「被災時に本当に必要なもの」や「自宅避難に欠かせないもの」は、被災経験がない人にはなかなか想像しにくいですよね。今回お話を伺ったのは、2011年に東日本大震災で被災された後、防災士の資格も取得されている人気イラストレーターのアベナオミさん。

おうち防災をつづけるコツについて教えていただきました!


■アベナオミさんプロフィール

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1985年生まれ。宮城県出身、在住のイラストレーター。日本デザイナー芸術学院仙台校を卒業後、地元情報誌のデザイナーを経てイラストレーターに。コミックエッセイを中心に活動中。現在は3児の母。長男が1歳のときに東日本大震災を経験し、防災に関するイラストとコミックがライフワークの一つ。2016年12月には防災士の資格を取得。


■ アベナオミさん公式ブログ

執筆書籍被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40
東日本大震災を被災したママ・イラストレーターが3・11から続けている「1日1防災」
暮らしの防災力を高めよう!東日本大震災を経験したイラストレーター、アベナオミさんの「つづける防災」
被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40 東日本大震災を被災したママ・イラストレーターが3・11から続けている「1日1防災」

宮城での被災経験をふまえた「熊本応援ツイート」が話題となったイラストレーターによる、防災&避難生活の心得集。体験者ならではのリアルなアドバイスを、コミックを交えてわかりやすく紹介。必ずやって来る「その日」に備える、すべての家族を救う一冊。

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※本記事中では、下記の書籍からイラストを使用させていただいています。
「日めくり 被災ママが教える後悔しないための1日1防災」(PHP研究所/安全スペースのイラスト、非常用トイレのイラスト)
「被災ママに学ぶちいさな防災アイディア40」(学研プラス/上記以外のイラスト)



被災した日、「しておけばよかった!」と思ったこと

——アベナオミさんの著書「被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40」では、東日本大震災でのリアルな被災経験についても語られています。被災当時、「事前にこれをしておくべきだった!」と実感されたことはありますか?

当日のことで言えば、「車のガソリンを満タンにしておけばよかった!」ということですね。ガソリンがもっとあれば、被災した後も県をまたいで買い出しに出かけたり、温泉地に行ってお風呂に入ったりできたのに、と思いました。

非常時の移動手段を確保するという意味で、車のガソリン残量をチェックする習慣は大事だと思います。

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もうひとつは「生活用水」の確保。震災当日はまだ水道から水が出たので、「出るんだ!」と思って貯めなかったんですよ。でもその後すぐに断水して、キレイな水を確保することが難しくなりました。飲料水は避難所で配られたんですが、生活用水がないからトイレも流せないし、食器も洗えない。水が出るうちに貯めておくべきだった、と反省しました。



そして、「情報を得る手段」を持っておくこと。2011年当時はまだスマホもそんなに普及していなかったので、ラジオが唯一の情報源でした。でも、避難所の名簿の読み上げが多かったこともあり、震災直後は地震の規模や他の地域の状況もほとんど分からなかったんです。知らないうちに危険な行動に出てしまうこともあるので、正しい情報を得ることはとても重要です。



キッチンは少数精鋭、リビングは「安全スペース」に

——RoomClipユーザーさんの中には「可能であれば、被災時には在宅避難したい」と考える方も多いと思います。アベさんご自身のおうちの中は、被災する前と後でどんなふうに変わりましたか?

まず玄関については、ガラス製の照明器具をやめました。地震が起きたとき私は外出していたんですが、家に戻ったら照明が落ちて割れていて、玄関はガラスの破片だらけでした。

靴やサンダルにもガラスが刺さっているような状態で、そこを片付けないと家の中に入れないんです。同じ理由で、ご近所さんからは「玄関に姿見(鏡)を置かなくなった」という声をよく聞きました。

次にキッチン。とにかく「少数精鋭」を心がけています。出ているものをとにかく減らすことと、背の高い食器棚は重心を意識して倒れないようにすること。わが家では、食器棚の一番下にペットボトルの水をたくさん入れています。
食器も割れにくい素材のものを選ぶようになりました。電子レンジなどのキッチン家電は棚の上をすべって飛んでくることがあるので、耐震ジェルマットの上に置いています。

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そして、リビングには「安全スペース」をつくりました。真上に照明がなくて、まわりに落ちてくるものや倒れてくるもの、割れるものがない場所です。地震が起きると、小さいお子さんはびっくりしてお母さんを探してしまったりすると思うんですが、例えば「揺れたときはこのソファの上に集まるんだよ」と分かりやすく伝えておくと良いですよ。

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ミニマリストに学ぶ、「本当に必要なもの」を考える暮らしかた

——震災からちょうど10年後の2021年に、ブログで「震災から10年。更にめっちゃ片付けた話」を連載されていました。

アベさんの防災に対する考え方は、どんなふうに変わったのでしょうか。

とあるイベントでミニマリストの方と出会ったのがきっかけで、「モノが少なければ、家でケガすることはない」、つまり安全な場所として確保できるんだ、ということに気づいたんです。生前整理という目的も兼ねて、集めまくった防災アイテムもかなり整理しました。本当に必要なものは何か考えて、厳選したんです。

防災というと「非常食の備蓄」を考える方も多いと思うんですが、一番食料が手に入りにくくなるのは、災害翌日から約1週間。物流が復活するまでの期間は、自宅にあるレトルト食品やお米、野菜、加工品などを食べてしのぐことも可能です。普段自炊をまったくしない人には非常食の備蓄をオススメしていますが、いつも料理をしているおうちなら、カセットコンロと水と簡易トイレ、この3つがあればあとは何とかなります。

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オススメは、いつも使っている日用品や食べ慣れた食品をちょっと多めにキープしておくこと。「1つ開封したら1つ買い足す」「未開封のものを常にストックしておく」という習慣ができていればバッチリです。災害時だけでなく、急に体調を崩したときやお買い物に行けないときにも役立ちますよ。



おうちでできる防災を、無理なく「つづける」こと

——アベさんはご自身の著書やSNSで「1日1防災」をテーマにいろんなアイデアやアイテムを紹介されています。その中でも反響が大きかったものは?

ピーラーやスライサー、キッチンバサミを調理に使うアイデアは、「こんな方法があったんだ!」というコメントをたくさんいただきました。包丁やまな板などの調理器具は、洗うときに水をたくさん使うんですよね。貴重な水をできるだけ使わず、清潔さを保つために考えた調理法です。

暮らしの防災力を高めよう!東日本大震災を経験したイラストレーター、アベナオミさんの「つづける防災」
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意外なアイテムとしては、季節もののイルミネーションライト。何年も使っていないような非常用の懐中電灯は「いつのまにか電池が切れていた」ということも多いですよね。クリスマスやハロウィンのイルミネーションライトなら年1回は確実に出番があるので、そのときにちゃんと使えるか点検できます。

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こんなふうに、家にあるものでもアイデア次第で防災アイテムになるんです。逆に、使い慣れていないものは要注意。災害時に手回し発電機を初めて使ったらすぐに壊れてしまったとか、電気の代わりにキャンドルをつけたらお子さんが触って火傷した……なんてことも。ただ用意しておくだけでなく、使い方に慣れておくことも大切です。



経験者だからこそ伝えたい!これだけは備えておいてほしいもの

——大きな災害からしばらく経つと、防災は「大事だけど面倒くさいこと」になってしまいがちですが、アベさんのお話を伺っていると「日常の中で災害に備える」というモードに切り替えられそうです!ちなみに、どんなご家庭でも「これだけは絶対に備えておくべき!」というものはありますか?

なんといっても「トイレ」です!食べ物が足りなくても、人間はある程度の空腹なら耐えられます。でも、トイレをずっとガマンすることはできないんです。避難所にも仮設トイレが設置されますが、人が並んでいるからゆっくり用が足せなかったり、夜は行きづらかったりするものです。快適な自宅避難のためにも、防災用の簡易トイレはぜひ用意しておきましょう。

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簡易トイレは、便器に取り付ける袋と凝固剤がセットになったもの。50個入りや100個入りのものが1箱あるだけで、かなり安心できますよ。被災後は水が使えないだけでなく、自治体のゴミ収集もストップしてしまうので、防臭・消臭効果のあるものがオススメです。

——最後に、RoomClipユーザーさんにメッセージをお願いします!

地震や台風など、災害そのものに対しての備えも大事ですが、想像しておいてほしいのは災害の後のこと。災害が起きた次の日から、水もない、ガスも電気も使えない、ものすごく不便な日常が始まります。そんな日々のために何を用意しておくべきか、具体的に考えてみることが防災の第一歩になると思います。



RoomClipユーザーさんの防災アイデアをチェック!

RoomClipでは、毎年防災をテーマにした投稿イベントを開催しています。集まったたくさんの投稿の中から、ユーザーさんのアイデアや使っているアイテムをピックアップ!アベナオミさんからのコメントもいただきました♪


■クローゼットに買い置きがあると安心!

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撮影:Rさん


【わが家の防災】
2階ウォークインクローゼットの上段にトイレットペーパー(3倍巻き3箱)、ポータブルトイレ(200回分)、マスク、ティッシュペーパー(ふるさと納税返礼品)を収納しています。

収納場所を分散させるといいと聞いたので一階にもポータブルトイレやティッシュペーパーなどを多めに置いています。R
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アベナオミさん

「たっぷりの日用品とトイレ!安心感がありますね♪素晴らしいです♪重たいポータブルトイレは落下すると危ないので、滑り止めシートなどを噛ませるとさらに耐震性がアップしますよ(^^)」


■多機能がうれしいソーラーLEDランタン

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撮影:mi-saさん


防災も兼ねて、
ソーラーLEDランタン
常時充電中です。
懐中電灯、バッテリーにもなります。mi-sa
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アベナオミさん

「常時充電中!!バッチリです!このままこの習慣続けていっていただきたいですね!ちなみに、ソーラーランタンは悪天候に弱いので(台風災害や大雨の日)、サブで乾電池式や手回し充電式のランタンがあると、もっともっと安心です。」


■玄関のコンテナでローリングストック

暮らしの防災力を高めよう!東日本大震災を経験したイラストレーター、アベナオミさんの「つづける防災」
撮影:urchinさん


玄関にあるコンテナ

ローリングストックしている水
非常食のクッキー
カセットコンロ
ガス
クッカーセット

水はこれ以外に2ケースは常にストックしてます。urchin
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アベナオミさん

「水のストックが十分あってとっても安心です!家族みんながわかりやすい場所にあって素晴らしい♪プラス非常用トイレも備蓄するとさらに防災力がアップするので、ぜひ備えてみてください♪」


■カセットコンロを普段使いに

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撮影:ka10935さん


昔からカセットコンロは持っていたのですが、全く使わず物置に置いていたらガスボンベの上部が錆びてしまった事があり…ガスもローリングストックになるようにカセットコンロとカセットストーブを日常使いしています。

カセットコンロは耐用年数が10年なので去年買い替えました。
ガスボンベを使う生活で少しですが防災対策になっていればと思います。ka10935
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アベナオミさん

「まさにローリングストックの鑑!普段使いながら、買い足していく今のスタイルぜひ続けていってください。土鍋でご飯が炊けるようになるともう怖いものはありません。季節ごとに炊き込み土鍋ご飯などぜひ作ってみてくださいね(^^)」



日々の暮らしの中で、少しずつ防災力をアップしよう!

RoomClip内でも、防災に関する知識やアイデアがどんどん蓄積されています。それぞれのライフスタイルや家族構成に合った防災アイデアを取り入れて、災害に強い暮らしをつくっていきたいですね。

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執筆:RoomClip mag 編集部