●人間の葛藤を描くドラマの魅力は国境を越える
松本幸四郎主演『鬼平犯科帳』シリーズの最新作『鬼平犯科帳 兇剣』が、時代劇専門チャンネルで1月10日(13:00~、19:00~ほか)に独占初放送される(時代劇専門チャンネルNETで独占配信、YouTubeチャンネル「24/7 SAMURAI-SHINOBI」で世界同時配信)。第7弾を数える同シリーズをエグゼクティブ・プロデューサーとして仕掛けたのは、今年6月に「時代劇専門チャンネル」と「日本映画専門チャンネル」を運営する日本映画放送で初のプロパー社長となった宮川朋之氏だ。


近年、『SHOGUN 将軍』『侍タイムスリッパー』『国宝』など、メイド・イン・ジャパンコンテンツが大いに話題となっているが、それに歩調を合わせるかのように、幸四郎主演の『鬼平犯科帳』シリーズも海外で高い評価を受けている。そこで見えてきた可能性や、時代劇を作り続けることの使命感、そして、そのノウハウを生かした次の構想を語ってくれた――。

○海外YouTubeチャンネルが好調「より攻めモードに」

幸四郎主演の『鬼平犯科帳』シリーズは、24年6月には劇場版『鬼平犯科帳 血闘』が「第26回上海国際映画祭」フィルムパノラマ部門に公式招待されて幸四郎がレッドカーペットで喝采を浴び、同月にはテレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』がアジア最大級のテレビの祭典「第29回上海TVフェスティバル」でショーケース上映、今年3月には『鬼平犯科帳 血闘』に出演する中村ゆりが「第45回ポルト国際映画祭」(ポルトガル)でディレクターズウィーク・ベスト女優賞を受賞、そして5月には『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』が「ドイツ・ワールドメディアフェスティバル2025」エンターテインメント(アクション・アドベンチャー・スリラー)部門で金賞に輝いた。

また、日本・中国以外で視聴できるYouTubeチャンネル「24/7 SAMURAI - SHINOBI」は登録者数が約32万人に達している(※25年12月現在)。3年前にスタートした同チャンネルだが、『BLACKFOX: Age of the Ninja』『SHOGUN’S NINJA-将軍乃忍者-』といったオリジナルのタイトルがヒット。特に『BLACKFOX: Age of the Ninja』は2,042万回再生(※同)され、毎週約1万回再生回数が伸びている。さらに、最新作『NINJA WARS ~BLACKFOX VS SHOGUN'S NINJA~』の制作が発表されるなど、「ここからより攻めモードに入っていきます」とさらなる意欲を見せる。

この好調の要因については、「日本だと、時代劇はどこか“シニア世代のもの”という先入観がありますが、海外にはそれが全くなく、“コスチュームドラマ”としてフラットに見ているんです。配信という手段でボーダレスになったことで、視聴回数の伸び方を見ても想像以上の反響があります」と手応えを語る。

SNSのリアクションを見ていると、時代背景などを把握していなくても、物語をきちんと理解していることが分かるといい、「人間と人間の葛藤を描くドラマというのは万国共通ですし、いい物語は国境を越えるのだと思いました」と、作品のパワーを実感。一方で、海外向けの予告編の作り方は日本向けのものとは大きく異なるそうで、「『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵は『アンタッチャブル』(87年)のエリオット・ネス(ケビン・コスナー)のような雰囲気を漂わせています」と、ローカライズして間口を広げているのだ。

こうした反響に加え、『SHOGUN 将軍』の快挙に『侍タイムスリッパー』の奇跡、『国宝』のメガヒットなど、メイド・イン・ジャパンコンテンツの躍進は、『鬼平犯科帳』のさらなる海外展開に追い風になると感じている。


「東宝さんがゴジラをIP化して世界に展開し、『ゴジラ-1.0』が米アカデミー賞(視覚効果賞)を獲りましたよね。ああいう例を見ると、『鬼平』にもすごく可能性を感じます。私は“今の非常識は10年後の常識”という言葉が好きなのですが、今は米アカデミー賞と縁がないと思われていても、10年後にはノミネートされることを目指しています」

●使命感を持って時代劇制作…スタッフ構造に変化も
幸四郎主演シリーズの第1弾となったテレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』(24年1月放送)は、時代劇専門チャンネル27年の歴史の中で過去最大級の加入数と視聴率を獲得。それでも、制作費を短期的に回収するのは難しいというが、「時代劇は制作費をかけてしっかり作れば、10年、20年、30年と古くならずに資産として残るので、費用対効果だけに縛られず、年数本のペースを守って作り続けると決めました」と決意を明かす。

『鬼平犯科帳』以外にも、北大路欣也主演・藤沢周平原作の『三屋清左衛門残日録』シリーズなど、オリジナルの時代劇を作り続ける日本映画放送。この取り組みは、時代劇という文化を守るという面でも、大きな役割を担っている。

「カツラ、衣装、小道具、スタジオセットに至るまで、一度、作り手が途絶えたら、もう作れなくなってしまうので、技術もノウハウも継承していかなければなりません。こうして時代劇専門チャンネルを運営させていただいているのですから、この継承は松竹さんや東映さんとともに、我々も使命感を持ってやっています」

作品を届けることは、次世代の時代劇人材を生み出すことにもつながる。

「先日、時代劇について講演をする機会があったのですが、『鬼平』好きの23歳の方がいらっしゃって“自分は将来、時代劇を作るディレクターになりたいんです”と言ってくれたんです。弊社も98年に開局しましたから、生まれた時から時代劇専門チャンネルを見ていた世代が時代劇の仕事に携わりたくて入社してくるようになりました」

2010年にオリジナル時代劇第1弾を作った頃、松竹京都撮影所のスタッフの平均年齢は70代で男性が多かったが、「今は若い人とベテランの方のバランスが取れ、女性も増えています。我々が作ることで若手スタッフにチャンスが回ってくるということもあるので、作り続けてきて良かったなと思いますね」と、構造に変化が生まれているそうだ。

○“理想”から入って“利益”を生むような作品に

多くのクリエイターを輩出した日本大学芸術学部を卒業し、「番組作りがしたい」とスターチャンネル(東北新社)に入った経緯がある宮川氏。
時代劇専門チャンネルと日本映画専門チャンネルでは、「オリジナル作品を作るのが積年の夢でした」という。

その夢をかなえ、ターニングポイントとなった作品は、松平健柄本明らが出演した『鬼平外伝 正月四日の客』(13年、時代劇専門チャンネル)。「私は2番手のプロデューサーだったのですが、監督やスタッフと一致団結して作り上げた実感がありました。そこから、プロデューサーの自覚が芽生えたような気がします」と振り返る。

「作品を作っていると、毎回“作品はやっぱり見るものだなあ”と思って、作った後はもう最後にしようと思うのですが、また作ってしまうんです。依存性があるのかもしれないですね(笑)」という根っからのプロデューサー気質だが、今年6月に日本映画放送の社長に就任。

「会社としてきちんと利益が残せる目鼻が付けば、もっと作っていきたいですね」と現場での仕事に意欲を語る一方で、「若いスタッフが優秀で、どんどんやってくれているので、私がやらなくても大丈夫なんです」とも語る。

そんな彼らに託す一大プロジェクトが、“ネオオリジナル時代劇”の制作だ。「これまでの『鬼平犯科帳』や『三屋清左衛門残日録』をはじめとする池波正太郎先生や藤沢周平先生の原作作品は、時代劇専門チャンネルのお客様に向けて作ってきましたが、“ネオオリジナル時代劇”は、IP戦略に、より軸足を置いていくものになります」と方針を明かす。

来年から企画開発に着手し、開局30周年に当たる2028年から29年にかけて制作、30年の放送を目指すこのプロジェクト。「『刀剣乱舞』『国宝』『鬼滅の刃』のヒットのように、そういう鉱脈は絶対にあるはずなんです。まずは“理想”から入って、きちんと“利益”を生むような作品に向けて、盛大に企画会議をやろうと思います。
若手スタッフがどんなものを作り上げるのか、楽しみにしています」と、期待を膨らませている。

●宮川朋之1967年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部卒業。98年「日本映画専門チャンネル」「時代劇専門チャンネル」の開局から編成、企画を担当。時代劇専門チャンネルのオリジナル時代劇、35作品以上の企画、プロデューサーを務める。主な劇場映画として『最後の忠臣蔵』(杉田成道監督)、『LIAR GAME The Final Stage』(松山博昭監督)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(岩井俊二監督)、『Ribbon』(のん監督)、『仕掛人・藤枝梅安(一)(二)』(河毛俊作監督)、同作品で23年、第42回藤本賞新人賞を受賞。松本幸四郎主演『鬼平犯科帳』シリーズ(山下智彦監督)、『おいハンサム!!』(山口雅俊監督)連続シリーズ&劇場版のエグゼクティブ・プロデューサー。25年「伊丹十三4K映画祭」、アクション時代劇『SHOGUN'S NINJA』(坂本浩一監督)を企画。22年常務執行役員、25年6月から現職。
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