東京五輪サッカー競技は、男子のU-24日本代表がベスト4に進出したこともあり、全競技中の最高視聴率を記録するなど盛り上がりを見せた。日本は準決勝でスペインに敗れ、3位決定戦でもメキシコに敗れて大会4位に。

森保一監督には、決勝トーナメント以降にチームの勢いを停滞させた采配の責任を問う声も強い。

しかし、男子サッカーにとって五輪は育成年代の大会である。久保建英は3位決定戦の敗北であれだけ声を出して号泣した悔しさをフル代表で晴らしてくれれば良いし、最高の経験を得られたと思う。森保監督にしても、このような年齢制限のある大会では、魔法のソースで勝利だけかすめ取るような采配ではなく、素材の味で勝負するようなチーム作りで挑んだことが適切だったと思う。結果、客観的には順当な結果だったと考えられる。

ここでは東京五輪の男子サッカー競技における全体的な結果を振り返りつつ、常に問われる欧州勢の「五輪軽視」について改めて考察しよう。さらには五輪サッカーの年齢制限の変更を提案したい。

語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

東京五輪の「4強」は予測通り

大会を通しても、ブラジル、スペイン、メキシコ、日本が結果的に「4強」となったのは、東京五輪のメンバー選考やチーム作りの積み上げを考えれば順当だった。欧州の強豪であるドイツとフランスは、日本行きの飛行機が飛び立つ寸前までメンバーの招集辞退が相次ぎ、来日したのも遅かった背景がある。

ドイツはシュテファン・クンツ監督が「100人に連絡した」にも関わらず、GK3人を含む18選手しか揃えられず。フランスもキリアン・ムバッペやエドゥアルド・カマヴィンガを招集できず22名に拡大された選手枠を余らせたままで大会に臨んだ。結果、両国共にグループステージで敗退。フランスは日本に0-4で大敗し、最後はラフプレーで退場者まで出す醜態を晒して大会を後にした。

同じく、3月に日本でU-24代表同士の強化試合を戦ったアルゼンチンも、当時のメンバーから弱体化した陣容しか揃えられず、決勝トーナメントへ進むことすらできなかった。

一方、決勝進出したスペインのチームには、東京五輪直前に行われていた「ユーロ2020(UEFAサッカー欧州選⼿権、EURO)」に出場しベスト4まで進出したフル代表から6名の実力者が揃った。スペインでは「国民的スポーツ行事には選手を義務的に参加させなければいけない」“スポーツ法”という法律が有効であるためだ。(ただし、この法律はスペイン国外のクラブには適用されず、イングランドやイタリアでプレーしている選手の招集は叶っていない)

こうした理由でこの「4強」となる結果については、当メディアでも2019年にアビスパ福岡で指揮を執ったイタリア人監督ファビオ・ペッキア氏の通訳を務めたウッケッドゥ・ダビデ氏が予想している(『東京2020男子サッカーを分析予測。優勝候補は?日本に銅メダルの可能性あり?』)。また、同氏による『五輪男子サッカー全チームの市場価値ランキング』も興味深く、大会総括のお供に再読していただきたい。

語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

南米勢の五輪に対する本気度

こうした背景の中「欧州は五輪を軽視しているから日本も重視しないでいい」というニュアンスの論評があることがいつも気になるところだ。まず、日本は欧州圏ではない。そして南米勢は五輪を軽視していない。

南米勢は、過去にアルゼンチンが稀代の司令塔ファン・ロマン・リケルメやリオメル・メッシを擁して2008年の北京五輪を制したり、ウルグアイも2012年のロンドン五輪でオーバーエイジとしてルイス・スアレスとエディンソン・カバー二の欧州主要リーグ得点王コンビを招集するなどしており、五輪に対する本気度は高い。

ブラジルでは、ネイマールがロンドン五輪と母国ブラジルのリオデジャネイロ五輪で連続出場している。日本が「マイアミの奇跡」で勝利したアトランタ五輪時にもフル代表のエース格であるFWべべットや、その後すぐにバロンドールを受賞することになるMFリバウドがオーバーエイジとして参戦していた。今回はコロナ禍もあってアルゼンチンがメンバー選考で苦戦したが、南米勢はメダル獲得を常に狙っている。

では欧州勢はなぜ五輪を軽視するのだろうか?

語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

ユーロ(UEFA欧州選手権)の存在と拡大

欧州勢の五輪軽視最大の理由は、五輪と同じ年に開催されるユーロ(欧州選手権)の存在が大きい。FIFAワールドカップよりもコンペティション的にハイレベルであると思われるユーロはさらに進化を続けており、4カ国で開催された第1回大会から、1980年大会には8カ国、1996年には16カ国、2016年大会からは24カ国にまで大幅に拡大されてきた。ユーロでこなす試合が多くなるにつれて消耗が激しくなり、直後の日程である五輪は重視すべきではないとの欧州勢としての当然の判断が強まっている。

実際、五輪参加国は全16カ国だが、東京五輪の欧州枠は4カ国のみだった。一方、直近の2018ロシアW杯は参加全32カ国中の14カ国(開催国ロシア含む)が欧州の国と地域で埋まっている。UEFA(欧州サッカー連盟)自体が五輪を重視していない方針が貫かれていると思われる。

もちろん、五輪はFIFA(国際サッカー連盟)やUEFAの管轄ではなく、IOC(国際オリンピック委員会)が主催する大会であるため、選手の拘束力が各国のサッカー協会にないことも大きいだろう。

語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

非欧州圏の日本はどうするべきか

つまりユーロというサッカー界最大のコンペティションに臨む欧州勢は、五輪を重視できない理由がある。南米勢はメダル獲得に貪欲であり、アジアでは特に韓国が義務化されている兵役免除のためもあって必死で五輪に挑んでいる。日本はどうするべきか?

もちろんユーロに関わらないアジア勢の日本は、五輪を重視すべきである。今回は開催国だからこその歴代最強メンバーだったが、基本的には毎回ベストメンバーを揃えるべきだ。なぜなら以下のような理由もあるためだ。

欧州は五輪を軽視しながらも、五輪の結果は高く評価する。特に就労ビザ習得の難易度が高い英国圏への移籍では、五輪の結果により特例が下る可能性も高くなり、クラブ側も英国政府に対して強く要求できる実績になる。

例えばU-24日本代表で東京五輪へ参戦し、3位決定戦でも最後に得点した川崎フロンターレ所属のMF三笘薫。プレミアリーグのブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンへの移籍が内定していると報道されているが、彼にはフル代表経験がないことから英国でのビザが発給されず、ブライトンのトニー・ブルーム会長が保有するベルギー1部のロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへ期限付き移籍する流れになるという。もし五輪でメダルを獲得できていたら、特例のビザ取得で即プレミアリーグでプレーできた可能性もあるのだ。

語られない欧州サッカー界「五輪軽視」の理由と年齢制限変更の提案

移籍も軽視の発端に。五輪年齢制限の変更を!

注目すべきは、今回ドイツで頻繁に起きた選手の五輪辞退理由として「所属クラブは合意しているも、直前に決まった移籍先クラブが五輪参加を拒否している」「移籍先でポジションを得るため」などといった移籍に関わるものが多くあったことだろう。

サッカー界の移籍市場は、1995年のボスマン判決により「労働者の権利や自由」などが尊重され、EU(ヨーロッパ連合)内の移籍が加速度的に大きくなり、現在の大金が飛ぶ市場の姿になった。一方、通常の五輪の23歳以下(東京五輪は1年延期されたことで24歳以下)の参加資格制限が初めて導入されたのは、1992年のバルセロナ五輪である。つまり、五輪の年齢制限はボスマン判決以前のルールであり、現在の移籍市場を踏まえたものではない。

23歳という年齢は、選手として最も大きな移籍を決断するターニングポイントとなる時期だと言える。欧州主要国出身の選手はビッグクラブに行けるか中堅以下のクラブに留まるかどうか。中堅以下の国でプレーしている選手にとっては、主要国リーグに行けるかどうか。もちろん日本人選手にとっても欧州移籍等の決断にも関わる重要な年齢だ。

よって、現在の移籍市場の流れを組んで、改めて五輪の年齢制限をは再検討されるべきではないか。選手を幅広く招集できるように年齢制限を25歳に引き上げたり、あるいはよりサッカー界が育成年代の強化を重視したいのならば21歳以下に引き下げたりする必要があるのではないだろうか?

「欧州勢は五輪を重視しない」ことで興ざめになる五輪サッカー競技を盛り上げるためにも、年齢制限の変更を提案したい。

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