ラ・リーガ2020/2021シーズンは、2013/2014以来7年ぶりとなるアトレティコ・マドリードの優勝で幕を閉じた。

バルセロナは、リオネル・メッシの退団騒動とジョゼップ・マリア・バルトメウ会長辞任(ほぼ解任)など内部分裂での出遅れが最後まで響いた形。

レアル・マドリードもジヌディーヌ・ジダン監督の去就問題や主将セルヒオ・ラモスとの契約延長交渉などピッチ外のネガティブな問題が多い中、ジダン監督の神通力による現場だけの団結で最終節まで優勝の可能性を残したものの及ばず。“2強”は自滅したと言っても過言ではない。

2強が内輪揉めで序盤から勝点を取りこぼす中、アトレティコが快走。21試合を終了した時点では17勝3分1敗と独走態勢を続けていた。

アトレティコをラ・リーガ優勝に導いたGKオブラクのさらなる進化

「進化+原点回帰=現代化」

そんな順風満帆なアトレティコも、2月17日からのレバンテとの連戦で1分1敗と負け越して以降、9試合で3勝4分2敗と大きく勝点を取りこぼし始めた。

しかし10試合ごとで「クール」として区切って成績を比較すると(今季は昨季のUEFAチャンピオンズリーグベスト8進出クラブは第3節から日程を消化する変則日程のため「節」で区切ることができない)、この期間(第3クール)だけが著しく勝点ペースがダウンしているだけで、その後は第1・第2クールと同じペースに持ち直して最後まで走り抜けたことがわかる。

アトレティコをラ・リーガ優勝に導いたGKオブラクのさらなる進化

また、不振に陥った第3クールも10試合で8失点と失点数に関しては抑えている。守備に関しては年間通して崩れなかったことが、長いシーズンを通したリーグ王者に相応しい安定感のある戦いぶりを裏付ける。 

今季のアトレティコは従来の堅守速攻の定番である[4-4-2]のソリッドなスタイルだけでなく、左利きの多機能DFマリオ・エルモソを上手く組み込んだ変則的な[3-1-4-2]を採用。アンカーにパスワークに長けるMFコケを配置して後方からのビルドアップでポジショナルな攻撃も構築できるようになった。

コケはそれまで[4-4-2]で最も運動量が多くハードワークが求められるサイドMFでの起用が多く、2ボランチの1角で起用されても守備力の方を重用されていたが、アンカーとしてはかつて「シャビの後継者」と称された彼本来のプレースタイルが引き出されていた。

それでも苦しくなった時に立ち返る場所は従来の[4-4-2]だったのだが、進化したチームが原点回帰して舵を取り直した時、チームは現代化され、モダンにアップデートされた姿を見せていた。

攻撃力アップが優勝の要因と各メディアに称されるが、実際は「進化+原点回帰=現代化」がリーグ2位タイの67得点、リーグ最少の25失点という究極のバランスを生み出したと言える。

アトレティコをラ・リーガ優勝に導いたGKオブラクのさらなる進化

シメオネ監督限界説と当然の試行錯誤

近年のアトレティコは得点力不足と世代交代の荒波に苦しんだ。2019年の夏に当時のエースFWアントワーヌ・グリーズマンがバルセロナに引き抜かれ、DFラインで不動の存在だった重鎮3人(左サイドバックのフェリペ・ルイス、センターバックのディエゴ・ゴディン、右サイドバックのファンフラン)が一気にチームを退団。

2019/2020シーズンは若手を中心に大量補強して大幅にチームを入れ替えてリーガは3位で終えたものの、獲得した勝点は僅かに62。2011年12月に就任したディエゴ・シメオネ監督が指揮したフルシーズンでの最低勝点は76であり、断トツに低い数字だったことが分かる。

特に51得点に終わったことが攻撃力不足を象徴しており、ポゼッションの導入や攻撃型のチーム作りに着手するも、すぐに従来の堅守速攻型に戻ってしまう“シメオネの限界説”も大きく報道されていた。

しかし、シメオネ政権の第1サイクルは、すでに2015/2016のチャンピオンズリーグ(CL)決勝でレアル・マドリードに敗れた時に終わっていた。前代未聞のシメオネ監督の“契約短縮”が発表されたのもこの頃だった。

2017/2018以降の3シーズンは連続してリーガでの総得点が50点代に落ち込んだ。2017-2018はUEFAヨーロッパリーグ(EL)を制覇しているものの、むしろCLでグループステージ敗退を喫してELに回っていることにチーム力の低下を感じさせた。

ただし、「サッカーは寸足らずの毛布である」というブラジルの名手ジジの格言通り、攻撃を重視すると失点が増え、その逆もまた然りである。シメオネの試行錯誤は当然であり、ここに前述したDFラインの世代交代を伴っているがゆえ、順調に計画が進むはずもなかった。

アトレティコをラ・リーガ優勝に導いたGKオブラクのさらなる進化

世界最高GKオブラクのさらなる進化

シメオネ監督の限界説が流れる中でも安定していた選手が1人だけいた。スロベニア代表GKヤン・オブラクである。

前述のように得点数は低下したものの、シメオネ監督下のアトレティコはオブラクの安定により2012/2013シーズンに31失点を記録して以降、1度も30失点を上回ったことがないのだ。

今季はそんなオブラクのさらなる進化を見たシーズンだった。

オブラクは2014年夏にアトレティコに加入し、2年目より守護神の座を担うと、4シーズン連続の「サモラ賞(リーガ最少失点GK)」と「リーガ最優秀GK」を受賞。2015/2016に至ってはリーガ全38試合出場で18失点に抑える鉄壁ぶりで、今や「世界最高」と称されることもある彼に「進化」という表現を使うのはいかがなものか?とも思うが、彼の進化そのものが今季のアトレティコの進化である。

これまでのアトレティコは守備重視であったため、オブラクは常にゴールライン上でプレーするクラシックなタイプのGKに見えたが、彼の真骨頂は的確すぎるほどのポジショニングとゲームを読む能力にある。

もともとオブラクは足下の技術に不足はなかっただけに、現代化された今季のアトレティコではDFラインの押し上げによる守備範囲の拡大にも難なく対応。それだけでなく、ゲームを読めてポジショニングに優れる彼は後方からビルドアップ時にタイミング良くパスを受けて中央へのパスを通し、相手のハイプレスを回避するサイドへの展開などで、組織的な攻撃の構築にも関与できる現代型GKへと進化したのだ。

しかも彼の場合はモダン化しながらもリーガ最少の25失点に抑え、2年ぶり5度目の「サモラ賞」も獲得。自身初のリーガ優勝の原動力となった。

アトレティコをラ・リーガ優勝に導いたGKオブラクのさらなる進化

7年前のリーガを制覇したアトレティコの守護神は、現レアル・マドリードのベルギー代表GKテュボ・クルトワだった。まさかクルトワが同じ首都のチームに戻って来るとは思わなかっただろうが、オブラクは少し気にしていたことだろう。

バルセロナで戦力外になりながらも、チーム最多21得点で最終節でも決勝点を挙げたFWルイス・スアレスも見事な活躍ぶりだったが、オブラクこそがリーガのMVPに相応しい。

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