高校時代に主演映画『がんばっていきまっしょい』(98)で俳優デビューを飾った田中麗奈。そこから25年を超えるキャリアを積んだ今も、意志を感じさせる瞳はそのままに、さまざまなジャンルを駆ける柔軟さをプラスしながら、第一線で活躍し続けている。


最新作は、コメディに挑んだ主演映画『黄金泥棒』(公開中)。2023年公開の『福田村事件』(井浦新とのW主演)以来の主演を務めた田中に、「役者の岐路」をたずねると、伝わってきたのは、5歳の頃から変わらぬ“演じること”への思いの強さだった。
○5歳から女優を夢見て……悩んでいた時期に出会った運命の作品

――小さなころから「女優さんになりたい」と思われていたそうですね。

5歳のときから女優さんになりたいと思っていて、小学生のときには将来は東京に住むと決めていました。なので“高校生になるころには、東京の高校に通っているだろうな”と、思い描いていました(笑)。

――高校生のときにスタートしたCMの初代「なっちゃん」として人気者になり、一気に広く知られることになりました。

女優としてやっていくことはイメージしていましたが、CMでみなさんに知っていただくというのは想像もつかなかったことで、最初はとても驚きました。ただ、今にして思うと、「なっちゃん」と呼んでいただくことは、映画やドラマで演じたキャラクターとして呼んでいただくことと同じですし、それって、すごいことだなぁと思っています。

今年2月に『あさイチ』(NHK)に出演した際にも、メッセージに「なっちゃん」と書いてくださっている方がとても多くて。自分の子どもを「なっちゃん」と呼べる名前を名付けたという方のメッセージも多くて、嬉しかったです。

――お仕事としては「なっちゃん」よりも映画『がんばっていきまっしょい』の撮影が先だったそうですね。

もう役者になれないかもと悩んでいた時期に舞い降りてきたのが、『がんばっていきまっしょい』のオーディションでした。
地元の福岡・久留米で“これが普通の自分の人生で、これが自分なのかな”と考えていたときにきた話だったんです。自分の運命の作品というか、運命の出会いだったと思っています。映画が自分を見つけてくれた、救ってくれたという気持ちです。“見つけてくれてありがとう”と。

――デビュー作にして、賞をたくさん受賞されました。

九州でコマーシャルを2年ほどやらせていただきましたが、全国のお仕事となると本当にゼロで、未経験者でした。周りの女の子たちはどこかでお芝居をやっていたり、プロとして活動していたりしているなかに、自分だけが入っていく感覚がありました。その差をすごく感じましたし、悔しくもあった。毎日、誰かに言われたことをノートに書いて、明日はこうやってみようと自分で書きながら乗り越えていく感じでした。

賞の重みを感じられるだけの経験も知識もまだなかったのですが、磯村一路監督がとても優しくて、今もお付き合いはあるのですけれど、当時から、娘のように見てくださったのを覚えています。お芝居だけではなく、カメラの前に立つ前の姿や、日常の過ごし方、現場での立ち振る舞い、そういったいろんなことを見られている仕事なのだと感じました。
○『福田村事件』『いちばんすきな花』多岐にわたる役とジャンルを重ねて

――その後も多くの作品に出演し、キャリアを積み上げていきました。
特にターニングポイントになった作品を挙げるなら?

『福田村事件』はいろんな方に驚かれましたし、自分の中でも大きな作品になりました。クラウドファンディングで一般の方々から応援をいただいてつくるという経験をしたのも初めてで、そのお金で映画を制作していくという重みを感じ、本当に命がけでやらないといけないと思いました。

――驚かれるとわかったうえで引き受けた、という覚悟もあったのでしょうか。

歴史の中で蓋をされていた部分を開けるというか(関東大震災の混乱の中で発生した実際の事件がベース)、事実をもとに描かれていますから、最初にいただいた脚本はかなり刺激的で、メッセージも今より強いものでした。“世に出たときどういうことになるんだろう”と、そのときは少し思ったことはありましたけど、でもどんどんエンタメとしての映画『福田村事件』ができてきていたので、そこへの反響に関しては何も考えなかったです。ただ、あの作品以降、実際にそれまでとは違うジャンルでのお仕事につながっていきましたし、“田中麗奈”の中で何か変わった部分があったのかなとは思います。

――特にフジテレビ系ドラマ『いちばんすきな花』(23)で演じた美鳥は、登場人物それぞれから見える人物像が違うという役でしたが、まさに多岐にわたる役とジャンルを重ねてきたからこその説得力がありました。新たに公開の主演映画『黄金泥棒』はクライムコメディです。専業主婦の美香子が、百貨店で“金(きん)のおりん”を盗み、さらに秀吉の金茶碗(きんちゃわん)を盗み出そうと計画していきます。主演として立つことで、改めて抱いた責任感はありましたか?

撮影中はお芝居に集中しながら、現場のスタッフさんや役者さんが気持ちよく過ごせているかなということに意識を向けていました。終わって宣伝活動をしていると、どうしたらお客さんに映画館に足を運んでもらえるかなとか、本当に来ないと困るなとか(苦笑)。そうしたことも考えるという部分で、主演としての大きな任務というか、責任を改めて感じています。

○『黄金泥棒』で演じた“特別になりたかった”女性

――美香子は「特別な人になりたかった」女性です。自分で望んでいたならいいのですが、彼女の場合は、持っていた“野心”を、家庭に入って抑えつけていました。“金(きん)を盗む”というミッションを遂行していく姿を見ると、もともと仕事ができる人なのだろうと感じました。

何かの任務を達成することに対して、ポテンシャルがすごくある人なんですよね。小さいころの美香子はキャリアウーマンに憧れているような人だった。だけど真面目さも手伝って、周りから「普通が一番だよ」と言われ続けて、どんどん枠にはまっていって……自分の情熱みたいなものをちょっと失っている状態というか。知らず知らずのうちに誰かの付属品のように生きていた。精神的にも身体的にもバランスがよくなくて。そんな状態から事件を起こしていくんです。

――気持ちの面で共鳴するところはありましたか?

やりたいことを抑えていた美香子の苦しい気持ちはすごくわかりました。私も「お芝居」に関する“野心”はすごくある方だったと思いますし、今も最初に女優になりたいと思った5歳のときから変わってないんじゃないかと思います。私はお芝居をしていないと生きていけない人間なので。


○40代からアクティングクラスへ 参加したことで独学が確信へ

――40代に入ってからアクティングクラスに通い始めたそうですね。そこにも田中さんの俳優としての姿勢を感じます。

自分なりにワークショップを受けたり、お芝居の本を読んだりはしていましたが、芸能の学校を出てからお芝居を始めたわけではなく、ずっと現場から学んできた形でした。やっぱりコーチのもとで学びたいという気持ちがあったんです。

なので、40代になって、改めて自分の中の基礎みたいなものをしっかり身につけたいと決めました。

――実際に通ってみて、どんな刺激を受けていますか?

事前にいただいた脚本のシーンをやってみて、アドバイスをいただくこともあれば、その日に脚本をいただいてやることもある。テーマを決めて、即興で話をつなげていくようなレッスンもあります。仕事でシリアスな役をずっとやっているときには、コメディの題材をお願いしたりして、めちゃめちゃテンションの高い役をやらせてもらったり。そうしたことが新鮮だし、本番ではないので、いろんなものを試せるんです。

そのなかで、独学でやってきたことが確信に変わっていく感じがあります。本で読んでいたことが体感できて、手段を何個か持てるというのはすごく強いです。あと、恥をかいたり、指摘される時間を作ったりすることがすごくいい経験だと感じています。


――「恥をかく」ですか。

現場だと、バタバタしてとにかく撮っていくだけという時が、どうしてもあります。それが、じっくりお芝居の時間を取って、指摘されたり、恥をかいたりして、いろいろ試せる時間がある。後輩に聞かれることもあったりするので、こういう練習をしたよと伝えられるのも良かったなと思います。

――最後に、田中さんはこれから先をどう見据えていますか?

50代、60代でどうなっていくかなって。海外作品にもいつか出てみたいし、合作ものにも出てみたい。主婦の役でも、殺し屋の主婦とかもいいですよね(笑)。アクションもやってみたい……役との出会い、監督や制作チームとの出会いで自分の人生が作られていくと思っているので、そこを大事にしながら一個一個、真剣に向き合っていった先に、“自分は何者になるのか”。私自身、本当に楽しみです。

■田中麗奈
1980年5月22日、福岡県久留米市生まれ。5歳のころから女優を志し、高校在学中に放送されたサントリー「なっちゃん」のCMで注目を集める。1998年、映画『がんばっていきまっしょい』で映画初主演を果たし、第22回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ多くの賞に輝く。
『福田村事件』(23)で新たな境地を開き、以降活躍の幅をさらに広げる。今年出演する作品として、主演映画『黄金泥棒』が2026年4月3日公開。4月28日よりNHKドラマ『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』(毎週火曜22:00~)がスタートする。
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