2021年2月27日、J1リーグ第1節。北海道コンサドーレ札幌は、9年ぶりのホーム開幕戦で横浜FCと対戦し、5-1の結果で20年ぶりとなるJ1開幕戦勝利を収めた。
2018年から指揮するミハイロ・ペトロヴィッチ監督のサッカー哲学が染み渡っている札幌。大量得点で勝利するのは不思議なことではない。しかしながら、2020シーズンと比べ、明らかにその戦い方には進化があった。
開幕戦で見せたスタイルがこれからも継続されれば、札幌が新たな優勝候補になる可能性もあるだろう。開幕戦に見るその3つの理由と、今後の戦いに対する懸念点を挙げたい。

札幌がJ1優勝候補になれる3つの理由
選手連携の改善
高い位置をキープしながら相手を責め続けるペトロヴィッチ監督の攻撃的なサッカー。見る側にはとても気持ちのいいスタイルだが、ピッチで実現するのはとても複雑だ。第一に求められるのは選手の一体感である。
昨季まではハイプレスのタイミングが札幌の課題の1つであった。試合中の各選手の感覚にずれがあり、連携プレーが上手くいかないことが少なからずあった。それによって相手のカウンターによる複数の失点が生まれていた。
一方、先日の横浜戦では連携ミスから生じたピンチの場面はほとんど見受けられず、選手全員が「前へ」という気持ちを見せながら迷いなくプレーし続けていた。今後に期待できる進化の1つだ。

ピンチ時のDFラインの冷静な対応
2020シーズン、札幌のディフェンスには失点後無意識にラインを下げる癖が見受けられた。同クラブが目指しているサッカースタイルにおいては、最もやってはいけないことである。
なぜならそのまま中盤と前線の選手が高いポジションをキープしてハイプレスを続けると、相手の攻撃に繋がりやすいバイタルエリア(MFとDFの間)が大きく開いてしまうからだ。リスクがあろうとDFラインは高い位置を保たなければならない。
横浜戦ではミスがなかったとは言えないが、試合29分に1失点した後でもGK菅野孝憲を含むDFラインは果敢に高いポジションを保ちプレーし続けた。
また、横浜がハイプレスをかけようとした場面にも注目すべきである(札幌が誘ったと言ってもおかしくない)。札幌のDFラインはそれを冷静に交わし、何度も素早いカウンターでフィニッシュまで持ち込んだ。

小柏剛の重要性
横浜戦で最も輝いたのは2得点を挙げた金子拓郎だったが、今後の札幌に安定をもたらすのは22歳の小柏剛であろう。小柏のこぼれ球に対する反応力と切り替えの速さは守備的にも攻撃的にもチームの大きな武器となる。もちろん彼の技術は同試合にも大きく貢献した。
試合開始2分、小柏が右サイドで相手のクリアに反応し体を張ったことで駒井善成の得点に繋がった。また、75分に中盤で失われたボールを取り返したことによって、相手の攻撃を受けず、77分のチャナティップ・ソングラシンの得点を演出する結果となった。
45分のアンデルソン・ロペスの得点に繋がったアシスト、エリア内からのワンタッチクロスも見事だった。この素晴らしいパフォーマンスで小柏はレギュラーの座を掴み取っていくに違いない。

今後の懸念点
横浜戦が参考にならない可能性も…
しかしながら懸念点もある。横浜との戦いは本当に札幌の成長によるものだろうか?確かに札幌は素晴らしい試合運びをしたのだが、横浜のコンディションが大きく関係した可能性もある。
この開幕戦において、横浜がどんな試合をしたいのか、どのように札幌を崩したいのかはあまり伝わって来なかった。特に前半は横浜の選手たちがハイプレスをかけるタイミングに大きく混乱したために、札幌に多くのゴールチャンスが生まれていた。
従って札幌が3月6日に控える名古屋クランパス戦は、重要な一戦となる。この開幕戦のスタイルが通用するかどうかがわかるはずだ。
次戦相手となる名古屋は、2020シーズンとほぼ同じラインアップで第1節にアビスパ福岡と対戦(2-1で勝利)し、やりたいことがはっきり伝わる安定したサッカーを見せた。札幌が流れに乗るには、その名古屋をどう倒すかで実力を証明しなければならない。
決めきれない場面の多さ
横浜戦では5-1で勝利した札幌ではあるが、前半には決めきれなかったゴールチャンスも多く見られた。
チャンスに対する決定力の不安定さは懸念点の1つと言えよう。こうしたチャンスをしっかりものにしてこそ、夢に見ているJリーグ優勝、またはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場の実現に近づけるだろう。

荒野拓馬のいない中盤
最も気になる懸念点は、左腓骨骨折及び左足首靱帯損傷の大怪我でしばらくの間ピッチを離れざるをえない荒野拓馬のいない中盤だ。
横浜戦では相手の戦い方がはっきりしていなかったこともあり同選手の不在があまり目立たなかったが、札幌がカウンターを許した場面はいくつか見られた。
札幌の切り替えは速かったが、荒野なら相手陣地にてファールでライバルを止め、チームメートに守備を整えるための時間を与えるはずだ。
ラフなプレーも多い荒野だが、苦しい場面では彼の運動量とフィジカルがとても心強いものである。