時代が到来しており、AGI(汎用人工知能)の時代も実現されるだろう。このような中で地域活性化や地域貢献、社会貢献に対してIT技術で貢献するのは当社単独では難しい。だからこそ、お客さまやパートナーの方々と共創し、世界に向けて発信していきたいと強く考えている」(小野田氏)
こうした考えをベースに両備システムズでは中長期的なビジョンとして「スマートタウンの実現」を掲げている。
最後に同氏は「60年を振り返ると経営危機は実際にあったが、お客さまの理解とパートナーの強力な支援で何とか乗り超えることができ、今の当社がある。まずは西日本ナンバーワン企業に向けて当社は挑戦と変革を続け、両備グループの経営理念『忠恕(ちゅうじょ:真心と思いやり)』をもとに、確かな技術力で創造のつかない世界を作り出し、幸せの選択肢を増やしていきたい」と述べ、講演を締めくくった。