Webデザインやライティング、動画編集、プログラミングなど、PC一台で働けるスキルを学べる女性向けキャリアスクール「SHElikes」。累計会員数が20万人を突破するなど、女性のキャリアを支えるインフラとして定着している。


創業者の福田恵里氏は、大学時代の留学経験をきっかけに前身となるスクールを立ち上げた後、リクルートを経て独立し、SHElikesをオープン。同サービスを「生き方の学校」と位置づけ、スキルの習得だけでなくマインドの醸成にも注力している。

唯一無二のコンセプトで熱狂的に支持されるSHElikesはどのようにして誕生したのか。そして、どこを目指すのか。福田氏に伺った。

「女性こそWebスキルやテクノロジーを学ぶべき」大学時代の体験が原点

——まず、女性向けキャリアスクール「SHElikes」について教えてください。

SHElikesはWebデザインやライティング、動画制作、プログラミングなど、PCひとつで働けるスキルを未経験から学べる女性向けのキャリアスクールです。50以上の職種スキルが学び放題で、各職種のレッスンを“つまみぐい”できます。だから、やりたいことが決まっていない状態から自分の“好き”を見つけられるんです。

——SHElikesを立ち上げた経緯について教えてください。

立ち上げの原点は、大学生のときに立ち上げた女性向けのWebデザインスクールです。といっても私自身はデザインを学んでいたわけではないんです。
大学時代にサンフランシスコに留学した際に、現地の起業家がPC一台でWebアプリやWebサイトを作っているのを見て、「かっこいいな、こんな世界があるんだ」と思いました。

帰国してデザインやプログラミングの勉強をするため、勉強会やスクールに通ったのですが、そこで驚いたのが女性の少なさです。当時は女性エンジニアが7%程度しかいなかった時代。たとえば、50人くらいの勉強会に参加して女性は私一人、という場面にも何度も出くわしました。

——「女性はPCが苦手」「プログラミングはできない」といった先入観もあったでしょうね。

この流れを根本的に変えるには、教育そのものを変革するしかありません。ただ、当時大学生だった私にはまだそこまでの力はない。それでも「女性こそWebスキルやテクノロジーを学べば、結婚や出産などでライフステージが変わっても、自分の力で生きていける」という思いはありました。そこで、20歳のときに女性向けのスクール「Design Girls」を設立しました。これが現在のSHElikesの前身です。あえて女性向けをうたうことで女性の抵抗感をなくそうと考えました。

Design Girlsでは、生徒にとってのロールモデルになれるような女性講師を起用し、ヨガや料理、スイーツ会のような女子会的なコンテンツも取り入れました。
キャリアスクールというよりも、カルチャースクール寄りでしたね。

「なりたい職業」ではなく「ありたい姿」を思い描く

——2017年にはSHE株式会社を設立し、SHElikesをローンチされました。現在のSHElikesはDesign Girlsとは違い、「女性のためのキャリアスクール・プラットフォーム」を明言しています。

Design Girlsを続けるうちに、ヨガや料理よりも、キャリアやビジネスに関するレッスンの方が圧倒的に人気なことに気付きました。多くの女性が「これからどう生きていくのか」「Webスキルを学び手に職をつけることで人生の選択肢を広げたい」と思っていたのです。

もうひとつわかったことは、彼女たちにとって「スキルはあくまでも手段であり、目的ではない」こと。「自分に合ったスキルを身につけて、自らの人生を切り拓く」ことが目的なんです。

ですから、SHElikesではキャリアコーチングという形で、まずシーメイト(SHElikesユーザー)の理想の生き方や人生を棚卸しします。「Webデザイナーになる」といった「なりたい職業」ではなく、「将来は海外を飛び回る仕事がしたい」「お金に困らない自分になりたい」といった「ありたい姿」を想像してもらうんです。

そうすれば、ありたい姿を実現するためにどんなスキルが必要なのかが見えてきます。「海外を飛び回りながら生きていくなら、PC一台で仕事ができるスキルが必要」というように、まずは方向性を定めていくのです。

——たしかに「Webデザイナーになりたい」だと否応なしにWebスキルを学ぶことになりますが、「海外を飛び回って仕事をしたい」なら、様々なスキルや職種の選択肢が出てきますね。


そうやって棚卸しをしたら、現在50以上の職種スキルが学べるコースから「Webデザインとマーケティングと動画制作をまずやってみよう」というように、レッスンを“つまみぐい”で試してもらいます。

すると、「思っていたのと違った」「これが好きだ」といった自分の方向性が見えてくるので、あとは自分に合ったスキルを伸ばしていくという流れです。
SHElikesは「何をすればいいかわからない」という潜在ニーズに応える

——何を学ぶかを決めて入るのではなく、入ってから決められるという点はSHElikesの特徴ですね。

「このスキルを学びたい」という顕在ニーズに応えるスクールはたくさんありますが、「今の仕事を辞めて自分に合った仕事をしたいけれど、何をすればいいかわからない」といった潜在ニーズに応えるスクールは多くありません。SHElikesはそこが女性のニーズにマッチしたのだと思います。

——そうした潜在ニーズは男性にもあると思いますが、より女性に多いのでしょうか。

そう思います。実はSHElikesを受講されている方の平均年齢は29歳。東京都の結婚平均年齢が31~32歳くらいなので、ちょうど結婚と出産を目前にして、「このままの働き方でいいのだろうか」と考える年代です。

第一子出産後の女性の離職率が50%と非常に高い日本では、「出産を経てセカンドキャリアを築くには、どうすればいいのか」「子育てと仕事を両立するには、どんなスキルが必要なのか」というように、ライフステージの変化に向き合わざるを得ません。そこで選択肢の一つとなるのがSHElikesなんです。

受講生の方々は事務職や営業職、販売職など、“対面の仕事”についている方が多いです。
子育てをしながら対面での仕事をするのは大変なので、別の可能性を模索されるのだと思います。
球体型のコミュニティがユーザーの“熱狂”を生む

——SHElikesの運営で意識していること、注力していることはありますか。

SHElikesの一番の特徴はコミュニティです。私たちが大事にしているコンセプトが、「球体型のコミュニティ」であること。従来のコミュニティはピラミッド型が多く、ほとんどがカリスマとフォロワーに分かれています。そうしたコミュニティはカリスマがいるうちはいいのですが、カリスマが抜けると瓦解してしまいがちです。

一方、SHElikesの「球体型のコミュニティ」は、真ん中にSHElikesのビジョンがあり、それに共感した人たちが集まる場所です。上下関係はなく、全員がGiver(与える人)。古参だからとか新人だからといった差が生まれないよう気をつけています。

——具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。

たとえばSHElikesには「20代コミュニティ」や「起業コミュニティ」など、30以上のコミュニティがあります。それらのマネジメントをするのは、SHElikesの受講生たちです。
4ヶ月に1回の交代制でコミュティリーダーを決め、リーダーがサポートチームを作って、イベントの企画などを行っています。

コミュニティのイベント企画や運営を受講生自らが行うことで、コミュニティへのエンゲージメントが高まり、また次のリーダーが育っていく仕組みです。これがコミュニティの“熱狂”の源泉となっています。

——お祭りはお客さんでいるよりも運営側になる方が楽しいということですね。

もう一つ大事なことは、コミュニティ内での心理的安全性です。SHElikesに入った方の中には最初は自信がなかったり、自己肯定感が低かったりする方も多いです。

SHElikesでは自己肯定感を高め、心理的安全性を確保するために「約束事」を設けています。まず、「私なんか」という発言は禁止。夢は声に出して人に伝える。そして人の夢も自分の夢も絶対に笑わない。SHElikesでは夢を語っても誰も笑わず、みんなが肯定してくれます。安心して一歩を踏み出せる環境なんです。
これもまた熱狂の源になっていると思います。

SHElikesが目指す「女性の生き方の学校」

——お話を伺っていると、SHElikesは一般的なスクールとは一線を画していますね。

はい。よく「SHElikesの本質的価値はなんだろう」と考えるのですが、私の個人的な定義では「生き方の学校」なんです。

日本人は「与えられた問題を早く解く」トレーニングばかりしていますが、生き方を紡ぎ出していく上では「白いキャンパスに正解を描く」マインドが重要なんです。

スキルはもちろん大事です。スキルが増えることは絵の具の種類が増えるようなもの。いろいろな絵が描けるようになります。しかし、白いキャンパスに筆をのせるためには絵の具を増やすだけでは足りないのです。必要なのは挑戦心や自信といったマインドです。

そのマインドとスキル、両方を育てるのがSHElikesなんです。

——今後の展望について教えてください。

目下やりたいことは「全国展開」です。SHElikesは現在、受講生の70%が関東3県や東名阪といった都市部に集中しています。ですが、都市部以外の地方の女性こそキャリアに悩んでいます。私も滋賀県出身なので、その悩みはよくわかります。SHElikesのサービスは、地方の女性にこそ受けていただきたいのです。ですから、今後は地方自治体との連携や地方への店舗展開を進めていきたいと考えています。

——地方創生にもつながりそうです。

地元で働きたい、地元に住み続けたいという方は、実は結構多くいます。それでも地方を出てしまうのは賃金格差があったり、仕事がなかったりするからです。スキルとマインドがあれば、どこでも働けます。現在すでに多くの自治体とUターン促進プログラムを設計中です。

この「全国展開」は2年くらいで達成したいと考えています。その先、5~10年スパンで「女性の生き方のインフラになる」ことを目指しています。

SHElikesが多くの人材が輩出することで、人々の価値観が変わり、それまでの“当たり前”がアップデートされていく。すると、社会も変わっていく。そんな未来が目標です。

山田井ユウキ やまだいゆうき 2001年からマルコ名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちにいつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。Twitter:@cafewriterサイト:探したら出てきます この著者の記事一覧はこちら
編集部おすすめ