携帯電話市場の飽和を受けて、携帯大手が新規顧客の獲得から、既存顧客により長く利用してもらうことを重視するよう戦略転換を図っています。それによって大幅に強化がなされているのが最上位プラン。
NTTドコモがWOWOWと提携、「ドコモ MAX」拡大が狙いか
携帯電話会社はこれまで、新しい顧客を獲得することで毎月の通信料収入を増やし、売上を高めてきました。現在は法律で規制されていますが、スマートフォンを1円などの激安価格で販売してでも新規契約の獲得に力を注いでいたのは、通信料収入こそが携帯電話会社の売上の要でもあったからです。
ですが、すでに日本の携帯電話市場は飽和し切っていることから、携帯電話会社も新規顧客獲得で売上を伸ばす戦略を改め、既存顧客の売り上げを高める戦略に転換する動きが急速に広がっています。なかでも最も大きな取り組みとなっているのが、料金は高いが付加価値が多い上位プランの魅力を高め、そちらの契約を増やすことです。
実際、NTTドコモは2025年11月4日、上位プランとなる「ドコモ MAX」について、2026年2月より新たに「選べる特典」を追加すると発表。ドコモ MAXは従来、「DAZN for docomo」「NBA docomo」といったスポーツ映像配信サービスが標準で付属することが特徴となっていましたが、スポーツに関心のない人たちのメリットが薄かったことも確かです。
そこでNTTドコモは、ドコモ MAXに同社が提供する映像配信サービス「Lemino」「dアニメストア」を追加し、選べる特典によって4つのなかから2つを選べるようにするとしています。もう1つ大きな取り組みとなったのが、衛星放送事業者のWOWOWと提携することです。
この提携により、両社は共同でコンテンツの制作や調達などをするとしていますが、NTTドコモとしてはWOWOWが強みを持つ音楽ライブやドラマを取り込んでLeminoのコンテンツを強化し、価値を高めることで、スポーツに関心のない人にもドコモ MAXを利用してもらおうとする狙いが見て取れます。
新料金を打ち出さないソフトバンクはどう動く?
一方で、別の角度から上位プランの魅力を高める策に出ているのがKDDIで、2025年11月17日に新料金プラン「auバリューリンク マネ活2」「使い放題MAX+ マネ活2」を発表。その名前の通り、通信と金融サービスを連携した、メインブランド「au」の「auマネ活プラン」の最新版となります。
これら2つのプランで大きく変化した点は、1つに“ポイ活”、要は決済サービスを利用した際に付与されるポイントの上限が分かりやすくなったことです。
前身の「auマネ活プラン+」などでは、クレジットカードの「au PAYクレジットカード」とスマートフォン決済の「au PAY」それぞれにポイント付与上限が定められていたため、無駄なくポイントを得るには双方の決済サービスを使い分ける必要がありました。ですが新しいプランでは、ポイント付与上限がau PAYクレジットカードとau PAYの双方で毎月2,500ポイントとなり、決済サービスの使い分けが必要なく分かりやすくなりました。
そしてもう1つ、より大きな変化となるのは「auじぶん銀行」との連携が強化されたこと。auじぶん銀行に預けた金額に応じて最大550円のキャッシュバックが得られるほか、au PAYクレジットカードで通信料金を支払い、その引き落とし先をauじぶん銀行にすることで、さらに最大1,650円のキャッシュバックが得られるようになりました。
それらすべての特典と、指定の固定ブロードバンドサービスの契約で適用される「auスマートバリュー」を適用した場合、月額9,328円のauバリューリンク マネ活2は、実質負担金が月額3,258円にまで減るとされています。
もっとも、条件をすべてクリアし最大限の還元を受けるには、auじぶん銀行とau PAYカードを持つ必要があるのに加え、上限までポイントを獲得するには事実上、会費が有料の「au PAYゴールドカード」が必須となるなど、ハードルが非常に高いことも確か。ですが、そのハードルをクリアすれば実質負担金を大幅に引き下げられることをアピールすることで、周辺の金融サービス利用も増やして売上拡大につなげようとしていることは確かでしょう。
NTTドコモ、KDDIが相次いで打ち出した施策を見れば、いかに各社が上位プランに重きを置き、その契約を増やすことに非常に力を注いでいることが分かるのですが、一方で気になるのはソフトバンクです。ソフトバンクは2025年9月より、サブブランドの「ワイモバイル」で新料金プラン「シンプル3」を開始しましたが、少なくとも現在のところ、メインブランドの「ソフトバンク」に関して新料金プラン導入の動きを見せていません。
同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、2025年11月5日の決算説明会で「中長期で見ると、これだけ物価が高騰する中で、我々もどこかで動かざるを得ない」と、ソフトバンクブランドでも値上げを織り込んだ新プランを今後どこかで提供する必要があると話しています。
競合が新プランで値上げを図るなか、同社だけが値上げをしていないことが顧客獲得の面ではプラスに働いたと考えられます。
競争環境が大きく変わろうとしている今後の競争を見据えるうえでも、すでに動きを見せた2社に対して、ソフトバンクがいつ、どのような形で上位プランに関する動きを見せるかが非常に気になります。しない方が有利でもある値上げとは違い、新たな付加価値を付けたプランの提供が遅れてしまえば、その分競合にも後れを取ることになるだけに、その判断が業界の動向も大きく左右することになるかもしれません。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら











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