2017年の夏からバルセロナの監督を務めていたエルネスト・バルベルデが、日本時間1月14日に解任となった。後任として選ばれた監督は、2017年5月から2019年5月までレアル・ベティスで指揮を取っていたキケ・セティエンです。
このバルサの選択が、どれほど珍しいチョイスだったかということ、そしてなぜセティエンがブラウグラナ(バルセロナの愛称)にとって悪くない選択かということを分析してみたいと思います。

バルサにとってシーズン途中の監督変更は珍しい
まず考えなければならないのは、バルベルデ監督の解任のタイミングだと思います。バルサがシーズン途中に監督を変えるのは滅多にないことです。最後にこのようなシチュエーションが起こったのは、2003年ルイ・ファン・ハール監督解任の時。これまでバルサは、厳しい状況の中でも簡単に監督を変えたりしてこなかった。
それだけでなく、バルベルデがバルサの指揮を取っていた最後の2年は結果的にも悪くなかった。リーグ優勝2回、コパ・デル・レイ優勝1回、そしてスペイン・スーパー・カップ優勝も1回した上、今シーズンのリーグ優勝の可能性も高かった。
それではなぜバルサは監督交代という選択をしたのだろう…。
確かに国際大会の結果があまり良くなかったことはあるが、バルベルデが解任になったのは勝ち負けだけに関する問題ではないという印象が強いです。
一番の理由は、バルベルデが現代サッカーに合わせるために昔からのバルサ・スタイルを失いそうになっていたことではないでしょうか。ポゼッションをメインにして、試合を支配する王者バルサのサッカーは、ただのスタイルではない。世界中に認められているブランドでもある。簡単に変更してはいけないものです。
つまり今回のセティエンへの監督交代は、ジョゼップ・グアルディオラ監督時代に一番力を発揮したそのバルサ・スタイルを失わないためだったと思いませんか?セティエンはビッグクラブの指導経験こそないが、まさにバルサが求めているサッカーをする監督です。

セティエンのサッカースタイルはバルサの失ったスタイル
セティエンがレアル・ベティスの監督時に見せたサッカーは、90年代にバルサのヨハン・クライフ監督が描き、21世紀に入ってからファン・ハール、グアルディオラ、ルイス・エンリケといった各監督が復活させたサッカースタイルです。ディフェンスのビルドアップから攻撃を開始し、ゲームの支配に向かったスタイル(もちろんそれぞれの監督には独特なアプローチがあったが、コンセプトはそんなに離れていなかったと思う)。
セティエンは、2018年にスペイン新聞『エル・パイス』でこのように語っている。「サッカーが好きな人はボールを追って走りたくない。ボールをもらったり触ったりしたいからサッカーをやる」
彼が高い位置でプレスをかけてボールを奪いに行く現代のサッカーを求めてないことは、この言葉から伝わる。さらには、以下のように言及している。
「自分の仕事で一番難しいことは、私のスタイルにおいて自信がない選手を納得させることです。特にセンターバックとキーパーはボールを回すことを怖がっていることが多い。しかし、私はキーパーも含めてDFラインにボールを回し続けて欲しい。そして前線の選手に正しい動きをさせるように指示を出すのが私の役目です」
つまりセティエンは、激しいプレスを受けるリスクがあっても、ディフェンスラインがボールを回して相手チームを動かすことを望んでいる。相手チームを動かすことでスペースが空き、チャンスが生まれる。
彼がレアル・ベティスの監督だった2018/2019シーズン、チームのボール支配率は62.5%と、非常に高い数字だった。

バルサのチョイスに問題があるのであれば、それはタイミング
しかし、どんなにセティエンのスタイルがバルサにぴったりでも、忘れてはいけないことがある。リオネル・メッシ、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケツのようなスーパースターが揃っているビッグクラブの指導は初めてであることだ。
セティエンが、いかに自分の考えを自分より優勝経験のある選手達に自信をもって伝えられるか…。それが成功に繋がるか否かの大きなポイントになると思います。
さらに、彼にはゆっくりとチーム作りに挑んでいる時間がない。いきなりチームに入って、すぐに結果を出さなくてはいけない状況です。それは大きなプレッシャーになるに違いない。
そう考えると、なぜバルセロナは監督交代をシーズン終了まで待たなかったのだろうか…。タイミングを少し誤ったと思いませんか?次の6月まで待てれば、リーグ戦がまだ始まっていない穏やかな時期に、セティエンと選手がお互いを理解し、少しずつバルサの新しいサッカーを作る余裕があったと思う…。
何れにしても監督のチョイスは面白いと思います。今年結果が出なくても、近いうちに再びサッカー界を驚かせたあのバルサが見られることを考えると、ワクワクします。