1993年に10クラブで開始した日本プロサッカーリーグJリーグ」。開始から28年が経った2021シーズン現在は、57クラブ(明治安田生命J1、J2、J3リーグ)が参入している。

その57のJクラブのうち、イタリア語由来の名を持つクラブが11もあることはご存知だろうか。ここではイタリア語が用いられた11クラブの名について、公式サイトによる由来説明と共に詳しく見てみよう。

果たしてイタリア語は正しい解釈で用いられているのだろうか。正式にはどんなニュアンスが含まれているのだろうか。筆者であるウッケッドゥ ・ダビデは、当メディア主催のイタリア語オンラインレッスンで講師も務めており、以下ネイティブイタリア人の見解として紹介する。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

川崎フロンターレ

“フロンターレとは、イタリア語で「正面」「前飾り」の意味。これは常に最前線で挑戦し続けるフロンティアスピリッツ、正面から正々堂々と戦う姿勢を表現したものです。”

川崎フロンターレ公式サイトより

イタリア語「フロンターレ」の深意

イタリアで「フロンターレ(Frontale)」という単語は名詞としても形容詞としても使われている。名詞の場合、クラブの公式説明通り「正面、前飾り」などの意味を持つが、イタリア人には「正面から正々堂々と戦う」というイメージには結びつかない。

ところが形容詞として使う場合、例えば名詞の「Attacco(攻撃)」に用いて「Attacco frontale」にすると「真正面から攻撃する」という意味が誕生する。つまり「川崎 frontale」と合わせると「真正面な川崎」という意味になり、公式説明にも納得がいく。

一方、この単語にはネガティブな意味もある。例えば「Fare un frontale」では「正面にぶつかる」という意味になり、2台の車が正面衝突する時に使われる表現となる。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

ガンバ大阪

“「Gamba」とはイタリア語で「脚」を意味する言葉。シンプルで強いチームを目指す、サッカーの原点である「脚」を強調した。

「ガンバ」という響きは、日本語の「頑張る」にも通じ、「チーム一丸となって勝利を目指して頑張るチーム」「どんな状況でもガンバって勝利を勝ちとるチーム」「大阪をホームタウンとし、大阪を中心とした関西ファンの声援を受けてガンバるチーム」「日本一、世界一のクラブ組織に向けてガンバるサッカークラブ」という気持ちが込められている。”

ガンバ大阪公式サイトより

イタリア語「ガンバ」の深意

イタリア語で「ガンバ(Gamba)」の意味はクラブの説明通り「脚」であり、日本語の「頑張れ」と掛けた言葉遊びがとても面白い。しかし、この単語にはクラブの良さをもっとアピールできるニュアンスが存在する。

例えば「Essere in gamba」という言い方がある。「Essere」の意味は「~です」だが、「gamba」と合わせると「才能がある、上手である」という意味になるのだ。

また「Gamba」の複数形「Gambe」を用いた「Tagliare le gambe」という言い方もある。「Tagliare」は「切る」という意味だが、「脚」の複数形「gambe」と組み合わせて「(敵などを)圧倒する、困らせる」という力強いニュアンスとなる。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

サンフレッチェ広島

“サンフレッチェは、日本語の「三」とイタリア語の「フレッチェ(矢)」をあわせて作った造語で「三本の矢」を意味しています。このチーム名は広島に縁の深い戦国武将毛利元就の「三本の矢」の故事から名づけられたもので、広島の県民市民・行政・財界の三位一体の力によって支えられていることを示し、またチームスポーツの基幹をなす「技術・戦術・体力」の三要素、そして個々の選手に必要とされる「心・技・体」の三原則にもつながっています。”

サンフレッチェ広島公式サイトより

イタリア語「フレッチェ」の深意

イタリア語「フレッチェ(Frecce)」について説明しよう。この言葉は複数形で、単数形は「Freccia」となる。クラブの説明通り「矢」という意味はもちろんだが、それ以外に「とても早い人(もの)」を表す単語でもある。

現代のイタリア語ではあまり使われないが「Lanciare una freccia(矢を放つ)」という言い方がある。「一瞬の出来事で敵などを傷つける」という意味を持ち、矢に刺された瞬間に感じる痛みから誕生したニュアンスである。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

徳島ヴォルティス

“イタリア語で渦を意味する「Vortice」から生まれた造語。豪快な鳴門の渦潮のように、パワー・スピード・ 結束力を兼ね備え、観客を興奮の渦に巻き込むチームを目指しています。”

徳島ヴォルティス公式サイトより

イタリア語「ヴォルティス」の深意

「ヴォルティス(Vortice)(渦)」はとても不思議な単語だ。「力強さ」や「破壊力」などたくましさを表しながら、「感情」に関する言葉と組み合わせると、全く違う意味を持つ。

例えば「Vortice di amore」という「amore(愛情)」と合わせた表現では「逆らえないほどの愛情」という意味になる。同クラブのスローガンにもぴったりなフレーズと言えよう。

ちなみに「Vortice」のイタリア語の正しい発音は「ヴォルティス」ではなく「ヴォルティチェ」である。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

ギラヴァンツ北九州

“イタリア語で「ひまわり」という意味の「Girasole」と「前進する」という意味の「Avanzare」を組み合わせた造語。ひまわりは、ホームタウンである北九州市の市花で、太陽に向かって力強く伸びていく元気を象徴するものです。「Girasole」は、本来「ジラソル」と発音しますが、ここでは「ジラ」部分を「ギラ」と読み、太陽の輝きと躍動を想起させる強い語感としました。「北九州から、日本、アジア、そして世界へと飛躍すべく、常に成長・前進を続ける光り輝くチームであり続けたい」「サポーターや地域が輝き、元気になる、その象徴でありたい」という願いが込められています。”

ギラヴァンツ北九州公式サイトより

イタリア語「ジラソル」と「アヴァンツァーレ」の深意

ギラヴァンツは、イタリア語「ジラソル(Girasole)」と「アヴァンツァーレ(Avanzare)」を組み合わせた造語ということで、2つの単語について見てみよう。

Girasole」は「Girare(向く)」と「Sole(太陽)」が組み合わさって「太陽の方に向く」という言葉で「ひまわり」を意味する。日本語「向日葵」と同様の成り立ちだ。ひまわりはイタリアで、感謝を伝えたい人や尊敬する人に渡す花だ。

Avanzare」は確かに「前進する」という意味を持つが、ただ前を向いて進むだけではない。

「一生懸命目標に向かって進む」という強い気持ちが含まれ、日本語の「邁進」に近い意味である。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

モンテディオ山形

“イタリア語の「Monte(山)」と、「Dio(神)」を組み合わせた造語で、「山の神」を意味しており、拠点とする山形県の霊峰出羽。三山(月山、湯殿山、羽黒山)と、頂点を目指すチームを表している。”

モンテディオ山形公式サイトより

イタリア語「モンテ」と「ディオ」の深意

「モンテ(Monte)」と「ディオ(Dio)」の意味は、クラブの説明通り「山」と「神」である。力強いクラブ名ではあるが、イタリア語で「山の神」という意味にしたい場合は2つの単語の順序は逆であり、さらに間に「del(の)」を入れる必要がある。造語でなく正しいイタリア語にすると「ディオデルモンテ山形」だ。

また、山形を応援するサポーターが使えそうな「Dio(神)」を含めたフレーズがある。それは「ジョカーレ・ダ・ディオ(Giocare da Dio)」だ。「Giocare」は「プレーする、遊ぶ」、「da Dio」は「神のように」を意味し、合わせると「感動するほどのプレーをする」となる。チームのスローガンにもなりそうな力強いメッセージだ。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

ファジアーノ岡山

“ファジアーノ(Fagiano)とはイタリア語で「キジ(雉)」の意味。キジは岡山県を代表する鳥として、県鳥に指定されている鳥。また、郷土に古くから伝わる桃太郎伝説でキジが鬼退治に活躍したことにちなみ命名。”

ファジアーノ岡山公式サイトより

イタリア語「ファジアーノ」の深意

イタリアで「ファジアーノ(Fagiano)(キジ)」は、なかなか手に入らない高級肉で、富裕層家庭や高級レストランでしか食べないイメージが強い。「ファジアーノ岡山」と聞けば「クオリティのあるチーム」を想像するイタリア人が多いだろう。

また、自転車競技には「Fare il fagiano(キジをする)」という言い方があり、「相手が気づかないよう少しずつペースを上げる」という意味で、選手の賢さを表す。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

カターレ富山

“愛するチームを共に“語れ”、“歌え”(イタリア語の「カンターレ」[Cantare])、そして“勝て”(富山の方言である「勝たれ」) という意味を込めて名付けた。併せて、頂点を目指して、富山県民(サポーター)と肩(カタ)を組んで共に「行こう」(フランス語の「アレ」[Aller=行く])というチームの姿勢をあらわしている。”

カターレ富山公式サイトより

イタリア語「カンターレ」の深意

イタリア語「カンターレ(Cantare)」の細かい説明をしよう。「歌う」という意味もあるが、言葉の組み合わせによって他の意味も持つこともある。

例えば「Cantare(歌う)」と「Vittoria(勝利)」を合わせた「Cantare la vittoria(勝利を歌う)」という言い方。これは「勝利の後に歌を歌う」ではなく、「勝利の後に喜ぶ」という意味になる。

また「Cantare le imprese」という言い方もある。「Imprese(英雄的な行為)」を歌うという表現で「(勇者などの)英雄的な行為を多くの人に伝える」という意味になる。富山の素晴らしいプレーを多くの人に広めたいサポーターにとってもぴったりの言い方だ。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

ヴァンラーレ八戸

“イタリア語で起源を「デリヴァンテ」南の郷を「アウストラーレ」。背景は八戸の海・青、南郷の緑。”

ヴァンラーレ八戸公式サイトより

イタリア語「デリヴァンテ」と「アウストラーレ」の深意

確かに「デリヴァンテ(Derivante)」は「起源」で、「アウストラーレ(Australe)」は「南の郷」という意味を持つが、2つとも現代のイタリア語ではあまり使われていない単語だ。

Derivante」には「過去とのつながりを大事にする」というニュアンスも含まれる。少し難しいイタリア語になるが「Derivante da un giocatore(ある選手から発生)」という表現で「ほぼ全てはこの選手から始まった、この選手はレジェンドだ」という意味となる。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

カマタマーレ讃岐

“会社名のカマタマーレ(Kamatamare)は、釡玉うどんとイタリア語で海を意味する「マーレ(Mare)」を合わせた造語。讃岐は香川県の旧国名。2006年シーズンからチーム名称として使用。”

カマタマーレ讃岐公式サイトより

イタリア語「マーレ」の深意

イタリアで「マーレ(Mare)」という単語は多くの場面で使われる。意味は「海」だけではなく「数え切れないほど多い(もの、こと)」というニュアンスもある。

例えば「Un mare di tifosi」という言い方がある。「Tifosi」は「サポーター」であり、「Un mare」と合わせて「数え切れないほどのサポーター」という意味だ。

また、このニュアンスは「感情」を表す単語と合わせても使うことができる。「Un mare di amore」で「あふれだすほどの愛情」という意味になる。

Jリーグ好きなら知っておきたい!イタリア語由来のJクラブ名とその深意

ロアッソ熊本

“熊本を象徴する「阿蘇山」や「火の国熊本」から、熊本の燃える情熱を表す 赤のイタリア語「ロッソ」と、イタリア語で「アッソ」=「エース」「唯一の」を含んだ造語で、 Jリーグでもエースとなりうるナンバー1のチームを目指す決意をチーム名に込めました。”

ロアッソ熊本公式サイトより

イタリア語「ロッソ」と「アッソ」の深意

「ロッソ(Rosso)(赤)」も「アッソ(Asso)(エース)」もイタリア人がよく使う言葉である。「Rosso」には「赤」または「赤い」という意味しかないが、「Asso」には「エース、唯一の」という意味以外にも「秘密兵器、最終的に勝つための集団を持つ」というニュアンスも含まれる。

例えば「Asso nella manica」というフレーズで「裾にエースのカードを隠している」という意味になり「今負けそうであっても、最終的には勝つための絶対的なもの(力など)を持つ」という表現として使われる。

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