6月11日の開幕から夜な夜な続いてきた「UEFA EURO 2020サッカー欧州選⼿権(ユーロ2020)」も、いよいよイタリア対イングランドの決勝(日本時間7月12日)を残すのみとなった。欧州全土の11都市で開催されて来た同大会だが、準決勝に続き決勝も“サッカーの母国”イングランドの聖地ウェンブリー・スタジアムで行われる。
イングランドは、ユーロでは2008年スイス・オーストリア大会の出場権を逃し、FIFAワールドカップ(W杯)でも2014年のブラジル大会でグループステージ敗退を経験。ユーロ2016フランス大会でも初出場のアイスランドに敗れてベスト16での早期敗退を喫するなど低迷が続いていたが、2018年のロシアW杯でべスト4へと大躍進した。今大会もその流れが続き、遂に母国開催だった1966年のW杯制覇以来のビッグタイトル獲得が現実味を帯びている。
イングランドと共に他国より10年遅れで育成改革をスタートさせたイタリアの決勝進出も、同じ文脈で説明がつく。イタリアは「カテナチオ(堅守速攻の戦術)」から「カルチョ・プロポジティーボ(提案型サッカー)」へ、イングランドは「キック&ラッシュ(ロングボール戦術)」から「イングランドDNA(育成を含む改革)」へ。共にクラシックなスタイルから、技術的・戦術的に、より欧州大陸全土のトレンドに沿ったコレクティブなスタイルへの変貌を遂げた。また、それに沿った若手タレントの台頭によって世代交代が奏功しているのも両国に共通している。
フランス、スペイン、オランダをモデルにしたドイツやベルギーの育成改革の成功が、10年遅れで改革に踏み切ったイングランドとイタリアにも顕著に成果として現れて来た。これまで伝統に固執して来た両国が、スペインやドイツっぽい技術を活かしたサッカーを披露しているのが印象的だ。
特にイングランドは2017年に「FIFA U-17W杯」と「FIFA U-20W杯」の両大会を制覇していたことで、「そろそろ黄金世代のタレントがフル代表(A代表)で」と注目を集めていた。ここでは、2017年にそれぞれの育成年代の世界王者を経験したイングランドのメンバーの現状を探り、ユーロ2020での招集状況などを比較して育成年代世界大会の是非を考察してみたい。

97年生まれ逸材FW3人の序列に大きな変化
2019年のU-20W杯で日本が久保建英らの招集を見送ったように、欧州ではすでに主要国リーグで出番を得ていたりフル代表に呼ばれている20歳以下の選手は、U-20W杯へ招集されないことが多い。
イングランドも例に漏れず、2017年のU-20W杯で、当時2部ブリストル・シティで得点を量産し2017年中にフル代表デビューを果たすことになるFWタミー・アブラハムが招集外となった。彼はU-20代表チームのエースだった。エースを欠いてもFWドミニク・ソランケが準々決勝と準決勝など重要な試合で貴重なゴールを挙げ、U-20イングランド代表は優勝を果たす。ソランケ自身は大会MVPに選出された。ちなみにソランケとアブラハムは育成年代からチェルシーに所属していたチームメートでもある。
そして同大会決勝で優勝に導くゴールを挙げたのが、今季エバートンのエースとしてプレミアリーグで16得点を挙げたFWドミニク・カルバート・ルーウィンだ。ソランケ、アブラハム含めた3人は同じ1997年生まれ。2017年当時はアブラハムとソランケがカルバート・ルーウィンの上をいく序列だったが、現在ユーロ2020に選出されているのは1番下っ端だったカルバート・ルーウィンのみである。
アブラハムはチェルシーで得点を量産した時期もあったが、トップチームでは若手ゆえの調子の波もあって定位置を獲得できなかった。ソランケは同じくチェルシーで立ち位置を見い出せずに早々と移籍を決断したが、度重なる怪我の影響で結果を残せず。今季は2部に降格したボーンマスで15得点を挙げてカムバックを果たすもプレミアリーグで輝く姿はまだ想像できない。
とはいえ、彼等3人は全員がフル代表デビューを果たしている。
一方、日本ではエースFW大迫勇也が所属先のヴェルダー・ブレーメンでのブンデスリーガ年間無得点に終わっても、フル代表で絶対的な地位を確保している。「結果を残した者が選ばれる」わけではない。

ユーロ2020に選出の「黄金世代」メンバー
2017年当時、U-20代表以上に英国内で「黄金世代」と期待をかけられていたのがU-17イングランド代表だ。17歳にしてマンチェスター・シティからドイツの強豪ボルシア・ドルトムントへ海外移籍し、すでにトップチームでも出番を得ていたのがジェイドン・サンチョである。彼のU-17W杯出場はドルトムントとの間で「グループステージ限定」との取り決めがなされていたほどだ。
2017年のU-17W杯、サンチョはグループステージ3試合で3得点を挙げてチームを去ったが、U-17イングランド代表は大会MVPに選出されるMFフィル・フォーデンの活躍で優勝。エースFWリアン・ブリュースターは準々決勝と準決勝で2試合連続のハットトリックを記録するなど、大会8得点を挙げて得点王。チームも大会全7試合で23得点を記録するなど、他国を圧倒する強さを見せつけた。
そんなスター軍団だったU-17代表から今回のユーロ2020に選出されたのは、フォーデンとサンチョの超逸材2人。U-20代表からは前述のカルバート・ルーウィンと大会中の負傷でメンバーから外れたGKディーン・ヘンダーソンの2人。2017年の育成年代をダブル制覇した両代表チームからの選出は僅かに4人となった。
他のユーロ2020メンバーに注目してみれば、GKアーロン・ラムズデール、DFベン・ホワイト、リース・ジェームズ、MFメイソン・マウントの4人もサンチョらと同世代で、加えて2018年まではアイルランド代表を選択していたMFデクラン・ライスと、すでにフル代表に定着してU-17W杯不参加だったFWマーカス・ラッシュフォードも同世代。極めつけは、彼らよりさらに若い2001年生まれのFWブカヨ・サカと2003年生まれのMFジュード・ベリンガムまでいる。イングランドの“超育成力”は恐ろしいばかりだ。
ユーロ2020の登録メンバーは26人。育成年代をダブル制覇した「黄金世代」メンバーはそのうちの僅か4人。これを見て育成年代の世界大会を強化の場としてどう位置付けるのか?ただ、彼等と同世代の選手が6人いて、年下も2人いることが重要な要素で、そこにはやはり国内リーグのレベルの高さがあると思われる。日本も2019年のU-20W杯へ久保とGK大迫敬介、MF安部裕葵の招集を見送ったが、Jリーグのレベルが欧州主要国に追いついて来た自負もあるのだろう。
以下に、2017年のU-20とU-17の両W杯登録メンバーの、当時所属していたクラブと現所属クラブを列記する。育成年代で世界王者になっても4年後の現在は下部リーグで燻っている者もいれば、育成年代では表舞台に立てなくても一流に成り上がった者もいる。やはり、国内リーグの充実と選手自身のキャリア選択が最重要事項であることは間違いない。

2017 FIFA U-20W杯(開催地:韓国)
イングランドU-20代表の試合結果
- グループステージ第1戦、VSアルゼンチン(3-0)
- グループステージ、第2戦、VSガーナ(1-1)
- グループステージ、第3戦、VS韓国(1-0)
- ラウンド16、VSコスタリカ(2-1)
- 準々決勝、VSメキシコ(1-0)
- 準決勝、VSイタリア(3-1)
- 決勝、VSベネズエラ(1-0)
- 【大会MVP】ドミニク・ソランケ
- 【最優秀GK】フリーデル・ウッドマン
イングランドU-20代表メンバー
背番号ポジション:選手名(当時所属クラブ/現所属)☆ユーロ2020登録◇フル代表歴あり
- 監督:ポール・シンプソン(U-20イングランド代表監督/2部ブリストル・シティ前暫定監督)
- 1GK:フリーデル・ウッドマン(ニューカッスル/2部スウォンジー・シティ[ローン])
- 13GK:ディーン・ヘンダーソン(マンチェスター・ユナイテッド/マンチェスター・ユナイテッド)☆
- 21GK:ルーク・サウスウッド(レディング/2部レディング)
- 2DF:ジョンジョ・ケニー(エバートン/セルティック[ローン])
- 3DF:カルム・コノリー(エバートン/2部ブラックプール)
- 5DF:フィカヨ・トモリ(チェルシー/ミラン)◇
- 6DF:ジェイク・クラーク・ソルター(チェルシー/2部バーミンガム[ローン])
- 12DF:エズリ・コンサ(チャールトン/アストン・ヴィラ)
- 14DF:カイル・ウォーカー・ピータース(トッテナム・ホットスパー/サウサンプトン)
- 15DF:ダエル・フライ(ミドルズブラ/2部ミドルズブラ)
- 4MF:ルイス・クック(ボーンマス/2部ボーンマス)◇
- 7MF:ジョシュ・オノマー(トッテナム・ホットスパー/フラム)
- 8MF:エインズリ―・メイトランド・ナイルズ(アーセナル/ウエストブロム[ローン])◇
- 18MF:キーラン・ドーウェル(エバートン/ノリッジ・シティ)
- 19MF:セイ・オジョ(リバプール/2部カーディフ・シティ[ローン])
- 20MF:オビエ・エジャリア(リバプール/2部レディング)
- 9FW:アダム・アームストロング(ニューカッスル/2部ブラックバーン)
- 10FW:ドミニク・ソランケ(チェルシー/2部ボーンマス)◇
- 11FW:アデモラ・ルックマン(エバートン/フラム[ローン])
- 16FW:ドミニク・カルバート・ル―ウェン(エバートン/エバートン)☆◇
- 17FW:ハリソン・チャップマン(ミドルスブラ/3部シュールズベリー・タウン[ローン])

2017 FIFA U-17W杯(開催地:インド)
イングランドU-17代表の試合結果
- グループステージ第1戦、VSチリ(4-0)
- グループステージ第2戦、VSメキシコ(3-2)
- グループステージ第3戦、VSイラク(4-0)
- ラウンド16、VS日本(0-0、PK5-3)
- 準々決勝、VSアメリカ(4-1)
- 準決勝、VSブラジル(3-1)
- 決勝、VSスペイン(5-2)
- 【大会MVP】フィル・フォーデン
- 【大会得点王】リアン・ブリュースター(8得点)
イングランドU-17代表メンバー
背番号ポジション:選手名(当時所属クラブ/現所属)☆ユーロ2020登録◇フル代表歴あり
- 監督:クーパー・スティーブ(U-17イングランド代表監督/2部スウォンジー・シティ監督)
- 1GK:カーティス・アンダーソン(マンチェスター・シティ/3部ウィコム)
- 13GK:ジョセフ・ブルシク(ストーク/3部リンカーン[ローン])
- 21GK:ウィリアム・クレリン(フリートウッド・タウン/3部ボルトン[ローン])
- 2DF:ティモシー・エヨマ(トッテナム・ホットスパー/3部リンカーン・シティ[ローン])
- 3DF:ルイス・ギブソン(エバートン/2部レディング[ローン])
- 5DF:マーク・グエヒ(チェルシー/2部スウォンジー・シティ[ローン])
- 6DF:ジョナサン・パンゾ(チェルシー/ディジョン)
- 15DF:ジョエル・ラティボーディエル(マンチェスター・シティ/2部スウォンジー・シティ)
- 18DF:スティーブン・セセニョン(フラム/2部ブリストル・シティ[ローン])
- 4MF:ジョージ・マクイクラン(チェルシー/チェルシー)
- 7MF:フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ/マンチェスター・シティ)☆◇
- 8MF:タシャン・オークリー=ブーゼ(トッテナム・ホットスパー/2部ストーク・シティ)
- 10MF:アンヘル・ゴメス(マンチェスター・ユナイテッド/ボアヴィスタ[ローン])
- 11MF:ジェイドン・サンチョ(ボルシア・ドルトムント/マンチェスター・ユナイテッド)☆◇
- 12MF:ナイア・カービー(クリスタルパレス/4部トランメル[ローン])
- 14MF:カラム・ハドソン・オドイ(チェルシー/チェルシー)◇
- 17MF:エミル・スミス・ロウ(アーセナル/アーセナル)
- 19MF:モルガン・ギブス・ホワイト(ウォルバーハンプトン/ウォルバーハンプトン)
- 20MF:コナー・ギャラガー(チェルシー/ウエストブロム[ローン])
- 9FW:リアン・ブリュースター(リバプール/シェフィールド・ユナイテッド)
- 16FW:ダニエル・ローダー(レディング/ポルト)