サッカー女子日本代表なでしこジャパン」への集中的な批判が後を絶たない。東京五輪の女子サッカー競技準々決勝で、日本はスウェーデンを相手に1-3と敗れて姿を消した。

確かに開催国である日本のベスト8敗退はいただけないのかもしれないが、FIFAランキング10位の日本が同5位で今大会の優勝候補でもあるスウェーデンに敗れるのは、悔しくも実に順当な結果である。

日本は「グループステージを3位でぎりぎり突破したぐらいのチームだから」との声も上がる中、グループGを3位で突破したオーストラリアはベスト4に進出し、3位決定戦をアメリカと戦う。絶対女王アメリカのグループステージでの成績は日本と同じく1勝1分1敗。そのアメリカを大会初戦で破ったのがスウェーデンだった。日本を下して盤石の強さを見せたスウェーデンは決勝まで進出し、その対戦相手となるのは大会初戦で日本と引き分けたカナダである。

最初から批判したいだけのような報道にはウンザリだ。「グループステージを3位でぎりぎり突破したくらいのチームだから」と低評価するくらいなら、なぜベスト8で敗退して集中砲火を浴びせるのだろうか?ここでは、なでしこジャパンの今大会の敗因や、高いパフォーマンスで際立った選手を改めて考察。また、なでしこ再建の参考にもなると思われる、五輪史上初のベスト4進出を決めたバスケットボール女子日本代表チームを詳しく紹介したい。

なでしこに必要なもの、バスケ女子日本代表にあり!五輪史初のベスト4進出チームと比較

敗因はコンディション不良と連携不足

今大会では、澤穂希らなでしこレジェンドたちの厳しい言葉がなでしこの試合が終わるたびに飛んだ。それは選手達の重荷やプレッシャーをさらに強めたに違いない。特に「球際で戦えていない、もっと戦え」の指摘には疑問を感じる。戦う以前の段階で苦労していたように見えるのは筆者だけだろうか?

現在のなでしこジャパンの選手達の多くは、9月から開幕する日本初の女子サッカープロリーグ「WEリーグ」のクラブに所属している。彼女らは昨年までは「なでしこリーグ」に所属しており、シーズン制の移行期で半年以上に渡って公式戦がない状態に陥っている。

代表強化試合を戦ってきたとはいえ、対戦相手は明らかに競争力の落ちる国。しかも1カ月に2試合では少なすぎだ。WEリーグで行われている「プレシーズンマッチ」では結果が何も問われず、公式戦の試合勘を補えるわけがない。結果、コンディション不良に陥っていた。

誰も指摘しないが、彼女たちは強いスウェーデンを相手にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)でPKを取り消され、逆に相手にはそれでPKが与えられて敗れたのだ。こんな状態でもぎりぎりの勝負まで持ち込めている内容には、ポテンシャルの高さを感じずにはいらない。それだけにトップパフォーマンスを発揮できずに敗退したことが残念だ。

また、「フィジカルで勝る欧米勢に技術や連携で対抗する日本」とよく表現されるのだが、筆者の目には現在のなでしこジャパンの連携力は乏しく映る。コンディション不良と連携力の低さがベスト8敗退の大きな要因だと考える。特に技術やテクニック面では、単純な精度というよりも「受け手の特徴や状況を考慮したパスが出せていたか?」「チームメイトと長所や短所を補完し合えていたか?」「マークの受け渡しは適切だったか?」どれにも疑問に感じるところだ。

なでしこに必要なもの、バスケ女子日本代表にあり!五輪史初のベスト4進出チームと比較

アグレッシブでクレバーな清水梨紗

そんな中、DF清水梨紗、MF杉田妃和、FW岩渕真奈、FW田中美南の4選手については、誰もが高いパフォーマンスを発揮し続けたと称えるだろう。特に右サイドバック清水梨紗の攻守に渡るアグレッシブかつクレバーなプレーは印象的だった。清水の存在によって、前方に位置する右サイドMFのポジションに入る選手のパフォーマンスが上がったことも挙げられる。

インサイド、アウトサイド、どちらのレーンでボールを受けても的確なプレーができる清水は、試合状況や自身の前方の選手の特徴に合わせてポジショニングをとっており、味方を最大限サポートしていた。代表デビューから間もないMF塩越柚歩や、左サイドでは苦戦し続けていたMF長谷川唯が右サイドに回ってきた途端にパフォーマンスを改善させたことは何よりの証明だ。清水のような考え方をする選手がもっと多く出て来て欲しい。

そういう意味では、清水と最も良い連携を見せ、右サイドMFなどで攻撃にアクセントをつけられるMF籾木結花のコンディションが定まらなかったことは攻撃のバリエーションを欠いた要因だろう。

前述の4選手や、MF三浦成美、GK山下杏也加、DF南萌華は味方のカバーやサポートを自分の視点だけでなく、チームとしての視点でプレーしていたように感じる。パス1つとっても相手のマークやプレスを自分に引き付け、パスの受け手に良い条件で供給できていた。このような選手たちを軸に新たなチームが形成されていくことを祈りたい。

なでしこに必要なもの、バスケ女子日本代表にあり!五輪史初のベスト4進出チームと比較

史上初ベスト4進出の女子バスケチーム

なでしこジャパンの再建へ向けて参考にして欲しいチームがある。五輪史上初のベスト4進出を決めたバスケットボール女子日本代表チームである。準々決勝ベルギー戦(8月4日)では最大13得点差をひっくり返し、ラスト15秒で大逆転勝利を飾った。準決勝では1次リーグで勝利しているフランスと対戦予定。もう一方の準決勝を戦うアメリカとセルビアと共に、メダルを懸けた白熱した試合が続く。

日本女子バスケは世界ランキングで10位。

準々決勝で下したベルギーは6位、準決勝で対戦するフランスは5位である。五輪6連覇中の絶対女王アメリカが1位で、セルビアは8位。女子サッカーの世界ランキングと立ち位置が共通する部分は多い。

また、なでしこジャパンが欧米勢の高さや強さに屈したように、女子バスケ界でもその劣勢は変わらない。むしろフィジカルの差は女子サッカーよりも大きいくらいだ。193cmという圧倒的な高さを持つ日本女子バスケの絶対的エース渡嘉敷来夢は、昨年末に右膝前十字靭帯断裂の大怪我を負って回復も間に合わずに今大会のメンバーから外れている。長くアメリカでプレーして来た渡嘉敷は唯一世界の強豪国を相手に高さで互角に渡り合える存在だった。(ちなみに渡嘉敷は、元なでしこジャパン川澄奈穂美と同じアメリカのシアトルでプレーしていたこともあり大親友)

2017年から代表チームを率いるトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ=サッカー界では「監督」に相当)は、その渡嘉敷にさえもインサイドで高さを活かしたポストワークをこなすのではなく、アウトサイドから3ポイントシュートを狙うことを薦めていた。コート内の5人全員がアウトサイドに位置する場面がある独自の戦術を浸透させて来たのだ。渡嘉敷の欠場が決まっても、穴を埋めるのではなく戦術的に先鋭化させたことが功を奏している。

バスケでは、3ポイントラインより外の選手をフリーにさせるためには、インサイドへ果敢にドライブ(ドリブルのこと)で切り込み、相手を引き付けるプレーが必要不可欠である。そして、切り込んだ選手がそのままゴール下までドライブして自ら得点を挙げて相手の脅威になれるかどうかも大きなポイントである。

その大役を担う司令塔の町田瑠唯は、今大会4試合で51アシストを記録。1次リーグ第3戦のナイジェリア戦では五輪レコードタイとなる15アシストを記録するなど、目下、今大会のアシスト女王である。身長162cmで小柄な町田はボールに触る前からドライブする体勢に入っている。数々の写真に収められている通り、躍動感のあるドライブは膝から下の可動域が極端に広く、1人だけ風に乗っているかのように見える。

日本国内の女子バスケットボールトップリーグ「Wリーグ」でも4年連続のアシスト女王である町田は「自分でシュートを決めるつもりでリングにドライブしてこそパスが活きる」とアシストの秘訣について言及する。変幻自在のパスでアシストを量産するが、プレースタイルのベースにあるのは相手のマークを引き付けるスピーディーで鋭いドライブだ。課題の得点力は未だに解消できてはいないが、試行錯誤して一巡した末に現在の町田がある。原点回帰しただけでなく引き出しが増え、味方を活かすためのプレーも増えている。

なでしこに必要なもの、バスケ女子日本代表にあり!五輪史初のベスト4進出チームと比較

これをやれば絶対に世界で勝てる!

バスケ女子日本代表チームをまとめるのは主将の高田真希。オールスターゲームのハーフタイムに食事宅配サービス「ウーバーイーツ」配達員のコスプレをして差し入れを運んできたり、「ゲームを作れるセンター」とプレースタイルを表現されたことに対して「テレビゲームを作ってる工場みたい」と発言するようなお茶目な一面を持つ。

中学まで習っていた空手では黒帯という武闘派の高田は、今大会でもゴール下で圧倒的な劣勢である日本でチーム最長183cmの身体を投げ出して攻守に奮闘。ここぞの場面では相手を背負ってでも強引にシュートを決めている。

また、昨年4月にはスポーツイベントなどを企画運営する「株式会社TRUE HOPE」も立ち上げた“社長”でもある。

そんな高田は「トム・ホーバスHCのバスケをやれば絶対に世界で勝てる!」と宣言。来日30年が経過したホーバスHCも「みんなならできると思うよ!ワタシ信じてる!」と語りかけるような言葉で試合中のタイムアウト時にもチームを熱くさせる。主将の高田の周りには自然とチームメイトが集まり、全員がホーバスHCと仲間を信じて一丸となって戦っている。

フィジカルで圧倒的に不利な日本は、試合のペースを上げることで他国との違いを作っている。ホーバスHCが「みんなは世界で1番練習してきた」と称えるように練習量やスタミナを武器に、2度追い、3度追いは当たり前。サッカーで喩えると「インテンシティ」に相当する部分で勝負している戦い方は、なでしこジャパンだけでなく、男子のサッカー日本代表の参考にもなるだろう。

何よりも彼女たちは強敵に対して楽しそうな表情でプレーし、観ていて爽快なチームである。かつてのなでしこジャパンも、強敵相手に思い悩むよりも楽しみにしていたように見えた。なでしこジャパンが忘れてしまっているものを、バスケ女子日本代表チームは持っているのではないか。

東京五輪の女子バスケは8月6日に準決勝(13:40~アメリカ合衆国 vs セルビア)(20:00~日本 vs フランス)が行われ、勝者は8月8日の決勝へ。サッカー競技の敗退直後で気持ちの切り替えができない時には、女子バスケを観てみるのを熱烈におススメしたい!

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